理不尽と当たり前


あれからカルウ爺さんと俺は協力し合い、鍛錬をしていた。そして、現在、地面に座らせ怒られている。足が痛い。


「「………」」


「反省した?アルス」


「隣町から捜索の願いが出てたんですよ!困ります!」


爺さんに関してはまぁ聞いた通りだ。勝手にこっちに来たらしい。お母さんに詰められている。

だが、俺に関しては何のことか全く分からない。ただノエルに詰められている。


「俺、なんで怒られてるの?」


「言い訳しない」


「何も言ってないよ!?」


ノエルと先程から噛み合っていないような感じがして、気味が悪い。俺、何かしたかな?


「村長さん?なんでここに来たか言って貰えます?」


「アルス?何してたか言ってもらえる?」


「「釣りをしに…」」


「「そんな言い訳通用しない(しません)!」」


おいおい、ノエルさんや?俺がここに何しに来たのかは知ってるはずだぞ?さっきからニヤニヤしてるのはお母さんの真似をして、俺を問い詰めてるだけだな?今日のご飯にお前の嫌いな野菜ぶち込んでやる!


「全く!あなただけは本当に自由ですね!こっちはいちいち文句言われるんですよ!?出てくるなら行ってから出てきてください!」


「すみません…」


カルウ爺さんは少ししょんぼりしている。まともな理由で怒られているからな。だが、こっちに関しては訳が分からないぞ。ただ分かるのはノエルが悪ふざけで俺を罵倒しているということだけはな。


「アルスだけは本当にバカですね!」


「すみません…ってなるか!誰がバカだ!いつものんびりしようとしてる時に邪魔するのはお前だろ!?」


「このバカ!言い訳しない!」


「…ノエル、覚えてろよ。3日間のご飯にお前の嫌いな苦い野菜で埋めつくしてやるからな」


「じょ、冗談だよ〜!ね!許して!アルス!」


ノエルは俺の上に座り、許しを乞うてくる。頬を掴み、許してくれるまで逃さないということだろう。

だが、俺の座っている場所は地面だ。小さな石がお尻に、刺さってとにかく痛い。


「許さん。これは5日に増やそうかな〜」


「そんなぁー!ヤダヤダ!一生付きまとってやる!」


「今と変わらねぇじゃねぇか!」


俺たちが騒いでいるといつの間にか説教は終わっており、カルウ爺さんは寂しそうな表情をしてあの重い釣竿を持っている。さすがは筋肉だ。


「すまんのう。ワシは帰らせてもらう。それじゃあの」


「おう。それじゃ」


爺さんは何度か振り返りつつ、森の中へと入っていった。まさかの寂しがり屋かよ。


「アルス。あの人が来たら、また言ってほしいの。あの人、村長なのにすぐ逃げるんだもの」


お母さんは真剣な表情をして、俺に言う。その手は軽く震えており、なにかに脅えている様子だった。


「あの爺さんって何から逃げてるの?」


「お嫁さんたちね。その人たちは村の中ではいちばん仕事ができる人たちなの。1度会ったことがあるけど、すごく怖かったわ。『あの人をどこに隠したの!?』って問い詰められて」


「あぁ…その人たちから逃げてこっちに来てたってことね」


「ええ。素直に引き渡せば食べ物とか作物の種とかくれるからありがたいのだけどね。あまり会いたくないの」


なるほど、あの人はレアモンスターということか。俺も知らなかったし、次からは言うようにするか。

俺はノエルを無理やり引き剥がし、立ち上がるとずっと気になることを聞いた。


「そういえばお母さん、さっきノエルと何を話してたの?」


「そうね。少し大人の話を…ね」


俺はどういうことか聞こうとノエルの方を見ると、闇を含んだ目でニヤリと笑みを浮かべていた。

元凶はここに居た…と。

お母さん、悪いことは言わねぇ。早くやめてくれ。俺の命のために。

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