20.修羅場は長続きさせるとガチで沼


 キャンパーのあれこれが片付いて、やっとこさ平和なダンジョン探索ライフが訪れた。

 と、思っていたのに。


「御影さーん。また後輩の子が来てるよー」


「……………………」


 放課後。

 教室の入り口を見ると、こけしが制服を着て歩いているような可愛らしい子……相楽アヤメがそわそわとこちらを見つめている。

 私は鞄を持って、彼女に近づいていく。


「先輩、お迎えに上がりました」


「……あの、毎日わざわざ来なくてもいいからね?」


「私があなたのそばにいたいんです♪」


 その発言に、クラス中がにわかにざわめく。

 ああ、またいらんことを……!

 私はアヤメさんの手を引いて足早に教室を出た。


「ほら、行こう」


 アヤメはどうやら私と結婚したいらしい。

 彼女の”依頼”を達成して、その流れで親御さんにあいさつしに行った結果こうなってしまった。

 私は断ったはずなのに……。


「今日もダンジョンにお潜りになられますか?」


「うん。年中無休だから」


「素晴らしいです」


「…………あの、もしかしてセンターまでついてくるの? アヤメって探索者じゃないんだよね」 


 そう問うとアヤメは「もちろんでございます」と楽しそうに頷いた。


「できる限りそばにいたいと願うのは伴侶として当然でございましょう?」


「伴侶ではないけど……」


「それと、今はライセンス教習を受けている真っ最中ですので、いつかはお供させてもらうことになるかと存じます」


「そっかあ……」


 そうなった場合面倒を見る自信は無いな、とため息をついてしまうのだった。



 * * *



「あっ、ユウさん! ……なんですかその女」


 センターに入るとヒマリが待っていた。

 ぱっと華やいだ表情が、私の腕に抱き着くアヤメを見た瞬間すごい勢いで曇っていく。


「伴侶でございます」


「いや違うが!?」


「は、伴侶……あたしという女がありながら……」


 青ざめたヒマリは、ふらふらと頼りない足取りで近づいてきたかと思うとアヤメの反対側の腕に抱き着いた。

 重い……。


「あの、ヒマリさん? 離してもらえると助かるんだけど……受付行けないし」


「あたしはバランスを取ってるだけです」


「私は天秤じゃないんだけど……」


「その女が離せば……いや、どちらにせよ離しませんが」


「ユウ先輩、その方はもしや……」


「ヒマちゃんねるのヒマリンです! 登録者は300万です!」 


 なにで張り合ってるの……。

 あー空気が悪い。逃げたい……。

 どうしてこんなことになってしまったんだろう。

 

「御影さんが新しい女を侍らしてるぞ」「やっぱすげえな御影さんは」「なんか週一くらいで増えてね?」 


 あああ目立ってる!

 周囲の視線が痛い!

 かくなる上は仕方がない。

 

「…………仲良くしないと二人の連絡先ブロックするからね」 


 そう呟いた瞬間、二人は勢いよく私の腕から離れ、がっちりと握手をした。


「小日向ヒマリです。以後よろしく!」


「相楽アヤメと申します。こちらこそ、嫌と言うほど仲良くしましょう」


 あはは、あはは、あはははは……なんて笑い声を交わす二人。

 これはこれで若干気持ち悪いな……なんて思いつつ、私は受付を済ませに行くのだった。

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