第13話 みんな変態です!


「俺が何を言いたいのかっていうと、普通の男子高校生よりそういうのに疎い俺が、いきなり変態の完全究極体みたいな明日実に合わせるのは難しいんだよ」


 明日実とやり取りしているうちに、自分の思っていたことがより鮮明に言葉になっていく。

 明日実が顎に手を当て、頭を働かせる。


「な、なるほど……」


「例えばサッカーをあまり知らない奴に、サッカーがめちゃくちゃ好きな奴が戦術的に難しいこと言っても分からないのと同じわけで」


「確かに、それは一理ありますね」


 ようやく理解した様子のド変態。

 ぺこりと申し訳なさそうに頭を下げる。


「すみません九重さん。私今まで自分の欲望に駆られるがまま行動してました。そうですよね、勝手に九重さんが私と同じ、24時間えっちなことを考えては、妄想に想いを馳せて自分を慰めるような人だと思ってましたけど、必ずしもそうとは限らないですよね」


「大体の人間は明日実と同じではない!」


「えぇ⁉ わ、私がマジョリティじゃないんですか⁉」


「日本が転覆するわそんなの!」


「そ、そうだったんですか……なんだか残念です」


 逆にどうして自分が一般的な人間だと思っていたのだろうか。

 そういえば明日実は帰国子女だと言っていたし、海外は日本よりもっと性にオープンだからそこでこの価値観を……いや、海外にもこのド変態はいないか。


 こうなると一体明日実がどのような教育を受けて、どのようなものに出会って変態になったか、気になるところだ。


「要するに、九重さんは現時点では私と様々なプレイをするのにレベルが足りない、ということですよね?」


「まぁ端的に言えばそうだな」


「ふむふむ、なるほど……」


「明日実には悪いが、俺が明日実の欲求を満たすことは、俺のガチの欲望をちゃんと曝け出しても厳しいから――」



「じゃあ、私がレベル上げをすればいいんですね!」



「…………え?」


 思わず聞き返してしまう。

 明日実は「これこれ!」と言わんばかりに得意げな表情を浮かべていて、少し興奮気味に俺に説いてくる。


「私の考えとしてはですね、人間は誰しも変態なんですよ!」


「すごい考えだな⁉」


「生まれつき人間は変態……この【性変説】というのは、孟子か荀子が唱えてましたよね確か」


「それは性善説と性悪説だ! 唱えてるのは明日実しかいない!」


 よくもまぁそんな話がすらすら出てくるなと思う。

 そういえば明日実は、変態の中でも論理的思考と手段を持ち合わせたハイブリッドな変態だった。


「それはさておき、みんなその変態さを胸の内に秘めたまま、解放できていないんです。だから、私が九重さんの中にある変態っぷりを、レベル上げと共に解放し、そして私にめちゃくちゃする! というのを目指しましょう!」


「性の欲望にストイックすぎるな⁉」


 よほど俺に性奴隷として色々されたいんだろう。

 第三者からこの状況を見れたらおそらく興奮したんだろうけど、ここまで執念のようにド変態さを提示され、付きまとわれたら恐怖が勝る。


 明日実がふふふ、と笑みを浮かべながら続ける。


「安心してください九重さん! 私が九重さんを、悪役の中でも悪役な、女の子を道具のように回しては、監禁なんかもしちゃってメンタルをズタボロにさせるような大魔王に育てますよ! 任せてください!」


「何が安心してなんだよ……というか、頼んでないし」


 難色を示していると、明日実がグイっと俺の手を両手で包む。


「私には九重さんの内なるエロスが見えています! 大丈夫です! 普通に欲求を解放していけば、最高にえっちな青春が送れますよ!」


「俺は普通に恋する方の甘酸っぱい青春が送りたいんだが⁉」


「恋、する? ……恋?」


「なんでわかんないんだよ!!!」


 恋がピンと来ていない様子の明日実。

 明日実の言う性行為は普通、その前に恋とか愛とかが来るはずなのに、すべてすっ飛ばしてしまったんだろう。


 俺はここに活路を見出し、恋を切り口に突き進む。


「あのな明日実、そういう行為をするのに大事なのはその人を好きなのかどうかだ! ……たぶん」


 恋をしたことがないので、確信はない。


「好き、ですか」


「そうだ! 話に聞いたことがあるが、好きでもない人とするより、好きな人とした方が気持ちがいいらしい!」


「気持ちがいい……まぁ、なんと」


 明日実の興味関心が恋に移りつつあることを確認し、俺は続ける。


「俺はな、もし初めてヤるなら、好きな人がいい! これは絶対だ! つまり、明日実がレベル上げをするも何も、俺は明日実を好きにならないとできない! 俺は好きな人としたい!」


 自分で言ってて恥ずかしくなるような、他の人に聞かれたくないようなことを言っているなと思う。

 だが、この部屋は明日実によって過激な言葉の敷居は低くなっている。そのため、なんとかスラスラと言えた。


 明日実が俺の言葉を受け、少し黙り込む。

 数秒後、真剣な表情を浮かべた明日実が「なるほど」と呟いた。



「……つまり、お互いに恋し合う必要があるんですね、私たち」



「ブレないな⁉」




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