第27話 野宿する系ヒロイン
私が冒険者になってから、一週間ほど。
初日と二日目こそ色々あったけれど、それ以降は比較的平和な毎日が続いていた。ゴブリンだけとはいえ、お肉もたくさん食べられたし。最近はギルドでゴブリン調査の依頼ばかり掲示されるのよねぇ。
そんな日々の中、喫緊の課題として挙がってきたのが宿泊場所だ。
どうやら冒険者というのは宿泊場所に困りがち、らしい。
冒険中はテント生活なのだから、町に帰ったときくらいはベッドの上で眠りたいのだとか。
数日の宿泊なら町の宿でもいいのだけど、長期滞在となると高額になってしまう。かといって冒険者の仕事柄、長期契約で部屋を借りたのに一月の半分以上が野宿でした、なんてことにもなりかねない。
そんな冒険者向けにギルドが建物内の部屋を貸し出しているけれど、人気があっていつも満員状態だし、冒険者ばかりなのでうるさくて喧嘩も多いみたい。
で。新参者の私がどうしていたかというと……町の近くで野宿していたのだ。
だって騎士は遠征や長期訓練だとテントで寝るのが普通だし。結界の魔石を使えば魔物や不審者対策も万全。衛生的に問題のある安宿に泊まるよりもむしろ健康にはいい気すらするのだ。
そんな生活をし始めてから数日経ったある日の夕方。『暁の雷光』のメンバーに野宿がバレてしまった。冒険が終わったあと、わざわざ町の外に行く私を訝しんで尾行してきたらしい。
使い慣れたテントを眺めながらニッツたちが呆れた声を上げる。
「お前なぁ、一応は年頃の女なんだから……」
「一応は公爵令嬢なんだろう?」
「一応は凄い魔術師なんですから相応の住まいにですね……」
「一応美人なんだから、危ない」
いちいち『一応』って付けるの、やめてもらえません? まるで私がちょっと変わっているかのような物言いじゃないの。
「ちょっと?」
「ちょっと?」
「ちょっと?」
「ちょっと?」
ちょっと、私がものすごい変わり者みたいな物言いはやめてよ。
「とにかく! セナさんにはちゃんとした屋根のある場所に住んでもらいます! 女の子として! そして優秀な魔術師として!」
高々と宣言するミーシャだった。魔術師って『実力者はいい家に住みなさい』みないな決まりでもあるの?
「とりあえず部屋探しは明日からするとして……今日のところは私の部屋に泊まってもらいます!」
え? 決定事項ですか? いきなり部屋にお邪魔するのも気が引けるというか……。
いや、友達とのお泊まり会と考えればありかしら? 公爵令嬢時代は難しかったけど、騎士になってからは四人部屋だったので毎日がお泊まり会みたいなものだったし。
「……それに、一緒の部屋なら色々と聞き出せますし……。実績解除とか、コツとか、魔術の相性とか……。自動展開の結界も教えて欲しいですし……」
ぶつぶつとつぶやくミーシャだった。魔導師団の人といい、なんでこう魔術師は知識欲が強すぎるのか……。いや強くないと魔術師なんて目指さないか。
というわけで。
今日はミーシャの借りている部屋でお泊まり会となった。
◇
ミーシャに手を引かれるセナ。そんな彼女をニッツとガイルは微妙な顔で見送っていた。
「ミーシャ、ずいぶんと懐いたなぁ」
「あいつはエルフであるせいか、どこか壁を作りがちだからな。友達ができたのは喜ばしいことだが……」
「あの『雷光』と同室とは羨ましいぜ」
「おいおいリーダー。変な意味で聞こえるぜ?」
「下心なんてねぇけどよぉ……。ちょっと心配というか……」
「とはいえ、女同士だぞ? 変なことにはならんと思うが」
「……最近は女同士で深い仲になるのを『百合』と言うらしいぜ?」
「なんだそりゃ?」
「セナによると、王都でそういう小説が流行っているらしい」
「むぅ……」
「う~ん……」
唸るニッツとガイルに対して、フェイスがどこか冷たい目を向ける。
「嫉妬?」
「……はっはっはっ」
「生意気言うようになったじゃないか、コイツ」
ガシガシと。フェイスの頭を乱雑に撫でまくるニッツとガイルであった。
子供扱いが不満なのかフェイスがボソッとつぶやく。
「セナの独り占めが気に入らないなら、パーティハウスでも買えばいい」
「……
「
「ま、あそこは規模がでかいからな。……しかし、パーティハウスか。悪くねぇな」
「安宿に泊まると変な連中に絡まれるし、野宿も多いから長期で部屋を借りるのも勿体ないからな。いっそ買い取ってしまうのもありか」
「あとでミーシャとセナにも聞いてみるか」
聞いてみる、といいながらも、すでに屋敷の購入は決定事項になっている
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