第28話 ミーシャの家で
ミーシャの家は、何というか、悲惨だった。
いや、別に建物が古いとか、所々雨漏りしているとか、幽霊が出るとかいう話ではない。ただ――汚かったのだ。
床の上には要るんだか要らないんだか分からない紙が散乱しているし、棚の中には分類もされずに本が突っ込まれ、棚に入りきらない本は床に積み上げられている。
そして何より、埃。埃が凄かった。床の上にまでうっすらと積もっているし。机の上どころか羽根ペンの上まで埃まみれだ。
「なんという汚部屋ヒロイン」
「おへやひろいん?」
「ミーシャ! まずはお掃除よ! こんな部屋で寝られるか!」
「こんな部屋って……。どこに何があるか分かり易い、素晴らしい配置なんですよ?」
「はい出た! 部屋が汚い人のテンプレ言い訳! おかーさんそんな言い訳許しません!」
「お母さんって。そもそも、セナさんってお掃除できるんですか?」
「いくら公爵令嬢でも、騎士団にいたのだから掃除くらいできるわよ」
「いえ、性格的に」
「性格的に綺麗な部屋に住んでいそうだったミーシャにとやかく言われたくないわ! ちゃっちゃっとやっちゃうわよ!」
私は
「さぁ!
「……いやセナさん。なんでゴーレムを使役できるんですか? しかも小さいとはいえ5体同時に――あぁ! 駄目ですゴーレムさん! その書類は貴重なもので! あーその本は動かさないで! すぐ読もうと思っていたんです! あー!」
汚部屋ヒロインの悲痛な悲鳴が部屋にこだまするのだった。是非も無し。
◇
「じゃあ、まずは自動展開の結界を教えましょうか」
「はい! よろしくお願いします!」
直立不動の態勢で敬礼をするミーシャだった。もしかして魔術師というか魔術師団って体育会系?
「とはいってもこれは経験というかコツを自分で掴まないとねー。というわけで今回用意したのはこちらです!」
じゃじゃーん、っと私が取り出したのは小さな麻袋。中に入っているのは、大豆みたいな豆である。なんでも醤油の原材料なのだとか。
「ダ・イーズの実ですか。それを一体どうするのです」
「この大豆を一粒とって、指で弾いてミーシャに当てます」
「……はい?」
「何回かやれば、危険を感じて身体が勝手に結界を展開するようになるでしょう」
「いやいや、どういう理屈ですか? そんなことで自動展開の結界を使えるようになれば苦労はしない――」
ミーシャが疑わしげな様子だったので、
おっと。
久しぶりだから狙いがはずれて、
大豆が直撃した壁からは仄かな煙が。
ちょっと擦ったのか、ミーシャのサイドヘアから何本かの髪が切れ落ちている。
「まぁ、こんな感じで。何回か当たれば身の危険を感じてくれるでしょう。というわけで、やってみましょうか!」
「い、いやいやいや! なんでダ・イーズの実で壁にめり込むんですか!? どんな威力ですか!? そんなの当たったら死んじゃいますよ!?」
「死にはしないから問題なし! ちょっと穴が空くだけで!」
「大問題ですよ!?」
ミーシャの絶叫が家中にこだました。
やはり命の危機というのは秘められた力を発揮しやすいのか、ミーシャはすぐに自動展開のコツを掴んだようだった。
その後、近隣住民から騒ぎすぎだと苦情が来たことは言うまでもない。
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