口のなかに、なんか泥みたいなのが流し込まれる。


「うぇぇ」


 思い出した。というか起きた。彼女の、お粥もどき。泥か。


「おはよう」


 彼女。


「レモン入れたの。起きるかなって思って」


 泥じゃなかった。レモンの薄皮。


「美味しいでしょ?」


 あったしかに。味はある。わるくない。レモン風味。ごはんも、もたもたに煮込んである。


「こんなにうまくなるまで。はたして何年」


「3年」


 そのまま、口にお粥が流し込まれる。口移しで。レモンの薄皮をきれいに舌で選り分けたのか、おいしいごはんの部分だけが。わるくない。


 そのまま。ベッドに沈み込む。やわらかい。


「寝てな」


 起きようとして、脚で軽く踏まれた。沈み込むマットレス。彼女。背が伸びたのか。違う。服が違う。


「本当に、3年経ったのか」


「経ったよ。路地裏で転がってたの。3年」


「探してくれたのか」


 無言。


 彼女の頬を、涙が伝った。声も音もない。ただ、涙だけ。

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