⑥漆黒の怪異
海の
心の臓がひゅっと収縮し、体温が瞬く間に根こそぎ奪われていく。
歯の根が噛みあわず、口から
島の側面を削らんばかりに襲いくる激流に流されまいと、
指先はすでに氷のように感覚がなく、海面へ戻りたくとも、上層から圧し潰すような
船が粉々にされた今、手を滑らせ
だがしかし、その冷静な判断が新たなる災いを招いた。
視界の端をかすめた異変に、
暗い海の底から、ドロドロとした黒いヘドロ状のなにかが、急速にこちらへと迫っている。
デカい。魚のように身をくねらせ、
飛ぶようにこちらへ接近してくる化け物に身構えれば、突然、泥を
弾かれたように
海流に逆らわず深層へ沈んだ次の瞬間、ちょうど首があった位置の岩壁が、真一文字に鋭く斬りつけられる。
刻まれた傷跡の深さに
一瞬でも判断が遅ければ、頭と胴がおさらばしているところだ。
急いでさらに深く潜り、長い爪が届かない化け物の腹の下へまわる。
するとまたしても、ぼこぼこと腹の表皮が
驚いたことに、それはまるでいくつもの人の顔のようであった。
どろりと溶けたのっぺらぼうのような顔が、一斉になにかをしゃべりだす。
意味のある言葉ではない。
騒ぎを聞きつけ、化け物の頭部がぐるりとこちらを向いた。
海水を掻き分け、捕らえ損ねた獲物を逃がすまいと、黒光りした爪が伸びてくる。
ハッと我に返り、岩壁づたいに上昇しようと身を
しかしその身体を、新たに生えた
間一髪、両腕を首まわりに差し込み窒息はまぬがれたが、気持ちの悪いぶよぶよとした触手は容赦なく
身じろぐも、そのあまりの強い力に抜け出せそうにない。
ミシリ、と肋骨が悲鳴をあげた。
目前まで迫った爪が振りかぶられ、再度
突っぱねるように膝を伸ばせば、爪はなおも
ここで足や腹を斬れば簡単に
しかしそんなささいな幸運など、つかの間のなぐさめにしかならない。
身体を絞めつける
息がもう保たない。
(っ、くそッ、死んでたまるか……!)
その時、ずるりと腰の帯布がゆるんだ。
内側から、淡い輝きを放つ小さななにかがぽろぽろと
砦の地下からくすねた宝石のような透明の種が、激しい
すると化け物が急に動きを止めた。
躰に浮き出たすべての顔が、一斉に沈みゆく種へくぎづけになる。触手が離れた。
化け物はもはや
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