怖い商人と村長


「やって来ました!遠くから!森抜け川越え山を超えて!行商人のこの私!生まれは遠く、育ちは近い!寄ってらっしゃい見てらっしゃい!何でもご用意致しましょう!」


商人は語呂が良いのか毎回来る度にこの言葉を言っている。それが合図となり、俺たちは商人の元へと走って行くのだ。だが、今回は違う。


「ありゃ?人が来ないですね。珍しい。買うものでもないのでしょうかね?まさか…他の行商人が来たとか!?」


腕を組み、考えている様子の商人に俺は家から出て、話しかけに行く。


「こんにちは。商人さん」


「おや!?男の子…ということはアルス君ですね!私のことはケルスかケル姉と呼んでと言ってるじゃないですか!」


商人はケルスといい、ショートカットの可愛い少女だ。小さなバッグとフード付きのコートを来ており、バッグからありとあらゆるものを出す。ちなみに人間族ではなくエルフ族だ。

想像では超美女!と思うかもしれないが、全く違う。子供みたいな見た目だ。

だが、見た目に反して年齢がいって…おっと何か悪いことを考えているな!?という目をされているから年齢に関してはまた後ほど。


「遠慮する。で、今日なんだけどさ。ある商品を見てほしいんだ」


ケルスは俺の言葉に目を輝かせ、目を輝かせ口元をニヨニヨとさせる。


「ほほぉ…それは興味深いですなぁ〜。この私のお眼鏡にかなうものであれば買取りましょう!」


その言葉に俺は手を挙げると俺たちを村の人達が囲う。ケルスは驚き、俺に抱きついてくる。


「な、なんですか!?いつから居たんですか!?」


「話は後ですから、まずは行きま…」


「アルスから離れて!」


ノエルは俺の家で留守番という話だったが、ケルスが抱きついたことを感じとったのだろう。家から飛び出し、村人たちの股をすり抜け、俺たちを引き剥がす。がルルルと威嚇しているあたり犬にしか見えない。


「すんません…うちのやつが…」


「いえ…え!?うちのやつ!?結婚したの!?私以外のやつと!?」


「誤解を招く言い方をするな。あとノエル、臨戦態勢に入るな」


ノエルはまるで狼が獲物に飛びつく前のようなポーズで俺を見ていた。なにかしようとしたことは間違いないだろう。止めてよかった。


「………(じゃあ私も行く)」


「………(分かった。ただ暴れるなよ)」


ノエルはニコッと笑顔になり、俺の手を繋ぐ。

どうせ着いてくるつもりだったんだ。連れていこう。


「何この夫婦みたいなやり取り。目だけで会話してる…恐ろしい子!」


それを見ていたケルスは何やら怯えていた。村人たちは早くしないと村長が来るぞと言いたげな目をしていたため、俺はケルスをあの場所へ連れていく。


「な、なんですか?この場所…はっ!?もしかして私の耳なんですね!ダメですよ!耳は触らせませんからね!」


「商人の仕事忘れてるな?…商品だよ商品」


「そうでした!して、どれです?」


俺は筋肉さんに合図をし、商品を持ってきてもらう。無事だったようで一安心だ。


「この二つだな」


「…これは…ほうほう…コロコロして遊ぶものと…ほぉ!引き抜いて遊ぶものですか!」


ケルスは片方の手でサイコロをコロコロと転がし、片方の手でジェンカをしていた。かなり器用だな…俺ならジェンガを崩す気しかない。


「転がしてるのがサイコロ、引き抜く方がジェンガって言います」


ケルスは顎に手をやり、目を見開く。

この時、ケルスは必死に考えているときで俺たちは何もしない方がいい。ケルスを邪魔しようものなら手が出る。俺は一度、頬にビンタされた。


「これ、貰いますね。代金は大金貨1枚で。両替はします。あと制作もお願いします。高級用と安価用と。数は50。売上の六割をあげます。これでどうですか?」


「「「「はっ!?」」」」


俺たちは予想だにしない回答に驚いてしまった。

その上、大金貨なんていう大金を1枚も貰えるということに村人は数人倒れてしまった。

大金貨1枚は日本円にして約1億円。銅貨、小銀貨、銀貨、大銀貨、小金貨、金貨、大金貨、白金貨という順番で高くなっていき、銅貨は100円で10枚で繰り上げだ。


「な、なんで?」


俺はその金額に納得出来ずにいるとケルスはギロリと俺を睨み、強い力で肩を掴む。


「え?売れるからに決まってるからです。そのサイコロってやつは色々と使い道がありますから。ジェンカってやつもそうですよ。やり方によってはいくらでも出来ますよ。てか、なんでもっと早くに言ってくれなかったんですか?こんな金になるもの隠している方がおかしいですよ。馬鹿ですか?馬鹿なんですか?私に損させるつもりでしたか?そんなに私は馬鹿じゃありません。見た目は頼りないかもしれませんが、一日でかなりの金額を稼いでいます。アルスくんは私を侮りすぎです。どうせあなたが考えていたんでしょう。男の子が作ったというのはかなりの価値がつくんです。知らないとは言わせませんよ。その分のお金は払うんです。分かりましたか!?」


「は、はいぃ!」


ケルスに早口でまくしたてられ、呆気に取られてしまった俺は変な返事の仕方をしてしまった。


「では、お金は村長に…」


「あっお金はお母さんに渡してくれないか?実はな、村長が金を盗んだんだよ」


「そうですか。では、お母様に渡しておきますね。あと村長に少しお話をしないといけません。大事なことをアルスさんに言ってませんからね」


「それってどういうこと?」


「アルスさん。一緒に村長の所へと行きましょうか。あとはお金のことに関しても言うこともありますから…私の事を舐め腐った野郎を潰さないと…ね」


ふふふと笑うケルスに俺は恐怖を抱きつつも村長の元へと歩くこととなった。お金を貰ったお母さんたちは他のみんなに均等に分配している様子が見える。俺たちは尊重へ向かう道中、一言もかわさず、葉の擦れる音や鳥の鳴き声が聞こえていた。


俺たちが村長の家に着くとケルスは扉を触れる。すると、その扉は腐っていき壊れた。この人、怒らせたら怖い人だ。


中にはいると布団にくるまった人が1人居た。


「村長、アルスさんに話をしてませんよね?あと金のことも聞きました」


ビクッと震え、毛布から顔を出したその姿は俺の知っている村長の姿とは違う。目が6つ、歯には大きな牙があり、毛布の隙間から見えるそれは蜘蛛の糸の塊だった。

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