第4章 0勝10敗

第11話

 合馬おうま五段に負けた僕は、あの後一体何をしていたんだろうか。

 記憶にない。気が付いたら、栃木にいた。

 何の思い出もない町。僕が住んでいたのは、ここじゃない。

 何が何だかわからず、ホテルをとって、とにかく寝ようとした。

寝られない。

 完敗だった。序盤から、何もさせてもらえなかった。

 きっと僕のことを、しっかり研究してきたのだ。当然かもしれない。苦手な相手。僕が全く勝てていなくても、負けた相手のことは覚えているものだ。

 弱いんだ。僕はすべての面で弱いんだ。



 新年度になって、順位戦が始まった。順位戦はリーグとなっており、絶対に10局は指すことができる。対局する機会が増えるのだ。

 だが僕は、もう怖くなっていた。対局するだけ、負けてしまう数が増える気がする。

 実際もう、2敗したのだ。

 僕意外の新四段は、全員2連勝している。新人は、ふつうそういうものだ。だが、僕が負けても皆驚かない。「奇跡で三段リーグを抜けた」「対戦相手が皆体調が悪かった」「十年間の勝利がたまたま半年に集まった」と散々な言われようである。

 仕方がない。負けているんだから。

 デビューから、10連敗。



 11戦目の相手は、弥陀みだアマだ。今までの相手では一番楽……なわけではない。プロ棋戦に出るアマというのは、普段勝ちまくっている。「勝ち味」を知っているのだ。しかも、参考になる棋譜が少ない。

 10連敗もしているプロは、怖くもなんともないかもしれない。

 フユウララは、すっかり定着してしまった。僕がいつか使予想するハッシュタグ「#冬染チャレンジ」まで流行っている。

 努力していないわけじゃない。研究会も増やした。詰将棋だって三段の時よりもしている。それでも、頭が「透明でない」感覚があって、学んだことを忘れてしまうことがある。特に、自分が指していない手のことは思い出せない。感想戦で指摘された手や、別の人の棋譜は「はっきりしなくなる」のだ。

 いよいよ昔の将棋に頼るしかなくなる。最新の研究合戦について行けるわけがないのだ。

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