③海霧
さて、情報源といえば――。
「おふた方、どうやら困ったことになりましたぞ」
「……おう、ネズ公、いたのか」
「ずっとおりましたが!?」
ひょっこりと現れた小さな毛玉は、いつの間にやら立派な旅装束に身をつつんでいた。
赤鬼に奪われていた私物を回収したらしい。
落ち着いた緑の
自らを戦士と
笑ってしまうほど様になっている。
「いやさ、姿が見えんから、てっきり風にでもあおられて海へ落ちたかと思ったぞ」
それは心配をおかけして、とトトはかしこまって頭を下げた。
軽い冗談のつもりだったのだが、真にうけたようだ。
仰々しいほどの礼節をもって
「なにかあったか?」
「実は……」
どうやらこの抜け目ないネズミは、短い時間にも骨おしみすることなく、船内を探っていたらしい。
この手狭な帆かけ船には、屋根つきの小さな船室が備えられている。
先ほど
「食料はおろか、水もほんのわずかしか積まれておりません。その上、
出航準備前の船を強奪したのだから当然である。
あの大騒動の最中そこまで気をまわす余裕はなかった。
「ようは西へ行けば良いんだろう。おおまかな方角さえ確かめてりゃあ、いずれはどっかに流れ着くさ」
「……馬鹿ね。そんな適当な航海で
レイラはへたりこんで頭を抱え、トトも
「どういうこった」
「
「あー……、そりゃあまた……」
ようやく事態の深刻さが伝わった。
なるほど、食料も水もないとなれば、永遠といわず数日が生きていられる限度であろう。
「つまりあれか、遭難
なかなかどうして、前途多難である。
「
捕縛されていた青鬼たちが乗り込んだ船は、こちらのものより規模の大きな帆船だった。もしかすると、それなりの備えが積まれたままになっていた可能性がある。
すがるような思いで、二人と一匹はそろって
つい先ほどまで、先行した帆船がそちらの方角に小さく見えていたはずであった。
しかしその時になって、彼らは海上の様子がおかしいことに気づく。
望みの
太陽の位置から判断しても、進路はまっすぐ西へ軌道をあわせたままである。
「なんだありゃあ……」
おそらく青鬼たちの船は、あの霧の帯のむこう側へ隠れてしまったに違いない。
「思い出しましたぞ……」
果てしなく続く冬の山脈のような水平線を見据えて、ネズミが静かに言葉を
「
やがて、彼らを乗せた小さな帆掛け船もまた、分厚く渦巻く霧の中へと飲み込まれていった。
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