第9話 『※8話 モチブリッジ』

『※8話 モチブリッジ』



 50人の列となるとかなり長い列となり、俺の目にも何かあっても見えなかったので、途中の列にいる冒険者に話しかけてみたところ、




「前が何かあったのか?」


「ああ、平原に行く道に問題が出たらしい」


「どんな問題か」


「今、聞いた話では、平原へと続いている道が溝が開いていて先に進めないとか」


「溝が……」




 話しかけてみたところ、溝が開いているから進めないということで、俺の考えにはない答えで、魔物がでたとか、道に迷ったとか、行き止まりとかかと考えていた。




「タケダ様、溝て言われてもわからないから、直接見に行きましょうよ」


「フェンリルがいたらどうする」


「やっぱり最後尾がいい!」


「先頭まで行こう」




 溝の大きさも考えてみると、どの程度の大きさなのか、先に進めない大きさなのか、初めから溝はあったのかと考えた。


 列の一番先頭まできたところでギルドで会ったトニックがいて、溝の前に立っていた。


 確かに溝があり、先に進めないのは理解できた。




「大きい溝です、しかも深い、まるで谷ですね」


「落ちてみるか」


「タケダ様、お一人で!」


「向こう岸までジャンプして届く距離じゃないな」




 溝とは言え、深く裂かれており、それがずっと一直線に渡り掘られているから、谷のようになって、反対側に渡るには橋がないと無理な距離となった。


 


「どうするトニック、これじゃ渡れないぜ」


「ああ、こんな谷みたいな溝は知らない、以前にはなかった。いきなり掘られたとしか考えられない」


「帰るか?」


「バカ言え、谷の向こうはフェンリルがいるのだ。ここまで来て帰れるか」


「それじゃあ、渡る方法を教えてよ」


「うるせーダイア、お前こそ渡れよ」




 立ち止まったトニックとダイアは先に進めないので、お互いにケンカが始まり、スマッシュはただ見ていた。


 両手にはまたも肉とパンを持ち食べていた。


 やはり食べながら戦うらしいが、器用な奴だ。


 その溝とは、溝と言うよりも長い谷間が生まれたと言え、このままでは先に進めないのは明らかとなった。




「タケダ様、これじゃみんなが渡るのは無理そう」


「溝の犯人は、たぶんフェンリルだろうな」




 この時はまだフェンリルの仕業だと確定はしていなかったのは、地震や自然発生で生まれた可能性もあるが、半分以上はフェンリルだろうと思った。




「待て、農民タケダじゃねえか、なぜフェンリルのせいだとわかる?」




 俺が谷間を見ながら発言したら、その言葉が耳に入ったトニックが、偉そうな物言いだと感じる。




「農民タケダはFランク、フェンリルどころかスライムだって見たことないでしょ、ふふふ」




 ダイアに至っては俺が戦闘経験が未経験だとして、完全にバカにした言い方で上から目線した。




「フェンリルは大型の獣。この程度の谷間を爪で掘るくらいは可能だ。もちろん俺の意見だが」


「まともに魔物と戦ったことがないFランクの農民タケダだ、詳しいはずない、単なる当てずっぽうだろう。怖いのはわかる。俺も最初のうちは怖くて魔物を見るのも嫌だった。あっははは、怖いなら下がっていろ!」




 俺の魔物に関する知識はどの冒険者よりも上で、戦闘経験は豊富、上級ランクの魔物も何度も戦闘していて、爪でひっかいた傷あとだろうと考えたのだった。


 トニックには悪い冗談にしか聞こえなかったらしい。


 トニックはレベルが25あるが、全てムイト国内の魔物との対戦経験だろうし、ダンジョンの経験も少なそうだし、フェンリルレベルの魔物を見たこともなく、このような谷間を掘るなんて想像もつかないはずだ。


 また女性のダイアもまた同じ程度のレベルで、魔法での戦いは、もっと低いレベルの魔物と対戦していて、経験の数で俺にはとうてい敵わない。


 


「だが、どうやって進むかだ。トニックに案があるのか」


「谷間を進むのは困難だが、深い溝になっているのを降りて行って向こう岸までたどり着くしかないと俺は思うが、みんなはどうだ?」


「…………トニックが降りて行くなら、俺もする」


「…………同じく」




 他に方法が思いつかないトニックは谷間を降りて行くのを提案すると、周囲の者はトニックに従うようにして、一緒に行くと言った。


 俺は会話は聞いていても、止めはしなかった。


 


「まぁ私もあんまり乗り気じゃないけど、降りて行くかな」


「俺も降りる」




 ダイアとスマッシュも同じ意見でまとまって、谷間の下を覗き込んでいたが、かなり深いから、顔は渋い顔であった。




「よし、俺は降りるぞ、ついて来い!」




 トニックの掛け声で崖のようになる溝へ足を進め、下に降りて行った。


 俺は特別に止めはしなくて、黙って静ずかに見ていたが、この方法では時間がかかるだろうと思うし、もちろん時間さえかければ向こう岸までたどり着くのは出来る。


 俺からしたら無駄な労力でしかなく、別の選択肢を考えてあった。




「タケダ様、トニックと仲間達も10人くらいの人が谷の溝に降りて行きます。どうします?」


「もちろん俺とキアラは降りる必要はない」


「じゃあ王都に帰るのね」


「帰らない」


「どっちよ!」




 はっきりと降りるのを否定して、キアラは安心したのは、とてもじゃないがこの急激な崖にも似た所を降りていけるはずがない。


 足を滑らせたら転げ落ち大けがする、または頭を打ち死亡もあるし、降りたくないだろう。




「俺にはモチがある」


「でも……ここはモチでは不可能。他に方法はあるなら考えます」


「俺にはモチしかない。モチ以外に方法はない」




 トニック、ダイア、、スマッシュに続き、他の冒険者も降りて行く中で、俺はアイテムボックスを使用し、多量のモチを出す。




「アイテムボックス、モチブリッジ」


「なんだ、お前はアイテムボックスが使えるのか!」


「おおっ、びっくりしたぜ!」




 アイテムボックスを使用し空間からモチを選んで多量に出したため、周りにいた冒険者はスキルに声を発した。


 Fランク冒険者の使えるスキルでない、高ランクの冒険者の僅かにしか使わないスキルで、初めて見たものもいた。




「モチを使うのはわかりましたが、まさか空を飛んでいくのをやるのかな……それだとタケダ様と私はあっという間に向こうに行けますが、残りの冒険者はみんな大変な苦労します」


「心配ない。モチジェットは使わない。モチブリッジだ」


「なんでもいいです!」




 モチを爆発させて上空に飛ぶエクスプローションでないと聞いて安心し、しかし次に何をするのかと不安にもなっているようだが、俺はモチブリッジを選択した。




「モチブリッジ」




 多量に出されたモチはどれも固く固形であるのを、叩いていき粘着性を生み出した後に、モチを大きな溝の口に発射し、モチは連続で積み重なりあい、次第に形が形成されていった。


 モチの作る形は道になっていて、道が伸びると、まるで反対側にまでの橋の形。


 人や馬車も通れるのではと思う道で、いわゆる橋の形状へと変わる。


 キアラは考えもしなかった橋に驚いたのか、尻もちをついたら、またもエム字開脚になった。




「橋、橋が出来た、タケダ様、橋です!」


「モチブリッジで橋を作った。これなら俺達以外の者も反対側に渡れるだろう」


「なんでも有りっすか!」


「これがモチの力だ」


「タケダ様、素晴らしいアイデアですし、苦労して下まで大きな溝へ降りなくて済みます!」


「トニックと一緒にいた連中は降りたが、まぁ自分で降りたのだから、無視する」


「頭から水をかけられたの、恨んでます?」


「別に俺は恨んでいない。仕返ししたいわけでもないが、助けてやる道理もないだろう」


「かなり、憎しみ入っていそうですが……」


 


 アイテムボックスから出したモチよるモチブリッジで簡単に橋を作り、歩いて溝を渡れるようにした。


 トニックに対しては真逆の対応にはトニック達が、かわいそうにもキアラには思えたらしい。


 


「おい、橋を作ったぜ農民タケダが!」


「いや待て、農民タケダはFランク冒険者。橋が本当に歩けるか疑問だ。崩れて落ちたら最悪だ」




 簡単に即席で作った橋に冒険者は不安も感じていた。


 本当に大丈夫なのか、崩れたりしないか、最後まで渡れるかなど会話した。


 俺が作った橋に足を踏み入れると、何もなく、揺れもしない、崩れもせず歩け、歓喜が起こった。




「おおっ、大丈夫だ渡れるぞ!」


「農民タケダの橋は安全だぞ!」


「俺も渡る。キアラは?」


「待ってください、置いて行かないで!」




 エム字開脚中のキアラは置いて行かれないよう、起き上がり走って追いかけてきた。

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