11.ストーカーが二人もいてたまりますかって話よ


 普段はダンジョン探索に精を出しまくっているけれど、あくまで私は女子高生。

 そう。どれだけぼっちであろうとも、華の女子高生なので日中は学校に通っているのである。

 ただ最近はなんだか様子が違って――――


「…………??」


 移動教室に向かう際、背後から誰かの視線を感じて振り返る。

 ダンジョン探索にみっちり取り組んでいることもあって、これでも感覚は鋭い方だ。

 この気配は気のせいじゃない。

 気配を隠そうとしているのも感じるので、何となく私と同じ探索者なのかもしれないと想像した。

 

「うーん……ヒマリ二号だったりするのかな。なんて」


 それは半分冗談だけど。

 一応気に留めておいて、私はクラスメイトたちの後をとぼとぼついていくのだった。





「……やはりあの方でございます……!」


 潜められたその声に、私が気づくことはなかった。




 * * *



 私が住む街……花織はなおり市にはダンジョンがいくつも存在するのだが、私はその中からひとつ決めて探索することにしている。

 これはなぜかと言うと、ダンジョンごとに地形パターンや出現するモンスターが違うなど、かなり勝手が変わってくるからだ。

 人によっては色々なダンジョンに手を付ける場合もあるらしいが、私は出来るだけ安定した探索がしたいので『花織市第一ダンジョン』に絞っているのだ。

 

 第一ダンジョンは各層5階ごとの全5層構成。つまり全体で25階まであるってことになる。

 私は現在5層まで到達済み。今の実力なら最深部までたどり着けるだろうけど……準備が必要なこともあって後回しにしている。


「お、帰還石。ラッキー」


 今日は第二層……遺跡ダンジョンを探索することにしている。

 ハンドピッケルで紫の鉱脈から採取したのは帰還石。

 使用すると一瞬でダンジョンから離脱できるレアな魔石だ。

 左耳に付けた探索サポート機器――ナビに搭載された帰還システムは発動するのに時間がかかる上無防備になるので、もしもの時のために帰還石は持っておくと気が楽になる。


 私がなぜわざわざ第二層に来たのかと言うと、階層ボスと戦うためである。

 ダンジョンの各階層の最深部……五の倍数の階には次の階層への道を塞ぐボスがいる。

 階層ボスは倒しても二週間ほどで復活するので、私が倒しに来たというわけである。


「もうすぐボス部屋だと思うんだけど……」


 妙な違和感がある。ここ一帯を歩く間、まったくモンスターに遭遇しない。

 気配すらしないので、他の探索者に狩り尽くされたのかな、と適当に予想をつける。


 薄暗い通路を進んでいくと、前方の曲がり角の先からざわざわと人の声が聞こえた。

 時折騒がしい笑い声が上がっていて、若干委縮してしまう。


「うう、誰だろ……」


 角を曲がってみると、ボス部屋と思われる扉の前に広がる大部屋にいくつかのテントが立てられていて、そこでは10人弱の男の人が火を囲んでいた。

 よく見ると串を刺した肉や魚を焼いていて、お酒も飲んでいるみたい。

 陽キャだ……近づいたが最後、私みたいな陰の者は灰になって消えてしまう……。


「あの人たちにどいてもらって……いやいや無理無理」


 ヤバいモンスターと戦うことはできても年上の陽キャ集団に突っ込んでいくのはきつい。

 諦めた私はすごすごと引き下がり、第二層をうろついてモンスター狩りに勤しむのだった。

 こんなところ、ヒマリには絶対見せられないな……。


 この時の私は思いもしなかった。

 ほどなくしてあの陽キャ集団に突っ込んで、ぶちのめすことになるだなんて。

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