第4話 金髪碧眼転校生
授業の行間にて。
「ねぇねぇ、明日実さんって帰国子女なの?」
「はい。実は先月までイギリスにいまして」
「ええーすごい! じゃあ英語も話せるってこと⁉」
「日常会話程度なら」
話題の転校生の席の周りには、多くのクラスメイト達が集まっていた。
もはや彼女の噂を聞きつけた他クラスの奴までいて、お祭り騒ぎである。
「(まぁ、確かに一般人レベルじゃない容姿だもんな)」
俺は喧騒から離れた教室の端で、横目で彼女のことを見る。
艶やかなブロンドに、宝石のような碧眼。そして整った顔立ちに高い鼻。
祖母がイギリス人のクォーターらしく、そのスタイルも又日本人離れしている。
身長は165㎝くらいあり、豊満な胸が制服を押し上げ、シャツのボタンははちきれんばかりに大きな胸に引っ張られていた。
全体的にムチっとしていて、すらりと腰から伸びる白い生足は色気を感じさせるほどに魅惑的だった。
加えて、質問攻めにあっても嫌な顔一つしない人柄の良さ。
これはもしかしたら、一気に学校一の美少女へと名乗りを上げたかもしれない。
「やっぱり、外国人ってイケメン多いの⁉」
「そうですね……確かに、イギリスではたくさんいましたね」
「じゃあ俺たち日本人に勝ち目ねぇじゃん」
「そんなことありませんよ? 私、好みの顔は日本人ですので」
明日実の発言に教室が沸き立つ。
「じゃあじゃあ、このクラスだったらどの人がタイプとかあるの?」
「お、おいそれ聞くか普通⁉」
「いきなり失礼だろ!」
文句を垂れながらも、そわそわし始める男たち。
明日実さんもまんざらでもない様子で、顎に手を当てて教室を見渡した。
「そうですね……」
やがて俺の座る教室の端に目を向けると、何故か俺と目が合い、
「あの方でしょうか」
「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ⁉」」」」
困惑する生徒たち。
「いやいや、あいつは絶対違うだろ!」
「どうしてです? 目つきなんか鋭くってかっこいいじゃないですか」
「顔面怖いだろ普通に!」
失礼な。いや、否定はしないけど。
「それに、あいつはヤバい奴なんだよ。な、天野?」
「そうだよ。あいつね、私に浮気した上にDVまでしてきたの! ほら、この痣!」
何度も話したからかスムーズな説明をする愛花。
「そ、そうなんですか……」
「だから、あいつに関わっちゃダメだよ。ひどい目に遭うから」
「ひどい目……」
何故か明日実が俺のことをじっと見る。
そして一瞬、ニヤリと笑みを浮かべると、話に戻っていった。
「(なんだったんだ今のは……)」
昼休み。
食堂に訪れた俺は、日替わり定食を注文し、どこか座る場所がないか辺りを見渡していた。
「(お、あそこ空いてるな)」
たまたま空いていたテーブル席を見つけ、足早に向かう。
「なぁ、おい見ろよ」
「あれが番長の九重か」
「妾が五人いるらしいぞ」
「天野のお母さんも手玉に取ったとか」
噂に尾ひれがつきすぎだろ。
ツッコみたくなる衝動を抑えて、俺を避けて開いた道を歩く。
その途中、いかにもイケてます感を前面に出した男四人組が正面に見えた。
そのうちの一人は、あの黒髪マッシュの月島だった。
「お、これはこれはDV男じゃないか。その後の調子はどんなもんで?」
「(嫌味な奴だな……)」
できる限り関わりたくないので、無視をして横を通り過ぎる。
「はっ、だっせぇ奴」
男四人組は見せつけるように笑いながら消えていった。
さっきのことは忘れて、ようやく空いていた席に座る。
手を合わせて食べようとしたとき、隣の女子がわなわなと震えていることが分かった。
ちらりと横を見ると、
「ひぃぃぃぃぃぃぃッ!!!!!!!!」
「に、逃げよ!!!!!!!!!」
「許してくださいぃぃぃいぃぃぃぃいい!!!!」
…………。
…………。
「…………いただきます」
これからは空いている席を探す必要はないかもしれない。
夕陽に染まった廊下を歩きながら、はぁとため息を吐く。
「(ここまで嫌われると、さすがにメンタルにくるものがあるな……)」
今日はやけに逃げられることが多かった。
たまたま出会い頭でぶつかり、「大丈夫か?」と声をかけたら、
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!!!』
まるで怪物を見たかのような反応で逃げられたし、目の前でプリントをバラまいた女子生徒がいたので拾ってあげたら、
『ごめんなさいなんでもしますからぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!』
とみんなのいる前で泣かれたり。
以前は人相の悪さで怖がられてはいたがここまでではなく、噂が変な広がり方をしたために見た目通りガチでヤバい奴という認識をされていた。
「(余裕ぶっこいてたけど、さすがにキツイな……)」
なんてことを思いながら、鞄を取りに教室の扉をガラリと開ける。
するとそこには、背筋をピンと張り、絵になる姿で窓の外を眺める明日実がいた。
「(……って、なんで俺の席に座ってんだよ)」
心の中でツッコんでいると、明日実が俺に気が付いた。
「あ、やっときましたか、九重さん」
「あ、え、えっと……俺に何か用?」
「はい、そうなんです」
明日実が立ち上がり、俺に近づいてくる。
「九重さん……いや、九重様」
「え、様?」
頬を赤く染め、言うのを躊躇う明日実。
一体何を言われるのか考えると、昼間に俺の顔がタイプと言っていたことを思い出した。
「(いや、まさか……)」
しかし、放課後の夕陽の染まった教室も、照れくさそうにスカートを掴むその仕草も。
まるで告白をするかのような明日実の姿に、俺はごくりと唾を飲みこんだ。
「あ、の……九重様」
「っ……!」
明日実の一挙一動に全神経が集中する。
ぷるんとした唇を震わせて、明日実は遂に告げた。
「わ、私を九重様の思うがままの――性奴隷にしてください!!!!」
…………うぇ?
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