18.めでたしめでた……し?
その後の話。
ダンジョンセンターに戻った私を迎えたのはいっぱいの歓声だった。
「御影さんが戻って来たぞ!」
「うおお御影さんだ!」
「ありがとう!」
「俺たちの救世主!」
「ひぃえ……」
ちょっと待って、なんか入る前より人が増えてない!?
職員さんだけでなく、他の探索者らしい人たちも大勢集まっている。
そんな人たちが一斉に……うう、嬉しいけど目立ちたくない……。
何とかこの人混みをくぐり抜けてセンターを出る道を探していると、いつものプリン頭の職員さんが近づいてきた。
「御影さんありがとうございますー」
「あ、職員さん……い、いえ……報酬のためなので……」
「またまたぁ。あ、そう言えば転送してくださったキャンパーの方々はこちらで預かっておりますのでー」
と、指を差した一角には数十人の男性探索者たちが光の輪で拘束されていた。
あれは緊急時に使われる規則違反者拘束用のツールだ。気絶させたうえで身動きを完全に封じる。
実際に使われてるのは初めて見るかも。
というか、なんだか捕まってる人数が増えたような……?
そんな疑問がこもった視線を察したのか、職員さんが説明してくれる。
「あ、あのキャンパーたちはですねえ、全員がダンジョン内に留まってたわけじゃなくて、たびたび外に食料なんかを買い出しする人が居たみたいなんですよぉ」
「ああ、確かそんなことを言っていたような……」
ダンジョン内に食料は無いから地上で調達する必要がある。
モンスターは倒すと黒い塵になって消えちゃうしね。
……生きたままかぶりつけば食べられるのかな? いや、やらないけどさ。
「で、あなたが倒してくれたキャンパーさんたちを尋問して食料班の事を聞いて、センターに戻ってきたところをここにいる探索者さんたちが捕まえてくれたってわけですー」
「なるほど……」
頷いていると、探索者さんたちの中から一人の男が近づいてくる。
かなり体格のいいボディビルダーみたいな人だ。なんかテカテカしてる……。
「お嬢ちゃん、ありがとな。俺たちあいつらに二層で足止め食らってたんだ」
「あ、あそう……なんです……か」
「お嬢ちゃんがあいつらを追っ払ってくれるって聞いてな。俺たちもどうにか力になりたいと思ったんだよ。本当に感謝してる」
「や……え、まあ、はい……こちらこそ……」
うう、初対面の人と喋るの苦手だ……。
まあでもみんなが助かったなら良かったかな……。
「あ、あのっ」
澄んだ声に振り向くと、相楽さんがおずおずと見上げてきた。
と思ったら、いきなり深く頭を下げる。
「このたびは本当にありがとうございます……!」
「い、いやいや、いいよ。報酬もくれるって話だったし」
「いえ、それとこれとは別の話でございます。報酬のことなのですが、金銭以外にもお渡ししたものがございまして……良ければ私の自宅に来ていただけませんでしょうか」
「……自宅……うーん、まあそのくらいなら……」
「そうですか! それではご都合の良い日を調整したく存じますので連絡先の交換を……」
「う、うん」
言われるがままにGuildのIDを交換する。
なんだか大ごとになってきちゃったな……でも貰えるものは貰いたいし、仕方ないか。
「ふふっ、ありがとうございます――――それでは当日に」
そう言って微笑む相楽さんの頬はリンゴのように赤く染まっていた。
* * *
そして後日。
私の目の前にはとんでもない規模の日本庭園が広がっていた。
あんまり詳しくないけど庭だけでドーム球場くらいありそう。
「でっっっっっか…………」
「どうぞこちらへ」
立派な門をくぐり、相楽さんのあとをついていく。
うおお門から家までが霞んで見える……え、ほんとにあれ家だよね?
「あの、私ジーンズにパーカーで来ちゃったんだけど大丈夫……?」
「何も問題ございません。ユウ先輩はここでは例え全裸であろうと好きに振る舞えるよう話を通しておりますので、ご実家と思ってくだされば」
「いや全裸にはならないけど……というかどういう話を通したの」
「ふふっ、ただの例えでございますよ。ユウ先輩は面白いお方ですね」
くすくすと楽しそうに笑う相楽さん。
かと思えば、くるりと振り返り、真剣な表情に変わった。
「ひとつお願いがあるのですが……以降私のことはアヤメとお呼びくださいませ」
「う、うん。アヤメ」
「はいっ」
わあ嬉しそう。
ちょっと恥ずかしいけど断る理由も無い。
ただなんだろう……この外堀を埋められてる感は……。
ま、気のせいだよね。
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