第7話 裁きを下そうの回①
俺の名前は月島斗真。勝ち組だ。
「ねぇ見て見て、あれ月島くんだよ」
「ほんとだ! カッコいいね!」
廊下を歩けば好意的な視線を向けられる。
これは普通。そりゃそうだろ。俺はイケメンだし親が金持ち。おいおい神様、天は二物を与えずの反例、ここにいますよっと。
調子に乗るのはここまでにして、俺は基本的にいつも最近あった面白かったことを思い出しながら歩いている。
ここ最近で最も痺れた出来事と言えば、もちろんあれで……。
「(やっぱり九重の一件は傑作だよな……)」
九重の彼女と、九重の家のベッドでヤっちまったあの一件。
別に女とヤることは日常茶飯事だし、彼氏のいる子とするのも少なくはない。
が、あれに関しては正直他のものとは別格だった。
「(だって、彼氏のベッドでヤっちまうとか、ほんとあの女イカれてんだろ……マジ笑える)」
あの女はまぁ処女だったし、めっちゃ可愛いって感じではないが気持ちよかった。
だがあのイカれ具合は、どの女にもない。
「(しかも、罪を全部九重に被せちまうんだから、面白いことこの上ねぇな)」
あのデマに関しては俺が提案したことなのだが、俺にすっかりゾッコンのあの女が進んで流してやがった。
「(あれはもうぶっ壊れてやがる。あはははは! 最高だ! また九重のベッドでヤりたいもんだぜ)」
やはり女との快楽がこの世の中で一番の幸福だ。
それをこの年齢にして有り余るほどに楽しんでるわけだから、俺はつくづく勝ち組だなと思う。
「(でも、あの女はまだ抱けてねぇな)」
あの女とは、最近噂の金髪碧眼転校生だ。
前に愛花の教室に行ったときに一目見て、絶対にヤりたいと思った。
あれは今まで俺が見てきた中で、一番の上物だ。絶対にモノにしてやる。
唇を舌でぺろりと舐めて、愛花に会う体であの女の教室に向かう。
ようやくの思いで教室に到着。
「おい愛花! 来たぞ――って、え?」
異様な雰囲気に包まれた教室。
困惑しながらも足を踏み入れると、教卓に立っているあの女が目に入った。
「(な、何してんだ?)」
愛花に視線を向けると、居心地悪そうに小さくなっている。
「おいおい、なんだよこれ。何してんだ?」
できる限り爽やかに声をかけるも、誰も言葉を返してこない。
少しして、あの女が口を開いた。
「ようやく来ましたね、月島さん」
「え?」
あの女がニコリと笑うと、声高らかに宣言した。
「では、今から裁きを実行します!」
…………は?
◇ ◇ ◇
私、天野愛花は幼馴染を裏切った。
別に私は雅のことなんか好きじゃなかった。
正直言って、付き合えるなら誰でもよかった。だから一番身近な異性だった雅と付き合った。
でも雅と恋人らしいことをしたかった。いや、恋人と恋人らしいことをしたかった。手を繋いだり、デートしたり……少し大人なことをしたり。
そんな私の気持ちとは裏腹に、雅は私に手を出してこなかった。
分かっていた。雅は私に、幼馴染以上の感情を抱いていないことに。
それでも私は、どうしても漫画みたいな恋愛がしたかった。
そんなときに私は先輩に出会った。
先輩は雅に求めていたものをすべて持っていた。
だから私はいつしか、先輩に体を委ねていた。
私は悪くない。私は悪くない。
全部雅が悪い。雅のせいで私がこうなった。だから雅が悪いような噂を流したって悪くない。私は何も悪くない。
――それなのに。
「天野さん、今から私が九重さんのために、すべてをバラしますね?」
な、なんなのよこの女!!
◇ ◇ ◇
「――では、今から裁きを実行します!」
明日実の声が教室に響き渡る。
俺はそんな明日実の横で、わなわなと小さく震えていた。
「(や、ヤバい……マジで始まったんだけど⁉ ど、どういうこと⁉ ってか、なんで俺ここに立たされてるんだ⁉)」
明日実には一言、「条件をクリアする準備が整いました、ご主人様っ♡」とだけ言われている。
「(文言をそのまま受け取るに、今からあの俺の噂を払拭するってことだよな? ま、マジで⁉ ほ、ほんとに⁉)」
誤解が解けて嬉しいという気持ちより、このままだと本当に明日実を隷属してしまうのではという焦りの方が強かった。
そんなことを考えているのは俺だけで、シリアスな雰囲気が教室に流れる。
「おい、何のマネだよ。裁き? どういうことだ?」
月島が取り繕うように言う。
「裁きとは裁きです。月島さんと天野さんが九重さんにした本当のこと、それを今から公表するんです」
「本当のこと? 何言ってんだよ。じゃあ君は九重が浮気して愛花にDVしたっていうのが嘘だって言いたいのか?」
「そうです」
明日実が断言する。
「はっ、言いがかりもやめてくれ。実際、愛花の顔に傷があるだろ? これはどう証明するんだ」
「それは証明できません」
「はっ、なんだよそれ。じゃあ無理じゃねぇか!」
嘆息する月島に、明日実は自信満々にニヤリと笑った。
「いえ、簡単にできますよ。九重さんの身の潔白を証明することは」
明日実の一言で、教室の雰囲気がガラリと変わった。
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