第32話 降級
「――あっはっはっ! まさかちょっと目を離した隙に降級処分とはな!」
「昇級から降級まで史上最短だそうだ」
「セナさん、そんなところでも記録を作らなくても……」
「目立たないと死ぬ病気なの?」
そんな病気があるわけないじゃーん……。
私のせいで今日の
「ま、事情が事情だし、またすぐに昇級できるだろ」
「逆にあのバカはしばらくCランクだろうな」
「
「ん、僕がいたらナイフを投げていた」
迷いなく剣に手を伸ばしたハーグスとガータスといい、冒険者って即断即決で武器を使いすぎじゃない? もっと私のように平和的に拳を振るって欲しいわよね。
「いや暴力という選択肢をどうにかしろよ」
「だが、まぁ、今回は是非も無しか」
「セナさんの美しい手を掴むだなんて、万死に値しますものね」
「ん、今からでも投げナイフ」
中々に物騒な暁の雷光であった。
◇
Fランクだとダンジョンに入れない。
というわけでまた昇級を目指さないといけないのだけど……受付のおねーさんいわく、テキトーにやっていれば一週間くらいでまた昇級させてくれるとのこと。
なんでも、あのゴブリン指揮官の死体を持って帰ってきたのはそれだけ凄いことだったらしい。まぁつまり本当ならもみ消せるレベルだったけど、他の人間に示しが付かないから降級させただけと。
そういうことはギルマスが直接言ってくれればいいのに。彼もまたツンデレか……。この世界にはむさくるしい野郎しかツンデレがいないのかしら?
「……ミーシャ、ちょっとツンデレにならない? 美少女成分が足りないのよ」
「また変なことを言い出しました……」
そんなやり取りをしながら領都を出て、近くの森へ。
本日の予定は薬草採取。
やっぱり冒険者になったのだから一度くらいは薬草採取をしないとね!
「セナのその冒険者像はなんなんだよ? 普通は地味な薬草採取より魔物討伐をしたがるものだろう?」
「お貴族様の中では冒険者ってそういう認識なのか?」
「あ、聞いたことがあります。薬草採取しかできないFランク冒険者が突如として才能に目覚めてSランクに駆け上がる小説が王都で流行っているとか」
「つまり、妄想と現実の区別が付いていないと」
フェイス君はもうちょっと容赦というものをね?
さて薬草採取である。
一番の狙い目はポーションの材料になるという薬草だ。冒険者の必需品と言えるポーションだけど、だからこそ需要が高くて常に原材料不足なのだとか。
もちろん初級や中級ポーションの原材料はすでに人の手で栽培されているのだけど、上級の材料ともなると人工的な栽培は難しく、冒険者が採取するしかないのだとか。
ただ、やはり地味な仕事だし、一日中歩き回って見つからないことも多いらしく、何より他の冒険者から『あいつは魔物も狩れないのか』という目で見られてしまうので人気はないらしい。
しかし今回は昇級までの暇つぶし――じゃなくて、ポーションが準備できればできるほど冒険者の死亡率は下がるからね! ここは頑張りどころでしょう!
というわけで、しばらく黙々と薬草探しをしていたのだけど……。
「……飽きた」
見つからないし、山道を歩くのは疲れるし。無事採取できても大した稼ぎにはならないし。なぜ私はこんなことをしているのだろうか?
「こらえ性がねぇなぁ」
「自分が言い出したことなのにな」
「まぁ、セナさんですし」
「しょうがない」
くっ、みんなからの視線が冷たい。ここはもうちょっと頑張るか、あるいはドカンとレアな薬草を見つけるしか……。
私が薬草図鑑(ギルド受付で販売中。ちょっと高め)とにらめっこしていると――
『――グガァアアアアァアアガアァアアアッ!』
森を揺さぶるかのような咆哮が響き渡った。
これは! 魔物ね! 魔物に違いないわ! しょうがないわね薬草採取は中断しましょう! 背後から奇襲されでもしたら大変だし! 道行く民を襲うかもしれないもの! 魔物討伐こそ冒険者の使命! いざ魔物討伐へ!
「ウキウキしちゃってまぁ」
「目を輝かせちゃってまぁ」
「やっぱりソッチ系が好きなんですね……」
「血を求める女騎士」
ちょっと、ジャンルがホラーっぽくなるから止めてくれないかしら?
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