第3話 いざ青森
「私、青森行ってきます!」
「……!?」
「え?青森だよ?遠いよ?」
「はい!行ったこともありませんが、お2人の思い出の地をこの目で見てきます!」
「行ってどうすんだよ…」
「どうもしません。行くことに意味があるのでもっと詳しく青森のこと教えてください」
「よし!そしたらチビだった頃の
「はい!喜んで!」
「バカ……」
夏休みの相談をしに押しかけたら、
手塚先生の子供時代の話を聞く事ができた。
はじめは
いつの間にか会話に参加している。
「大樹ってさぁ、今はこんなだけど子供の頃は怖がりだったの」
「先生にもそんな時代があったんですか」
「どういう意味だよ」
「青森の親戚の家に泊まった時なんかね、夜、トイレにも行けなくて、我慢しすぎてオネショしちゃったりね〜」
「だから、
「アハハハ!先生がオネショ?でもわかります!田舎の家ってなんか怖いですよね。私もお婆ちゃんちに遊びに行くと、座敷わらしとか出るんじゃないかってビクビクしてましたもん!」
「
「お前が座敷わらしみたいなもんだろ」
「先生ひどぉ!風子さん、あとは何かありませんか?」
「あとは〜、本当は虫なんて触れないくらい苦手なくせに、歳の近い男の子達がカブトムシとかカマキリ捕まえてんの見て、『俺も』とか言って、無理して捕まえてさぁ!その時の歯を食いしばった顔がなんとも言えなくて、今でも思い出すと笑っちゃうんだよね〜」
「え〜!先生、虫ダメなんですね?可愛いのに」
「お前と違って俺はデリケートだからな!」
「何言ってんの。でもその見栄っ張りなとこ、あの頃から変わってないよね」
「はぁ?」
「見栄っ張りというか負けず嫌いというか。屋外の遊びじゃ勝てそうもない事がわかったら、家から持ってったトランプとか人生ゲームで、その子達を負かしてドヤ顔してたもんね〜?」
「アハハハ!やりそ〜!」
「白石、お前あとで覚えてろ」
「でもこんなひねくれ者なのに、なぜかあの頃から女子にモテてさぁ」
「え?そんな頃からモテたんですか!?」
「やめろよ…」
「女の子も2人くらいいたんだけど、『大樹君!大樹君!」って大樹に夢中になっちゃって。どっちが隣に座るかでケンカになっちゃったりね〜」
「さすが先生…。幼少期からイケメンだったとは…」
「知るかそんなこと!いちいち覚えてない!」
「まあね、東京から来たってだけでカッコ良く見えたんだろうね?実際はこんな奴だって知らないからね〜」
「いい加減にしろ!話それてんだろ!今はコイツの夏季休暇をどうするかって話だ」
「そうだった!ごめんごめん菜穂子!」
「いいんです!私の知らない先生の思い出が知れただけで胸がいっぱいですから」
「……。」
「でもさ、冷静に考えて1人旅なんて本当に大丈夫?夜とかそこそこ怖くない?」
「だったら姉貴がついて行けよ」
「そりゃあそうしてあげたいけど。先約が入っててさぁ…」
「おかまいなく!私、これを機に1人でも旅に行ける大人女子になりますので!」
「大人女子って…言ってることめちゃくちゃだぞ」
「あっ!いいこと思いついた!だったら大樹も行きなよ!」
「……!!」
「……!!」
風子さんのまさかの提案に先生と目が合ってしまい、
一気に気まずくなる。
「いえ!大丈夫です!私が勝手に聖地巡礼してくるだけなので!」
「なんで〜?2人で巡礼してくればいいじゃん。ね!そうしなよ!」
「けっこうです!先生はゆっくり体を休めてください!」
「誰も行くとは言ってない!なのに何で断られなきゃならないんだ」
「アハハ!大樹、残念だったね〜?」
「全然残念じゃない!うるさいのが居なくてせいせいする!」
「アハハ。ですよね…」
あとで知った事だけど、
私と先生の夏季休暇期間は同じだった。
偶然だけどなんだか嬉しい。
けれど行くと決めたからには目的を成し遂げなければと、
休暇までの数日、
風子さんに伺った先生の思い出の地を調べた。
そして出発の朝。
1人荷物を持って部屋を出る。
なぜか先生のことが気になってしまい、
その部屋を見上げ小声で挨拶をした。
「行ってきます」
いよいよ未知の大冒険が始まる。
子供の頃は何も考えずに過ごしていた夏休み。
今考えると、
計画してくれたり
色々な所に連れて行ってくれた両親には感謝しかない。
それなのに私は
「つまらない」とか「早く帰ろう」などと
心ない言葉を平気で口にしていた。
働きだして初めてわかった。
お金を稼ぐ事の大変さ。
そのお金を使ってでも行きたいと思った青森への旅。
試行錯誤しながら計画をたて、
今、東京を発つ。
本州最北の地・青森に向けて新幹線に乗り込んだ。
ここに先生はいない。
けれど心には子供時代のチビ先生を連れて、
“ 先生のあの頃”にタイムスリップする。
いざ、青森県!
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