第29話 バッドエンド
市街地を逃げ惑う俺と明日実。
背後には鬼の形相で追いかけてくるチンピラのような男たちがいて、一度捕まってしまったら間違いなくひとたまりもないだろう。
「こっちだ!」
「はい!」
明日実の手を引き、上手いこと路地裏に入ったりしながら巻こうとするも、人数が多くてなかなか巻ききれない。
「ど、どうしてこんなことに⁉ なんで私たちは追いかけられてるんでしょうか⁉」
「最近悪いことした覚えとかないよな⁉」
「ないですよありません! 強いて言えば、九重さんのことを盗撮したくらいで……」
「おいそれは後で詳しく聞かせてもらおうか?」
「あ……えへへ」
「誤魔化せるかぁッ!!」
明日実の盗撮に関しては後でしっかり裁くとして、今はこの状況をどうにか打破しなければ。
そのためにはより人の多い場所、もしくは警察署に行く必要があるが、どれもここからでは遠い。
やはり、奴らを巻ききるしか……。
「九重さん、ちょっと待っててくださいね」
「え?」
明日実が走りながらスマホを取り出し、どこかに連絡をし始める。
「はい。大至急です。位置情報は送っておくので、よろしくお願いします。今すぐです。はい、お願いします」
電話を切る明日実。
「どこに電話をかけたんだ?」
「私直属の護衛隊です。何かあった時のために屋敷で待機しているので、すぐに来ると思います」
「それは助かる!」
一人の女の子に専用の護衛部隊があることに関しては、もう驚かない。
だって明日実はあれほどに大きな家の一人娘。ド変態なことを含め、明日実のことに関しては現実をはるかに超えている。
「ってことは、到着まで逃げ続けろってことだよな!」
「そういうことです!」
とはいえ、俺たちがいつ捕まってもおかしくない。
選択を間違えないように、頭を使って逃げ道を選ばなければ……!
「よし、あそこを抜けて、広い道に出るぞ!」
「はい!」
俺たちは路地裏を抜けて、道路に面した場所に出ようとした。
――が、しかし。
「残念だったな、ここは通行止めだ」
「な……」
抜けようとしたところで、俺たちの前に立ちはだかる数人の男。
その先頭に立つ男は俺たちに見覚えがある……いや、それどころか俺たちが追いかけ回される理由にふさわしい人物だった。
「月島……お前っ」
「なんだその目は。俺に女を取られた分際で、よく反抗的な態度をとれたもんだなぁ?」
「くっ……」
月島に道を塞がれたせいで、追ってきていた奴らにも追いつかれてしまった。
前と後ろを塞がれ、完全に逃げ道を失う。
月島は八方塞がりな俺たちを見て、イカれたようにケラケラと笑い始めた。
「ほんと、いい気味だぜ! 俺の全てを奪ったお前たちが絶望的な状況にあるんだからなァ!」
月島が下卑た笑みを浮かべながら続ける。
「俺はよォ、あの日のこと忘れたことはないぜ? 明日実、お前にすべてをバラされ、父さんを告発され、地位も、名誉もすべてを根こそぎ奪われたことをよォ!」
「あれはあなたの自業自得でしょう?」
「だとしても、お前がバラさなかったら俺はずーっと楽しいままだったんだよォ! なのに、なのになのに! お前のせいで! 俺は、こんな目に遭ったんだッ!!」
とんだ逆ギレだ。
すべては月島が悪いのに、それを認めようとしていない。
……いや、すべてを失ったからこそ、失うものがないからこんな行動に出れるのか。
自暴自棄になっている奴ほど、怖い人間はいないな。
「……だから、復讐してやろうとずっと思ってたんだ。それで、俺はこの町のあぶれ者をかき集めた。こいつらも、もう失うものは何もない。だったら最後は、好き放題してぇってわけだろ?」
チンピラどもが、下心に満ちた目つきで明日実を見る。
「うへへ、写真通り……いや、それ以上の上物だなァ」
「こんな女抱いてみたかったんだよォ!」
ド変態な明日実ならワンチャン興奮しているのでは……と思ったが、さすがにそんなことはなく。
むしろ怯えたように体を震わせ、俺の袖をちょこんと引っ張ってきた。
そういえば、昔に言っていたっけ。
決して誰でもいいわけじゃないと。むしろ、俺がいいんだと。
俺は明日実の前に出て、構える。
「あ? なんだてめぇ」
「……無抵抗でやられると思うなよ」
俺が言うと、月島がバカにしたように笑い声をあげる。
「ハハハハハハッ!!! 女を寝取られるような男に、何ができるんだよ!」
「やってみないと分からないだろ? タイマンしようぜ――月島」
その後の展開は一方的だった。
「おらよッ!!」
「ぐはっ……!」
俺の誘いに乗った月島は、チンピラたちに俺と明日実を囲ませ、即席のリングを作り出し俺を蹂躙した。
月島の体格はスポーツをやっていたのかなかなかにゴツく、そんな奴に家でゴロゴロしているだけの俺が敵うわけもなく殴られ蹴られの連続。
――しかし、俺には考えがあったのだ。
「ったく、だっせぇなお前は! こんな! 奴に! 俺の! 人生が! 無駄にされたのかよッ!!!」
蹴飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「九重さん……ッ!!!」
体中が悲鳴を上げていて、もう立てないと倒れそうになっても、俺は立ち上がった。
「絶対に、明日実に手ぇ出すんじゃねぇぞ……!」
「く……この野郎がッ!!!」
痛い、痛い痛い。
体のあちこちが痛い。たぶんあばらとか折れてるし、腕だってあざだらけだ。
それでも俺はその時を待って、耐え続けた。そして遂に――
「ん? なんだあれは?」
一人の男が頭上を見上げ、指を差す。
全員がバラバラと上を向き、そして仰天した。
「明日香お嬢様! 今助けに参りました!」
「「ッ!!!!」」
ヘリコプターから続々と降りてくる武装した男たち。
次々にチンピラどもを無力化し、月島も地面に押さえつけられた。
俺はその様子を見ながら、壁に体を預け座り込む。
「九重さんッ!!!」
すると明日実が俺のところに駆け寄り、抱きしめてきた。
顔は涙でぐちゃぐちゃになっていて、それでも明日実は綺麗だった。
「無茶して……!」
「でも、それで助かったからよかっただろ?」
「そうですけど……もう! 九重さんはバカです! 本当におバカさんです!」
「あはは……ごめんな」
明日実の頭を撫でる。
明日実は俺の腕の中でしばらく泣いた後、俺が立ち上がるとようやく離してくれた。
そして月島のところに行き、睨みつけるように視線を向ける。
「これでもう、あなたは本当に終わりです。一生過ちを後悔して生きてください」
「く……クソがッ!!! 俺は、俺は……!」
暴れるも、護衛隊に押さえつけられ、やがて魂が抜けてしまったように静かになる月島。
最後まで月島は悪あがきを続けた。しかし、明日実の言う通りこれで終わりだ。
本当に、これでようやく、俺たちも前に進めて――
「……私は、許さないから」
目の前に突如現れる、疲れ果てた顔を浮かべた少女。
それがあの幼馴染だと気づいた頃には、ナイフを持って駆けだしていて。
しかもそれが俺ではなく、明日実に向かってであり。
「――危ないッ!!!!」
俺は咄嗟に動き出し、明日実の前に出た。
――グサッ。
体が熱くなる。
ドロドロと体外に流れ出る赤い液体を見て、俺はそのまま倒れた。
意識が遠のいていく。
ぼやけた視界の中で、溢れんばかりの涙をこぼす明日実の顔が映った。
あぁ、俺。明日実のこと好きだわ。
「九重さんッ――!!!!!!」
――――あとがき――――
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
早いもので、次回が最終回となります。ド変態、最後の舞です。
ここで一つお知らせです。
新連載、「記憶喪失したと思っている口下手な美少女が俺と友だちだと嘘をついた。今さら俺の記憶が戻ったとか絶対に言えない」がスタートしております!
たぶん面白いと思うので、ぜひそちらもご覧ください!
では、全国のド変態ファン……いや、ド変態の皆さん!
不思議な主従関係の二人の結末を、お楽しみに!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます