第16話 唾液に感情は乗る!


 着替え終えた俺は、考えていた通りリビングに向かい、貯まっていた深夜アニメの消化を始めた。

 ドラマや映画、バラエティー番組なんかも雑多に見る俺はその日の気分で見るものを決めるのでこうして貯まりやすい。


 さてさて、まずは王道バトル漫画原作のアニメから見るとして……。


「へぇ、なるほど。世の中にはこのようなアニメが存在するんですね」


 世間知らずのお嬢様のような発言をする明日実が、興味ありげにテレビ画面に食いつく。

 ちなみに、明日実はテレビの前のソファーに、俺に半身体重を預けて座っている。


「明日実近い近い。もっと広く使えよソファーを」


「どうしてです? せっかく密着できる時間があるなら、密着して交友を深めておいた方がよくありませんか?」


「そういうところにストイックだな⁉」


「当たり前です。だって私は、早く九重さんと添い遂げたいんですからね」


 さらりと恥ずかしいことを言ってくれる。

 いや、もはや言われ過ぎて恥ずかしくもないか。


「そう単純な話じゃないとは思うけどな……」


 一緒にいた時間が長いから、スキンシップを頻繁にとったからって必然的に恋愛感情が生まれるとは言えない。

 そこんところ、ド変態すぎるが故にパワープレイなんだよな。


「ささ、早く見ましょう九重さん! 私、結構気になるんですよこのアニメ!」


 明日実が言いながら俺の腕にしがみついてくる。

 ぽよん、と押し付けられるドデカい胸。


 避けようとしてもしっかりホールドされていて、決して離さないという意思を感じる。


「……はぁ、じゃあ一話から見るか」


「いいんですか⁉ 九重さんはすでに序盤を見ているでしょうから、私は別に途中からでもいいんですけど」


「せっかく俺の好きなアニメを見るんだから、最初から見た方がいいだろ?」


「こ、九重さん……」


 俺の発言にぽっと頬を染めて俺のことを見る明日実。


「わ、私、九重さんのこと今すごく抱きしめたいと思いました! 何ならその唇を塞いで、濃密な唾液交換の中、この私の今の気持ちを伝えて……」


「気持ち悪い気持ち悪い! 唾液交換とかしないからな⁉ ってか、交換ってなんだよ!」


「唾液に感情が溶け込むから、キスに味が付くんじゃないですか? ほら、ファーストキスはレモンの味って言いますけど、あれは初めてで甘酸っぱい気持ちが乗ってて……」


「なんか説得力あるけど違うから! その理論で言ったら、宇多田ヒ〇ル曰くタバコのフレーバーがしたわけで……って、何言ってんだ俺は」


 自分で言っていて、現在地が分からなくなった。


「もう、考えても仕方ありません! 実際にしてみましょう九重さん!」


「えぇ⁉」


 頬を上気させた明日実が俺に迫る。


「百聞は一見に如かず! しちゃえば分かることです! さ、しましょう! キスという名の唾液……いや、体液の交換を!」


「言い直した方が気持ち悪いな!」


 明日実が俺の肩に手を置き、強引に唇を突き出してくる。

 俺は抵抗して、明日実を押し返す。


「私たち、さっき手を繋いだんだからキスしても問題ないはずです! むしろ、順調なステップアップですね!」


「ステップアップが早すぎるわ!」


「早くて悪いことはありません! 知ってますから九重さん! 高校生のカップルと言うのは、付き合って一か月以内にS〇Xに至るのもおかしくない話であって……」


「まず俺たち付き合ってないからな⁉ あれは好きっていうブーストがあるんだ!」


 取っ組み合いになりながら、口論は続く。


「じゃあ好きです! はいブーストっ!!!」


「さっきからパワープレイすぎるんだよ明日実は!」


「も、もうっ! いいじゃないですか九重さん~っ♡」


 しびれを切らした明日実が、より一層力を入れて迫ってくる。


「(い、意外に力が強い……! でも、負けてられるか……っ!)」


 俺は今まで抑えていた力を解放し、グイっと思い切り力を入れてはねのけた。

 

「きゃっ!」


 するとその反動で、そのまま明日実をソファーに押し倒し、俺が明日実の上に乗るという体勢になる。


「な……」


「……ご、強引なのも嫌いじゃないですよ? むしろこうされるのを私は望んでて……えへへ♡」


 どうにでもしてください、と言わんばかりに腕を広げる明日実。

 俺はすぐに明日実の上からどいて、ソファーに座り直した。


「は、早くアニメ見るぞ」


「少しは期待した私にかまってくださいよ。全く、九重さんはほんとに……」


 不満げに頬を膨らませて、俺と同様に明日実が座り直す。

 明日実と取っ組み合いをしたためにやけに暑くて、服をパタパタと仰ぎながら再生ボタンを押した。


 ようやくアニメが流れ始め、息を整えながらテレビ画面に注目する。


「ふふっ、九重さんっ♡」


 明日実は正しい位置に戻るかのように自然な流れで俺に密着すると、腕にしがみついてえへへと頬をほころばせた。

 もう一度注意するのも気が乗らず、俺は諦めてため息をつく。


 そのまま幸せそうな明日実と一緒にアニメ鑑賞をしたのだった。





――――あとがき――――


この二人、意外に仲良くしてるじゃん……。


以上、あとがき。

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