②目指すは西大陸
「そういや、お前さん名は?」
こんがらがった疑問の山はひとまず
少女は数秒口をつぐんでいたが、やがてこりかたまった言葉を噛んでほぐすように呟いた。
「……レイラ。アンタは?」
「
「ふーん、しのにょ……っ」
ぱっ、と少女の白い頬に
思わず
途端、少女の瞳に反抗的な色が戻った。
「変な名前、言いづらいわ」
「お前さんが舌ったらずなだけだろう?」
「っ、やっぱり嫌なヤツ!」
なおもニヤニヤとからかえば、少女はたちまち機嫌を悪くしてそっぽをむいた。
ネズミとは違う方向で態度に出やすい性格のようだ。
「嫌なヤツついでに、ほれ」
「……なに?」
「報酬じゃ、
「まだよ。まだ渡すわけにはいかないわ」
「おいおい、話が違うぞ」
「砦から逃がしてくれたことには礼を言うけど、まだこの近海には赤鬼の船が網を張っているの。無事に
「ゆうら……?」
「……アンタまさか、
少女はあきれて尋ね返した。
「お前さんらが鬼の国から逃げてきたということは知っているぞ。その〝ゆーらへいむ〟という国を目指しておったのか?」
「そうよ。私たちの故郷
レイラはためこんだ一生分の
東大陸では、赤鬼以外の種族はすべて下層民としてあつかわれる。
彼らは幼いうちから過酷な労働に従事させられ、生きていくために必要最低限の衣食住は保証されるが、怪我、病気、老いなどで働けなくなれば容赦なく切り捨てられる。
未来に希望などなく、ただただ同じ毎日を繰り返し、死を待つだけ。
そんな環境から逃れるために、少女は命を
多種多様な種族が抑圧されることなく暮らしているという、豊かな土地の噂を信じて――。
「だから、そこへ着くまでは契約続行よ」
「……仕方ねぇな」
乗りかかった船である。
話の真偽は別にして、
海上では金の使い道もないことだし、情報源となる彼女といたずらに対立するのは得策ではない。そう判断したのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます