第19話 ド変態のお母さん
学校を出て、スマホを頼りに歩くこと十五分。
目的地にたどり着いた俺は、その前に立って口を開き唖然としていた。
「な、なんだこれ」
高くそびえたつ大きな門。
角が見えないほどに塀が横に広がっていて、大きさをイマイチ実感できないがとにかくデカい。
家もかなりゴージャスだし、まさに豪邸と呼ぶにふさわしい家だった。
「これが明日実の家か……」
確かに前からお嬢様っぽいなというか……ド変態のくせに品があるなと思っていたのだが、まさかほんとにお嬢様だとは思わなかった。
明日実がリアルお嬢様なら、俺の誤解を解いたときに何故か監視カメラの映像を入手出来たり、探偵に月島の身辺を調べさせたりもできるわけだ。
それと、周防先生が俺の想像以上にとんでもない奴だと言っていたのも納得がいく。
「(それにしたって、一体どうしたらこの家からあんなド変態が生まれたんだろうか……)」
そんなことを考えていると、ふと監視カメラが目に入る。
今俺はカメラから見たら家の前で立ち尽くしている不審人物にしか見えない。しかも人相が悪いので余計に印象は悪いだろう。
早いところ目的を果たそうと思い、インターホンを鳴らす。
するとすぐに、
「お入りください、九重様」
重々しかった門が、ゆっくりと開いた。
お入りくださいということは、玄関まで来いという事なのだろうか。
「ってか、なんで俺の名前知ってんだよ」
俺の存在がこの家で知られているという事なのだろうか。だとしたらかなり怖い。
怯えながら俺は言われた通り門の中へと進んでいく。
途中でやけに広い庭というか池というか、そんなものを見たり遊園地にしかないサイズの噴水をみたりと異世界に来た気分になりながらもなんとか玄関らしき所に到着する。
「これはどうすればいいんだ」
戸惑っているとドアが中から開き、アニメの世界から出てきたみたいなメイドさんが出迎えてくれた。
「こんばんわ、九重様。どうぞお上がりください」
「え、いや俺はただこのプリントを届けに来ただけで」
「どうぞお上がりください」
「あ、あの……」
「お上がりください」
「あ、はい」
念を押されて、促されるがまま中に入る。
内装もザ・豪邸って感じで、若干洋風だった。これは明日実が前はイギリスに居たって言っていたし、その影響だろうか。
「では、こちらへどうぞ」
もはやメイドさんに何も言うことができない俺は、大人しくメイドさんの後をついて行く。
やはり外から見た通り家の中はかなり広く、家の中に入ったというのにもう三分は歩きっぱなしだった。
廊下は長く、部屋も多い。
それに高そうな壺が所々置いてあって、ほんとにこういう豪邸が存在するんだと博物館に来ているような気分になっていた。
しばらくして、大きなドアの前に案内される。
「(ここが明日実の部屋なのかな)」
なんて勝手に思っていたが、開くとそこは大きなリビングのようなところで、これまた高そうなソファーに一人の女性が座っていた。
「奥様、九重様を連れてまいりました」
「え、奥様⁉」
奥様ってことは、つまり……明日実の母親⁉
驚く俺の方に、女性が振り向く。
「初めまして、九重雅さん。私は明日香の母の、文美です」
「は、初めまして……」
明日実のお母さんは、お淑やかという言葉が一番似合っていて、明日実が大人に成長したらこうなるんだろうなと思うほど美人で明日実によく似ていた。
纏う雰囲気は大人のソレそのもので、きっとそこまで若くないだろうに色気が漂っている。
メイドさんに促されるまま明日実のお母さんの近くに座った。
明日実のお母さんは、じっと俺を見たまま言葉を発さない。
「な、何でしょうか」
「……いや、なるほどと思ってね。さすがは明日香が選んだ男の子だわ」
「は、はぁ」
にっこりと微笑む明日実のお母さん。
「ずっと雅くんには会いたいと思っていたのよ。あ、雅くんって呼んで大丈夫だったかしら?」
「だ、大丈夫です!」
「そう、よかったわ」
安心したように胸を撫でおろす明日実のお母さん。
俺はそんな穏やかなお母さんを見て驚いていた。
実のところ、明日実がド変態なのはお母さんの影響を受けているんじゃないか、と予想していたのだ。
親も親なら子も子、という言葉がある通り、代々受け継がれてきた変態の遺伝子。
明日実は突然変異体ではない、というのが俺の考えだったのだが……それは間違いだったみたいだ。
……でも、だったらさっきの『さすがは明日香の選んだ男の子だわ』発言が引っかかる。
それに俺のことは知ってるみたいだし、俺の話をしてるということは明日実のド変態さをこの人は知ってるはずだ。
全く見えなくなってきた。でもなぜだろう、俺は自分が予想したことに反して、この人はまともであってほしいと思っていた。
「ふふっ、ほんとに雅くんに会えて嬉しいわ。ごめんなさいね、勝手に家の中に連れてきてしまって」
申し訳なさそうに手を合わせて言う。
「いえいえ、別に大丈夫です。今日は暇だったので」
「そう! ならよかったわ」
上品に微笑むお母さんを見て、俺は安心していた。
「(いや、この人は明日実のお母さんだけどまともな人だ。そうに違いない! よかった、お母さんまでド変態だったら、俺の心は持たないもんな! それに、より手の打ちどころがなくなるし……)」
と、ほっとしていたのも束の間だった。
「それで、明日香との赤ちゃんプレイはどうだった? 気持ちよかったのかしら⁉」
…………。
…………。
GAME OVER
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