21.再会


「それで、今日は何をするんですか? ユウさん」


「とりあえず二層の探索かな。無理しない程度に慣れていこう」


「はーい!」


 元気よく手を挙げるヒマリの周囲には撮影用ゴーレムが飛んでいる。

 今日はしばらくぶりに私が配信に出る。

 最近はキャンパーの件やアヤメのことがあったからね……。


 第二層は篝火に照らされた遺跡。

 ダンジョンと言えば、みたいな内装だ。

 天井も低めだし閉塞感があって探索していてあまり楽しくない。


「……そういえば配信中なのにコメントは見なくていいの?」


「はい! ユウさんとの時間優先です!」


「…………」


 満面の笑みでそんなことを言われるとさすがに照れる。

 リスナーが不満を抱きそうだけどいいのだろうか、と考えていると、ヒマリいわく『二人で配信をする時はお互いを優先してほしい』という層が多いという。

 ……まあ、そう思わない人も居るだろうけどそこまで気にしていては何もできないからね。


「キャンパーもいなくなったし、当面の目標は第二層突破ってことにしよう」


「が、頑張ります。……いけるかな、あたし」


「大丈夫でしょう。ヒマリも戦い慣れてきたし、最深部までに遭遇するモンスターをその都度倒していけばレベルも適正まで上がると思――――」


 そんなふうに今後の展望を話し合いつつ、十字路を曲がろうとした時だった。

 遠くからかなり切羽詰まった叫び声が響く。


「助けてくれええええ!」 


 男の声だ。

 焦り切った足音と共にこちらへ近づいてくる。


「……ユウさんってこの類いのトラブルに遭遇すること多くないですか?」 


「やめてよ、私もわりと本気で悩んでるんだから……」


 若干げんなりしつつ待ち構えていると、通路の奥から中年の男探索者が泣きべそをかきながらこちらへ全力疾走してくる。

 その後ろには、大量のコウモリのようなモンスターを引き連れていた。


「マスクバットか」


「どんなモンスターなんですか?」


「顔にべちゃって張り付いて来てめっちゃ血を吸ってくる。外から見るとコウモリのお面みたいだからマスクバット」


 なるほど、と頷くヒマリと一緒に武器を抜く。

 一匹ごとはさほど強くはないが、一度顔に張りつかれたら視界が塞がれて非常に危険だ。

 顔に着いた個体を剥がそうとしている間に他のバットが身体中から血を吸い出そうとしてくる。


「とにかく顔を狙ってくるからそこだけ気にしてればいいよ」


「了解です。おーいおじさん! あたしたちの後ろに来てください!」


「わ、悪いな……!」


 向かってくるおじさんとすれ違い、そのままコウモリたちへと向かって行く。

 行動パターンは思った通り、こちらに一番近い位置にいる個体が顔に突撃してくる。

 わかっていれば対応は難しくない。顔の前に刀を構え、そのまま軽く振るだけで両断できる。


「まず一匹」


「こっちも倒しました!」


「油断しないで、同じことを繰り返してれば勝てるから!」


 指示を飛ばしつつ、向かってきた二匹目を切り捨てる。

 それをしばらく続けていると、いつの間にか群れを全て倒していた。

 あたりには小粒の魔石が砂利のように散らばっている。


「ふー、何とかなりましたね」


「うん。ヒマリも良い動きだったよ」


「えへへ……そうですか?」


 ちょっと褒めると露骨に照れる。

 だけど自惚れることはないので、ヒマリは本当に教えがいのある子だと思う。


(……そうだ) 


 そう言えばさっきのおじさんのことを忘れていた。

 無事かなと振り返り――――そこでやっと気づく。


 ダンジョンは薄暗かったし、私はマスクバットたちに視線を向けていたから良く見えなかった。

 ……いや、もしかしたら無意識に見ないようにしていたのかもしれない。


 無精ひげに白髪交じりの髪。

 少し人相は変わったが、間違えるはずがない。


「た、助かったよ……それと久しぶり、ユウ」


「…………お父さん」


 頼りなさげな笑みを浮かべるその男は――私たち家族に借金を残して女と失踪した、私の父親だった。

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