第10話 『※9話 フェンリルを呼ぶ』

『※9話 フェンリルを呼ぶ』


◇ムイト国 草原付近




 モチブリッジで作った橋をキアラも走って渡ると、続けて冒険者も後から橋を使うのを決める。


 トニックの後を行かずに俺の方を選択したのだった。


 実際に冒険者が10人、20人と橋に乗った状態でも橋は壊れることなく、揺れるここともなく、むしろ楽しんで歩いていた。


 中には水を飲みながら歩く余裕もあり、全員が渡りきる。




「すげー農民タケダ」


「タケダってFランク農民なのに、凄い!」


「コメから作ったらしいが、よくわからないが、優れた橋だぜ!」


 


 橋は渡りきると、Fランク農民タケダとして絶賛する声を溢れ、それも最初は批判的だった者が反対に高評価しだした。


 特にモチブリッジについては賞賛される。


 










◇橋の下(三人称)




「トニックさん、あれを見てください、橋です、いきなり橋が出来ましたよ!」


「なんだ!」




 タケダとキアラ姫、それに冒険者達は、モチで作られた橋を渡る。


 橋の下にいて、必死に降りて行ったトニックの仲間が、橋を作られたのを発見し報告をした。




「降りる前はなかったはずです。きっと上にいた誰かが橋を作れる魔法や、スキルを持っていたに違いありません」


「クソッ、いまさらもう遅いだろ、俺達は下まで降りた。あとは、向こう側の崖を登るだけだ」




 下まで降りたトニックには、いまさら引き返しても、先に進み崖を登るのも同じ、そのため登るしかなかった。




「あなたの判断を信じなければよかったわ」


「黙れダイア、勝手に俺についてきたのだろう」


「今頃はみんな橋を渡りきって平原を進んでいる。ケンカしている場合じゃない。俺らは取り残されているのだ」




 この地点ではトニック達は、誰もが橋を作ったのはFランク農民のタケダとは想像もしていなかった。




「そうだなスマッシュ、先に進もう」


「ふん、スマッシュの方が役に立つ」




 ケンカしていたトニックとダイアを無視して先に進もうとしたスマッシュに、トニックは冷静さを取り戻し、ダイアはスマッシュの後を追った。


 フェンリルの爪で作った崖はかなり深く、登るのは大変な労力を要した。














◇平原




 フェンリルの作った崖を降りたトニック達を完全に無視して前進している。


 頭にトニックのことなど一ミリもなく、考えているのはフェンリルの恐ろしく鋭い爪で引っかきたのだと推定した。


 なぜなら橋を渡る最中に、崖の表面を観察したところ、爪のようなもので引っかかれたあとが見て取れたからである。


 この時にフェンリルが足の爪でやったものだと確信したのだったが、俺以外のキアラと冒険者は誰も気づかないでいて、楽に渡れたと騒いでいた。


 橋を渡りきり、そのままギルドから伝えられた地点、フェンリルが発見された付近が目的、その方面に向かう。


 恐ろしく強い魔力、それも元勇者で最強の俺ですら危険を感じるほどの強い魔力、それが皮膚に直に触れ、フェンリルが近くにいるのを直感させた。


 俺以外の者は、誰もフェンリルの魔力に感じ取ることなく進んでいて、誰もが先にフェンリルを倒してやろうくらいに考えていた。


 










◇崖 (三人称)






 タケダがだいぶ先に進んでいるところ、トニックはやっとのこと崖を登りきり終える。


 その時にはタケダ達の冒険者の列は小さく見える程度、遅れを取った感は否めず、焦りしかなかった。




「冒険者の列はかなり先にいる。急がないと追いつけないぜ」


「ああ」


「ああ、じゃないわよ、あなたのせいよ」


「そうだよ、あんたが悪い」


「トニックさん、今回はフェンリルの討伐は諦めるしかないかもな」


「わかった。俺に考えがある……」




 後方になった現状に不満なダイアがトニックに不満をぶつける。


 トニックの仲間も不安に、フェンリルを討伐されるのを先越されると思い、トニックに対して不信感すら抱くのもいた。


 不信感を感じたトニックはこのままでは間に合わない、そこである考えを持った。




「考えとはなんだ。教えてくれ」


「これだ……」


「まさか、それは……魔物肉か」


「そんなのどうする気だ?」




 トニックが手にしてみんなの前に出したのは魔物肉。


 魔物肉とは、遠くにいる魔物を、独特な魔物が好きな臭いで引き寄せる効果を持つアイテム、余りにも強い効果のため、使い際には気をつけないと魔物が集まり過ぎてメンバーが全滅する。


 犠牲者が大量に出るといったデメリットがある一方、魔物を短時間で大量に倒せ、一度に経験値、素材、魔石、が集められる利点もある。


 これが魔物肉の特徴であるからトニックが出したのにショックを受けた。


 なぜならフェンリルだけでなく他の魔物まで引き寄せるからで、今回はフェンリルがいる地点も把握しており、特に魔物肉を使う理由はなく、トニックのやりたいことに疑問をつけた。




「こうするのさ!」


「まさか!」


「トニック!」




 トニックが魔物肉を使用すると、魔物肉のアイテム効果である独特の臭いが周辺に漂う。


 フェンリルを呼ぶのが確実、どこにいるかわからない、近くにいたらやって来る。


 トニックの仲間は辺りにフェンリルがいるかを首を振って探した。


 












◇平原(三人称)




 フェンリルは平原の静かな草の上で寝転んでいて、うたた寝していた時。


 鼻の嗅覚を刺激する、フェンリルの特に好きな臭い、肉の野生的な臭い、肉好きな魔物が好きな臭いだった。


 うたた寝から目を覚ますと、前足をピンと伸ばし、鼻を臭いのする方に顔を向ける。


 臭いのした方はフェンリルが自分の爪で引っかいた場所に近かったから覚えていた。 前足を一気につき出し、鋭い反応をし、宙を飛ぶようにして臭いのもとへと進んだ。


 










◇崖(三人称)




「魔物肉か……面白い、フェンリルを狩るのは俺だ。先に行った奴らに狩らせるよりはいいぜ」




 心配する者とは逆にスマッシュはフェンリルを呼んだのに歓迎で、誰かに狩らせるよりは死ぬ確率が高くても戦いたいというのがスマッシュの考えだった。


 


「…………あれ、見て……」


「速い……速いぞ、フェンリルか!」




 遠くから森の木々をなぎ倒してくる魔物が、ダイアの言った方向から迫ってくるのがわかる。


 それも恐ろしく速い、普通の魔物の進む速度ではない、ダイアはフェンリルの予感に身震いしていた。




「フェンリルだ、あの獣の姿はフェンリル!」


「みんな防御しろ!」




 トニックの掛け声と同時にフェンリルはトニックのすぐ手前まで駆け足でやってくる。


 鼻で魔物肉の臭いを探して、魔物肉がトニックの手にあるのだとわかると、トニックを獲物として認識した。




「トニック危ないぜ、魔物肉を離せ!」


「ほらよっ、フェンリル!」




 フェンリルの顔に向かって魔物肉を投げると、魔物肉の肉の塊の方に反応し、両目をとらえると、口を開けて魔物肉を飲み込んだ。


 魔物肉には臭いがあるが、食べでも味はしないのを知っていて投げると、フェンリルは魔物肉を察知して、口を開け飲み込んだ。


 


「今だ、みんなフェンリルに攻撃を!」




 魔物肉に気を取られているのを見てスマッシュが掛け声をし、いっせいにフェンリルの顔、胴体、足に剣での攻撃を行う。

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