第6話 ド変態の主張②


 放課後のロマンチックな教室にて。


 幼馴染の彼女を寝取られて、しまいには全校生徒に嫌われた男 vs そんな男に身も心も捧げたいド変態な金髪碧眼美少女転校生という世紀末の対決が繰り広げられていた。


「どうして私を性奴隷にしてくれないんですか! 私自分で言うのもあれですけど、なかなかいい体をしてると思うんです!!!」


「マジで自分で言うな! いや、確かにそうなんだけど!」


「じゃあ私を抱いてください! 今すぐに、九重様のゴツゴツした手で私の胸をめちゃくちゃにしてください!」


「まず九重様っていうのやめてくれる⁉ せめて九重さんとかにして!」


 様付けだと本当に明日実が俺に隷属しているような気がして、気持ちが落ち着かない。

 

「わ、分かりました……では九重さん! さぁ、私を召し上がってください!」


「断る! ほんとに断る!」


「も、もう! これはそういう焦らしプレイなんですか⁉ 別に嫌いじゃないですけど、さすがの私でも焦らされるのに限界というものがありますよ⁉」


「焦らしてないわ! 俺はただただ明日実の頼みを断ってるだけだ!!!」


「ひどいです!!!」


「ひどくないわ!!!」


 俺にも選ぶ権利というものがあるはずだ。

 確かに、男なら誰しもがこんな提案をされてしまえば二つ返事で承諾するかもしれない。


 だが、こいつは紛れもないド変態だ。

 俺はこんなド変態を隷属させて喜ぶようなエロ漫画の主人公ではない!


「何度も言わせるな! 俺は明日実を性奴隷にはしない! 絶対にだ!」


「ど、どうして……どうして九重さんは、そんなに……」


 絶望した表情で俯く明日実。


「もしかして、九重さんには好いている女の子がいるんですか?」


「いや、そういうわけじゃない。何なら、生まれてこのかた恋なんてしたことはないかもしれないな」


「……女の子は趣味じゃないと?」


「たぶん女の子が趣味だと思うけどな……そういうのには疎いんだよ」


「…………」


 顎に手を当てて、明日実が考え込むように黙る。


「……もしかして、勃たない人ですか?」


 真剣な眼差しで訊ねる明日実。


「違うわ!」


「じゃあ勃つんですね?」


「いや、その、それは……勃つけど」


 一体俺はほぼ初対面の、しかもこんな美少女に何を言わされているのだろうか。

 男として、そして人間としての大切な尊厳を奪われている気がする。


「わぁぁ! ならよかったです!」


 明日実がパチパチと手を叩く。


「ではでは、若いうちに私で使いましょう!」


「このド変態がぁぁぁあッ!!!!!」


 このド変態、振り切りすぎている。

 今まで普通に生きていたのが信じられないくらいだ。


「どうしてです⁉ 九重さんは女の子が好き、そしてちゃんと勃つ! どこにも問題はないじゃないですか!」


「問題だらけだろそもそも! いきなりすぎるんだよほんとに!」


 俺の言葉に、はっと明日実が息を呑む。


「なるほど……九重さんは恥ずかしいんですね。分かりました」


「お、おぉ。分かってくれたか、ならよか――」


 俺のことなどお構いなしに、明日実はブレザーを脱ぎ去り、そしてシャツのボタンを外した。


「うぇえっ⁉ な、何してんだ⁉」


 露わになったたわわと揺れる豊満な胸。

 それを包む水色の豪華な刺繡が入った下着が目に飛び込んできて、咄嗟に俺は手で顔を覆った。


「九重さんが恥ずかしがり屋なら、パワープレイで行くしかありません! さぁ、さぁ!」


「やめろやめろ!!! 俺はこんな襲われるような形で初めてを失いたくない!」


「損はさせません! 必ず気持ちよくします! だから私を受け入れてくださいっ!!!」


 強引に迫ってくる明日実。

 ド変態のエネルギーは凄まじく、男の俺も怯むような勢いだ。


「(こ、これはマズい! このままだとやられる! ……な、なら!)」


「ちょっと待て!!!」


 俺は瞬時に明日実から距離を取り、明日実を制する。

 不満げに頬を膨らませる明日実。


「なんですか! もうっ!」


「分かった。明日実の頼みは分かった」


「じゃ、じゃあ私を性奴隷に――」


「ただし‼ 一つ条件がある」


 俺は人差し指をピンと明日実の前に突き出した。


「条件、ですか?」


「そうだ、条件だ。一方的に頼みごとをするっていうのもおかしな話だろ? だから俺から要求してもいいはずだ」


 明日実がごくりと唾を飲みこむ。


「……そうですね、分かりました」


「で、条件なんだが……そうだな」


 少し考えて、俺は本当に適当に、頭の中でふっと初めに浮かんできたものを言った。



「じゃあ、俺の流されている噂が誤解であることを証明してくれ」



 俺が言うと、明日実は真剣な顔で頷く。


「なるほど、つまり私が九重さんが浮気をして、しまいにはDVをしたというあの噂を払拭すればいいんですね?」


「そ、そうだ」


 はっきり言って、これは無理難題に近い。

 それに本当に取り組もうと思えばかなり面倒くさいに違いない。第一、だから被害者である俺は何も動いていない。


 よってこのまま断ってくれないかなと思うのだが、


「分かりました。すぐに動きます」


「え、え?」


 まさかの即答。


「約束ですよ、九重さん。この条件をクリアしたら、私を九重さんに隷属させてくださいね?」


「え、あ、う、うん」


「ふふっ、ではまた明日、九重さんっ♡」


 ニコッと投げキッスを俺にお見舞いして、服装を正してから颯爽と教室を出て行く明日実。

 俺は一人教室に取り残されて、あっけに取られていた。


「ま、まさかぁ……あはははは……」


 ……まさか、ねぇ?


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