第12話 ド変態部屋お披露目
寝てしまいそうな退屈な授業を終え。
ひとまずの憩いの時間である昼休みを知らせるチャイムが鳴り響いた。
俺は大きく腕を伸ばし、あくびをする。
ふと、教室でぽっかりと穴が開いているように見える空席が目に入った。
「(愛花はさすがに学校に来てないか)」
いつもクラスメイトと楽し気に、見せびらかすように話していた愛花の姿は見当たらない。
それもそのはず、昨日あれだけ大勢の前で真実を暴かれたのだ。月島のプライドが異常なだけで、学校になど来れるわけがない。
幼馴染だからといって、もちろんそんな悲惨な状況に陥った愛花に対して同情するなんてことはない。
すべては自業自得だし、性格の悪い奴に思われるかもしれないが、はっきり言ってせいせいしている。
どうでもいいとか思いながらも、やはりどこか愛花や月島に対して苛立ちを感じていたのだろう。
スカッとするとは、まさにこのことだな。
「(……とはいえ、その大技を繰り出す代償が俺の高校生活、いやそれどころか人生だったんだけどな)」
ため息をついていると、ワンワン! と犬のように俺のところにやってくる明日実。
「九重さん! さぁさぁ、早速行きましょう!」
「え、どこへ?」
「決まってますよ!」
他の人に聞かれないように、明日実がぼそりと俺の耳元で呟く。
「空き教室ですよ空き教室。実は以前に、旧校舎で使えそうな場所を見つけたんです」
「使えそう?」
「はい!」
得意げに頷く明日実。
嫌な予感がしてたまらない。
「おそらく人なども周りに来ないので大丈夫です! いくら声を出したところで、誰にも聞かれません!」
「こ、声⁉ そんな大きな声出すのか⁉」
「じ、実は私、『ああんっ!』とか『そこぉ……!』とか『らめぇぇえ!』とか恥ずかしげもなく言いたくて……」
「恥ずかしがれよおい」
明日実はどこまでも真っ直ぐにド変態なので、その貪欲な姿勢だけをみれば素晴らしいなと思う。
ただその実情はほんとに変態なので、一部の層にしか素晴らしいと思われないけど。
「も、もし九重さんが声を我慢する私をご所望でしたら、私の口を物理的に塞いでしまうことをお勧めしますよ?」
「塞がないしそんな明日実をご所望ではない!」
「分かりました! じゃあ行きましょう!」
「何が分かりましたなんだ⁉」
明日実が俺の意見など度外視で、グイグイと腕を引っ張る。
「実はもうすでに色々と準備は済ませてあるんです! ほら、早く行きますよ!」
「ちょ、待って……」
「レッツゴーですっ!」
俺に有無も言わさず、明日実は半ば強制的に俺を空き教室へと連れ込んだのだった。
旧校舎はその名の通り以前に使われていた校舎で、劣化により現在授業で使われている本校舎が設立。
旧校舎はまだ利用価値があるとされて残され、今は物置や部活動の部室として利用されている。
本校舎とは渡り廊下を挟んですぐいけるが、あまりのボロさに普段旧校舎を利用する生徒は少ない。
それも階段を何段も昇ってようやくたどり着く最上階の四階ともなれば、本校舎から響く喧騒すらも聞こえてこないわけで。
シーンと静かな空き教室の前で、ようやく猪突猛進の明日実が止まった。
ガラリと扉を開き、明日実が中に入っていく。
俺も明日実に続いて足を踏み入れると、すぐに広がった光景に思わず声を漏らした。
「う、うわぁ……」
「ふふっ、どうですかこの部屋は! いいでしょう? いいでしょう⁉」
大きくたわわと実った胸を張る明日実。
明日実にとってはいいかもしれない。だが、俺にとってはもはや拷問部屋にしか思えなかった。
じっくりと空き教室全体を見渡し、一つ一つのものに目を通していく。
「(ここは本当に俺の学校なのか……?)」
空き教室なのに机と椅子が二つずつしかなくて、広々とした空間にド変態グッズたちが我が物顔で鎮座している。
「な、なんでこんなものがあるんだよ」
設置された十字架のオブジェクトに触れる。
そこには鎖が繋がれていて、明らかに人をそこに縛り付けることを目的としたものであることが分かる。
「そ、その……私、縛られるのも性癖でして」
「うわぁ……」
「あ、興奮しちゃいました?」
「今のは引いてる反応な?」
「ふふっ、九重さんはそういうプレイが好きなんですね! 私の守備範囲ではありませんが……嫌いじゃないですよ」
「(全部そういうプレイとして解釈されるんだが……)」
もはやツッコむのも面倒臭くなってきて、その代わりに深い溜息をつく。
「(ここはもう一度、俺の気持ちを伝えておこう)」
明日実が勘違いをしているようなので、すぅっと息を吸う。
「あのな明日実。一つ知っておいて欲しいんだが……俺は明日実のようなド変態じゃない」
「は、はぁ」
ピンと来てない様子の明日実に、俺は続ける。
「だから、明日実と同じ変態レベルで話を進められると、正直困るんだよ。ついていけない」
「なるほど……」
「なんか成り行きで明日実が俺の、その……性奴隷になっちゃったわけだけど、まだキスもしたことないしハグもしたことない、純粋な男の子なんだよ俺は」
自分で言ってて恥ずかしくなってきて、思わず明日実が視線を逸らす。
「何なら初恋もまだなわけで、ちょっと難しいというか……」
明日実が神妙な面持ちで、「なるほど」と相槌を打つ。
「……つまり、私が女王様になるSMプレイを?」
「全然なるほどじゃないじゃん」
――まだまだ続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます