④迷路海流
それからどれくらいの時が経っただろうか。
陽の光が届かない
霧の内側は、
なんとも
この場に京の
今では、船の縁に頬杖をついて、かわりばえのない光景をなにをするでもなく眺めている。
からりと乾いていた船板はしっとりと湿って、髪の毛先にもこまかな水の
すべての景色が水墨画のようにぼんやりと
会話は絶えて久しく、舳先が波を掻きわける音だけが、終わることのない
誰も口に出しはしないが、彼らの頭には、まったく同じ内容の
時間が止まってしまったような静寂は、彼らの精神をじわじわと
しかし、そんな息のつまる状況下にあっても、
忍者とは、読んで字のごとく〝
針の
つまるところ、このような停滞は慣れっこなのだ。
しかしながら、だらけきった体勢に反して、黒々とした鋭い
最低限の食料と水さえ持たない彼らには、干からびるよりも前に陸地へたどり着くことだけが唯一の活路である。
――逆にいうと、他にできることも特にないのだ。むしろ余計な体力を使わないよう、極力動かずしゃべらない方が良い。
それは他の二人にもわかっていた。
しかしなにもすることがない状態というのも、それだけで神経を疲弊させる。
先の見えない絶望的な航海である。不安が胸を
しかしその表情は晴れない。
「そんな顔するくらいなら、脱走などするんじゃない」
なんだか無性に気に入らなくて、あけすけな台詞が飛び出した。
「うるさいわね。――私だって、覚悟は決めているつもり。あのまま
「…………」
言いたいことはよくわかる。しかしそんなことを言ったところでどうなるというのだ。
彼女の行動は良くいえば決断力があり、悪くいえば短慮で
本人はいろいろと悩んでいるつもりなのだろうが、若さゆえの考えなしな言動が目立った。
その証拠に、命懸けで国を出たくせに、今頃になって死の影におびえている。あきれるほど
しかしその
だからこそ、暗くしおれている少女は見ていて面白くない。
「生き残りたいなら、うつむいている暇なんかねェぞ」
そしてすぐに、細長い物をレイラへ投げてよこした。
「……なによこれ」
それはなんの
「やることねェなら釣りでもしてろ。馬鹿な魚なら引っかかるかもしれん」
よく見ると、先端が綿毛のようにけばだたせてある。
餌がないため、虫を
レイラは、こんなもので釣れるのかと、疑わしげに紐をつまんだ。
まあ釣れねェだろうな、とは口にはすまい。
この際、釣れる釣れないはどちらでもいいのだ。ただ
しかし、疑うことを知らない純粋なネズミは、そらぞらしい
「さすがはしのにょめどにょ!」
そして噛んだ。
――地獄の住人にとって、この名前はそんなに言いづらいのだろうか。
トトはまたしても恩人の名前を間違えたことに落ち込み、そしてレイラも、先ほどの失態を思い出したのか、きまり悪そうに明後日をむいた。どちらも耳が赤く染まっている。
微妙な空気が流れた。
「まあ、うん……、もう好きなように呼べ」
狙った結果ではないが、これはこれで、ありだろう。
意図せず
「では、シノ殿と!」
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