第3話
「何か作るか」
そう言って、キッチンに立つ彼を。ぼうっと眺める。
彼の心には、何もない。何もないのに。彼は消滅に向かって走り、任務を越えて、帰ってくる。
彼の心には、わたしのように。何か、伝えることのできない何かがあるんだろうか。静かな心の水面の、その、下に。
「できましたよ、私の恋人よ」
「いただきます。わたしの恋人よ」
彼は。わたしの名前を呼ばない。たぶん、知ってるけど、あえて呼んでない。
そして、私は彼の名前を知らない。名前が、無いんだと思う。任務に失敗すれば、消えるから。
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