17.ぼっち探索者なので対多数戦闘には慣れてるんです


 一人倒した瞬間、周囲のキャンパーたちが一斉に襲い掛かってくる。

 剣、槍、ハンマー。まず三方向から武器が振り下ろされた。


「てめえよくもゴッチンをぐぇっ」


 顔に刺青がある人の懐に入り込み、鳩尾に刀の柄を突っ込んで気絶させる。

 ゴッチンって誰……ああ最初に倒した人か。

 

 残りの剣と槍をかわしつつ、空いた左手で刺青の人が落としたハンマーを拾う。

 身の丈ほどもある大ぶりなタイプだ。

 私はぐっと腕に力を込め、奪ったハンマーで周囲を一気に薙ぎ払った。


「ぐあああああぁっ!!」 


 叫び声を上げながら数人が吹き飛ぶ。

 よし、これで動きやすくなった――と思ったら、後衛担当らしい杖を持った男が何やら詠唱している。


「ファイアボール!」


 赤く発光した杖の先端から火球が飛んでくる。

 弾速と威力の高い、汎用性に優れた魔法。

 でも対処できないわけじゃない。

 私はハンマーをバットのように構え、タイミングを合わせてフルスイングした。


「よいしょ」


「はっ、打ち返…………ぎゃああ!?」 


 かきーん、なんて音は出ないけど、跳ね返したファイアボールが後衛の男に直撃して髪を焼く。

 そのまま残った遠心力を利用してハンマーを適当な他のやつに向かって投げ飛ばした。


「ちょぶるへっ」


 腹に直撃した男は妙な断末魔を上げて気を失った。

 これでだいたい残り半分。

 だん、と足を踏み鳴らすと、キャンパーたちはびくりと肩を跳ねさせた。


「お、おいお前らビビってんじゃねえ! まだ全員でかかればなんとかなるだろうが!」


「……そんな根性があるなら普通の探索に情熱を燃やした方がいいと思うんだけど……」


「うるっせえ!」


 ひいい。

 いきなり大声出さないでよ……。

 だけど、ここで逃げ出そうとしない当たり、やっぱりあまりダンジョン慣れはしていないんだというのがわかる。

 そのへんはヒマリの方が優秀だ。


 それに多勢に無勢はその通りだけど、いっぺんに攻撃できる人数には限界がある。

 お互いの武器がぶつかっちゃったり、最悪同士討ちの危険性もあるからね。

 そのあたりこの人たちは集団で行動してるわりに集団での戦いに精通してるわけじゃない。

 まあ、今まであまり考えなくても何とかなって来たんだろう。


「どいつもこいつも見下しやがって……緊急クエストだぁ? 知らねえよ、おら何してんだ行けよお前ら!」


 ぱちん、とリーダーが指を鳴らす。

 それが緊急時の合図だったのか――私を取り囲む他のキャンパーが一斉に大量の魔石を投擲する。

 火、水、氷、雷、風――様々な属性が炸裂し、私に向かって襲い掛かって来た。


「――――――――」


 着弾した途端、無数の属性魔力が衝突したことで大爆発を巻き起こした。

 キャンパーたちはその余波で吹っ飛ばされる。

 しかしリーダーだけは口元に笑みを浮かべていた。


「は……ははっ! せっかく集めた魔石だが仕方ねえ……これでこの女もおしまいだ! ハハハハハハハ!」


 高笑いが響く。

 釣られてキャンパーたちも笑い出し――――すぐにそのうちの一人の声が止む。

 

「あ……え?」


 かすれるようなうめき声の後、小太りの男が崩れ落ちる。

 その背後には、『獅子の仮面』を装着した私。

 男の首に峰打ちをして気絶させたのだ。


「は……なんだお前、いつからそこに……?」


「え……いや、爆発の直前に大ジャンプして避けたあと天井を蹴ってこの人の後ろに回っただけ……」 


 さすがに素の状態だとそんな芸当は不可能だけど、獅子の仮面でフィジカル系のステータスを増強すればできないことはない。

 さすがにひやっとした……。


「く、くそ……お前ら!」 


 指示を出そうとしたリーダーは気づく。

 仲間たちがひとり、またひとりと倒れていく。

 そしてリーダーの背後に回った私は首元にひたりと刀を押し当てる。

 ごくり、と生唾を吞む感触が伝わって来た。


「は、早……」


「……あなたたちのせいで困ってる人がたくさんいるんだよ。こういうことはもうやめてくれる?」


「誰が……ひっ」


 刀身を、少しずつ首に食い込ませていく。

 ……まあ、別に個人的に恨みがあるわけじゃない。

 

 でも相楽さんの気持ちはよくわかるから。

 きょうだいが傷つけられて黙っていられないのは私も同じ。

 だからこうして徹底的にやる。


「……殺しはしないって思ってるんでしょ。でもね、ここには私たちしかいない。例えばあなたの息の根を止めた後で火の魔石を使って死体を焼いて証拠隠滅することもできるし、そもそも君たちが怖がって自ら死を選びました、って言えばセンターの人たちは信じてくれると思う」


「…………じょ、冗談だよな?」


「先に冗談で済まないことをしたのはあなたたちだよね?」 


 刀身が首の皮を薄く裂き、赤い血が滴る。

 リーダーの全身が震え出し、血の気が引いていく。


「ねえ、どっちを選ぶ? ここで潔く殺されるか、ああ、それとも両足潰されて二度と探索者ができない身体になってみる? ……それかセンターの人たちに引き渡されて罪を償うか……」


「…………す」


「す?」


 静かに問い返してやると、ひきつけを起こしたような呼吸の後、リーダーはやけくそのように叫んだ。


「すびばせんでしたぁっ!! だから、ひっ、ひっ……殺さないでぐだざいいいいぃぃ!!」


「……うん、わかった」


 私は刀を首元から降ろし――リーダーがほっと胸を撫で下ろしたところで、腹を柄で思い切り突いて気絶させた。

 白目をむいたリーダーの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃで、ちょっと見るのが辛い感じだった。


「…………こういうのは二度とやりたくないって思ってたんだけどな…………」


 脅すような真似とか、無闇に怖がらせたりとか、そういうのは中学の時に卒業したのだ。

 だけどこれでたぶん、この人たちは二度とこんなことはしないだろう。


 私は倒れたキャンパーたちをえっさほいさと一か所に集め(重かった)、帰還石でセンターへと転送するのだった。

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