⑦一難去ってまた一難

岩壁をいあがり、久方ひさかたぶりの海面へ浮上した東雲しののめは、ぜいぜいと荒い息を繰り返した。


かじかんだ手を叱咤しったし、なんとか陸地へと身を横たえる。

しとどに濡れた体に生温かな空気がまとわりつき、少しずつ血の気が戻っていった。


「はっ、鬼のお次は海坊主うみぼうずってか? つくづく油断ならねェな、ここは」


なんにしても気色の悪い化け物だった。

東雲しののめは上体を起こすと、ずり落ちる帯布を片手で掴んだ。そのひょうしに、帯の隙間から数粒だけ残った種が転がり落ちる。


瓢箪ひょうたんからこま、ではないが、ちょっとした欲をかいて持ち出した盗品のお陰で、思わぬ命拾いをした。


淡く透きとおるそれを指先でつまんで、しげしげと眺める。

一体これはなんの種なのか。


砦の奥底に隠されていたのだから、価値あるものだとは思っていたが、まさか得体の知れない化け物すら脇目もふらず欲しがろうとは……。


そんなとりとめのない思考をさえぎるように、どこからともなく悲鳴が聞こえた。

この耳ざわりな甲高い声は、青鬼の少女に違いない。


「いかん、金ヅルが」


東雲しののめは周囲を見まわした。


陽は釣瓶落つるべおとしのごとく暮れ、薄紫の闇が数瞬ごとにその暗幕をおろしている。


どうやら化け物と取っ組みあっている間に、島の裏側まで流されたらしい。

レイラの無駄によく通る声が、船と衝突した島の正面付近から響いていた。


東雲しののめこけやシダに覆われた岩壁を器用に跳び越え、ぐるりと反対側へまわった。


海面からやや離れた位置に、ひらけた場所がある。そこに黒々とした人影がうごめいていた。


「なんじゃアレは……」


彼女たちもまた、得体の知れない生き物と遭遇していた。


河童カッパ……、いやタコか?」


しなびた海藻が絡みついたタコの頭部に、金属の防具をつけた人体。

青白い手には三つ又のもりが握られ、鋭い切っ先がレイラたちを品定めするように取り囲んでいた。

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