第9話 ド変態美少女との朝

 

 朝が来た。

 さすがに新調したベッドから目覚めると、深い溜息をつく。


「今日が来てしまった……」


 気だるげな体を何とか起こして洗面台に向かい、顔を洗う。

 いつもギリギリまで寝ているため時間はない。

 手短に朝食をとっていると、



――ピンポーン。



 …………。


 …………。


「…………」


 俺は気にせず手を進め、朝食を食べ終える。

 その後、アイロンがけしておいたシャツに袖を通し、ズボンを履いて……。



――ピンポーン。



 …………。


「…………」


 ズボンを履いて、ブレザーを着る。

 大方支度を終えた俺は、再び洗面台に来て寝癖を直した。

 鏡に向き合い、変なところがないか一応確認する。


「……相変わらず人相悪いな」


 幼稚園児と目が合ったらギャン泣きされそうだなと脳内で想像しながら、洗面台を出て玄関に到着。

 座って靴を履き、鞄を持って立ち上がった。


「ふぅ、行くか」


 自分自身に言い聞かせると、俺は重々しく扉を開けた。

 雲一つのない青空に、太陽の日差しが燦々と照り付ける。

 そして――



「おはようございます、九重様っ♡」



 目をハートにして俺を見つめるド変態美少女。

 忠犬のように律儀に俺の家の前に立っている。


「……なんで俺の家の前にいるんだよ」


「言ったじゃないですか。明日からは私が朝のお迎えに行きますよ、と」


「言ってたけど、断ったよな?」


「大丈夫ですよご主人様。私、天邪鬼に耐性があるんです」


「まず天邪鬼じゃないんですけど⁉」


 明日実が自分にとって都合のいいように解釈しているだけじゃないだろうか。


「まぁまぁ。あと、何回かピンポンを押したんですけど、気づいてました?」


「気づいてたよそれは」


「じゃあ出てくださいよ! 私言いましたよね? 九重様の性奴隷になったからには、ご両親に挨拶をしたい、と」


「そんな挨拶喰らったら両親ぶっ倒れるわ! あと、両親は海外で家にいないよ」


「まぁ、そうだったんですね。なら仕方ありません。今度にします」


「今度もしないでくれ」


 ここで立ち話をしてもしょうがないので、歩きながら話す。


「ということは、あの家には九重様一人だけなんですか?」


「そうだな。高校に入ってからは基本な」


「では家事とかは大変じゃないですか? それに毎日一人でいるのは寂しいでしょう?」


「そんなことはない。もう慣れてるしな。……まぁ、前までは幼馴染が来てくれてたんだけど」


 俺が呟くと、明日実が明るい声で返す。


「だったら私が天野さんの代わりに九重様のお家にお邪魔しますよ! あれでしたら家事でも何でも、すべて私に任せてください! だって私は、九重様に身も心も捧げているんですから!」


「えー、それ断れない?」


「ダメですよ! だって九重様は私と約束しましたよね? 誤解を解いたら、隷属させてくれるって!」


 それを言われると反論するのが難しい。

 

「そ、そうだけどさ……でも、俺明日実の望むような主人になれないぞ?」


「大丈夫です! ただ九重様が思うがままに私に命令すればいいだけですから」


 得意げに明日実が言う。

 何を言ってもダメそうな気がして、俺ははぁとため息をついた。


「思うがまま、ねぇ……」


「あっ、あ、あれですよ? 全然今命令してくれたら、なんでもしますし……そこに公園ありますから、朝の高ぶった気持ちを私で無理やり鎮めても……ぐへへへ」


「しませんが⁉」


 全力で否定するも、スイッチの入った明日実は止まらない。


「遠慮なさらず~! そ、そのですね? 実はこうなるんじゃないかと思って今私……パンツ履いてないんです」


「ただの変態じゃねぇか!!!」


 ってことはつまり、今明日実はノーパンというわけか。

 スカートの丈も短いし、強く風が吹けば見えてはいけないものが見えてしまうんじゃないか?


 それは色々と問題なので、公園のトイレを指さした。


「今すぐ履いて来い!」


「と、トイレですか? ……そ、そうですか。私たちの初めてはあそこのトイレ。ふふふ、いいですよ九重様。思う存分に私の純潔を散らして……」


「だからパンツを履いて来いって言ってんの!」


「も、もうっ。九重様は朝に興奮しない人なんですね。しょうがないです、言われた通り履いてきます」


 とぼとぼと残念そうにトイレに入り、一分くらいで戻ってきた。


「ったく、これからはパンツちゃんと履けよ?」


「……なるほど、九重様は着衣派なんですね? え、えっちですね……」


「えっちなのは全部明日実だよ!」


 やはり明日実は俺の発言を自分の都合の良いように解釈してしまうみたいだ。

 普通に最悪だし厄介だ。


 気が滅入っていると、すっかり元気を取り戻した明日実が小さく微笑む。


「じゃあ、初めては放課後にお預けですかね? もしくは昼休み? それともアブノーマルに授業中とか……ふふふ、どれもいいですね」


 なぜ俺が行為をする前提で話が進んでいるのだろう。

 でも確かに明日実の要求は俺の性奴隷であり、間違ってはいないんだけど……。


「(はぁ、どうしたものか)」


 朝からド変態に悩まされる俺だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る