第11話 奴隷様の命令
ようやくの思いで教室が見えてくる。
今日はやけに長い道のりだったと思いながら教室に足を踏み入れると、全員が俺の方を見た。
そしてすぐに視線を元に戻し、コソコソと話し始める。
「お、おい九重が来たぞ」
「あんま見んなってお前! 何されるかわかんねぇんだぞ!」
「ほんとに明日実さん連れてるよ……」
「明日実を奴隷にするとか、ヤバすぎるよなマジで」
「昨日もめっちゃエロいことしたんじゃね? 九重の思うがままに明日実の体にむしゃぶりついて……」
「女子は気をつけろよ。下手したらお前らも九重の奴隷に……」
…………。
…………。
「(……あぁ、俺の高校生活終わった)」
ある程度予想は出来ていたのだが、こうも現実を目の当たりにすると目から涙が零れそうになる。
もしかしたら俺が浮気してDVしたって言われてた時の方がマシかもしれない。いや、絶対にそうだ。
教室に入っていくのを躊躇っていると、後ろに立っていた明日実がひょいっと顔を出す。
「どうしたんですか? 入らないんですか?」
「い、いや、入るけども……」
「もしあれでしたら……私が四つん這いで席まで九重さんを運びましょうか?」
「いいからいいから!」
「物足りないという事でしたら、私がぜ、全裸に……♡」
「すぐ全裸になろうとするな! 自分でいけるっての!」
「も、もうっ! 恥ずかしがり屋ですねぇ」
物欲しそうに俺を見つめる明日実を横目に、自分の席へと向かう。
その道中も、すれ違うクラスメイトたちからチラチラと見られた。
「だ、大魔王だ……」
「大魔王九重……」
「やっぱ大魔王……」
「(なんか変なあだ名付けられてる……)」
教室に向かう廊下でも、そこらかしこで「大魔王」という言葉が聞こえてきた。
昨日の出来事なのに、すでに俺の呼び名は全校生徒の共通認識になっているのかもしれない。
窓際の自分の席に到着し、席に座る。
明日実も俺についてきていて、俺の横で立ったままニコニコしていた。
「……おい明日実。明日実も自分の席に座れよ」
「いえいえ、私は大丈夫です。いつでも九重さんの要求に応えられるよう、ここにいますから」
さも当然と言わんばかりに告げる明日実。
「いや、要求とかしないよ?」
俺が言うと、明日実がはぁはぁと息を漏らし、腕で胸を抱く。
「じ、焦らしプレイが好きですよね……九重さんって」
「焦らしてないからな⁉」
「じゃあ今から早速……?」
「なんで俺が要求をする前提なんだよ……」
それに、何か命令をされるのを楽しみに待っているとか、つくづく明日実は変態だな。
ずっとそうだが、俺には圧倒的に手に負えない。
ここは一度、しっかりと言っておいた方がよさそうだ。
「あのな明日実、俺は確かに明日実に条件を出して、明日実がそれを達成したが、元々明日実が俺に隷属するなんて反対なんだよ。というか、そういうのが好きなタチでもないし」
俺の言葉に、明日実が首を傾げる。
「でも、約束しましたよね? 九重さんの誤解を解いたら、私を性奴隷にしてくれるって」
「せ、性奴隷って……」
明日実があまりに普通に言うもんだから一瞬気が付かないけど、教室で言っていいようなワードじゃないと思う。
それも明日実のような美少女が言う言葉じゃない。
「それはそうなんだけど、やっぱり俺には……」
何とか奴隷解放しようとすると、明日実の声のトーンが一つ低くなる。
「約束、しましたよね?」
「……え?」
明日実の雰囲気がぽわぽわしたものから、鋭利なものに変わっていく。
これはまさしく月島と愛花を裁いたときと同じ雰囲気。
対面するものにどんな反論もさせないような、言いくるめてしまうような強者の風格。
「私、九重さんのために頑張ったんですよ? なのに、九重さんは私の頑張りをすべて無駄にしようとするんですか? 約束と違いますよね」
「あ、いや、その……」
「九重さんは大人しく私に命令すればいいんです。分かりますよね?」
「…………」
何も反論の言葉が見つからない。
俺は激しく、あの放課後の、条件を出した時の俺を恨んだ。
明日実が並大抵の人なら泣いてしまいそうな圧を出しながら、穏やかな笑みを浮かべる。
「安心してください。九重さんに何も悪いことはありません。ただ私に九重さんの欲望をぶつければいいだけなんです。嫌なこと、一つもありませんよね?」
「……は、はい」
「うん、いい返事です。理性なんてものは取っ払って、私でめちゃくちゃに性処理する。さ、私に続いて?」
「……あ、明日実でめちゃくちゃに性処理する」
「はい、よくできました♡」
パチパチと逆上がりができた子供を褒めるように、手を叩く明日実。
俺はこれからの高校生活を想像して、軽く絶望した。
「(……俺はもう、一生明日実から逃げられないのかもしれない)」
出会ってしまったが最後。
明日実に逆らうことのできない俺は、明日実のご主人様として明日実が喜ぶような命令をし続けなきゃいけない。
「ふふっ、楽しみですっ♡」
明日実が恍惚とした表情を浮かべ、そう呟いた。
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