⑥隠し部屋


青白い石の光に照らされた上階は、せまい踊り場のような場所だった。

短い階段の上に、粗雑なつくりの石扉がある。東雲しののめは用心深くそれに取りつくと、極力音をたてぬよう神経を尖らせながら押し開いた。


たてつけの悪いそれが、ほんのわずかに傾いた時――、一条の光が差しこんだ。


さらに開けば、すぐかたわらに燃えさかる篝火かがりびがあった。じんわりと汗がにじむような熱気とともに、新鮮な空気が肌をなでる。

直感的に地上へ出たのだとわかった。


扉のむこう側は、石造りの細長い通路になっていた。

どこからか流れてくる風にまぎれて、かすかにいそのかおりがする。

海が近いのかもしれない。


誘われるように外へと足を踏み出し、扉を閉めようとした直後、ふいにその手が止まった。


「こいつァ……」


東雲しののめは怪訝な面持ちで眉根を寄せた。

再び腕に力をこめると、扉はまるでそこに存在しなかったかのように、左右の壁とぴったり一体化した。――いわゆる隠し扉というヤツである。


扉の外側は、通路の白い石材とまったく同じ様式で作られていたのだ。


「……あー」


これはマズイ、としのびの勘が警鐘を鳴らした。

はからずも、彼が通ってきた地下は隠し部屋であったらしい。


誰が、どのような意図でこの空間を使用しているのか、という疑問はひとまず置いておくとして。通常こういった場所の周辺は、警戒が厳しいのがお約束である。


これは即刻立ち去るべし、と東雲しののめは足早にこの場を離れた。

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