第25話 決着
「あー、砂だらけ。砂だらけよ、まったく」
「
なぜかミーシャが愕然としていた。そういう『○○だから△△には使えないはず』っていうのが一番魔術師としての可能性を狭めているんだけどね。
まぁ、長い付き合いになりそうだし、それはゆっくりと教えていけばいいでしょう。今真っ先にするべきは――お肉の回収である。なにせ扉の向こうのゴブリンは毒を吸っていないからね。
火炎魔法の火力が強すぎたのかほとんどのゴブリンは真っ黒焦げになってしまっていた。けれど、幸いにしていい感じの焼け加減で残っていたお肉があったので味見。……う~ん、魔法の火で焼いたお肉はイマイチね。やはり炭火か。備長炭を作るしかないか。
「落ちてる肉を食うなよ……」
「本当に公爵令嬢か?」
「貴族にとっては普通……なわけないですよね」
「下品」
フェイス君だんだんと私に対する容赦がなくなってきてないかしら?
ちょっと傷つきながらも肉集めを継続。すると、不自然なほど焼けていないゴブリンを発見した。
……ふむ、王都近くで遭遇した、ゴブリンの指揮官に似ているような? あの個体と同じように上半身に羽織のようなものを着ているし、羽根を使った冠もそっくりだ。ゴブリン……進化……魔術師……ゴブリン・マジシャン? まさかね。
外傷はないから、私の火炎魔法を防ごうとして結界を展開。魔力を全部消費して魔力欠乏症で死んじゃったってところかしら?
もう少し詳しく調べていると――ゴブリンの手から、何かがこぼれ落ちた。
木製の……楽器?
いや、違う。
え~?
なんでこんなものが……?
あまりにも危険なので即回収。
「お? そいつが指揮官か?」
ゴブリンに気づいたらしいニッツたちが近づいてくる。幸いにして『笛』は見られなかったようだ。
「指揮官っぽいわね。魔法を使ったのもコイツかしら?」
「かもな。俺たちでも初めて見るゴブリンだ。……いや、王都の近くで遭遇したヤツと似ているか?」
どうやらニッツも同じ個体を思い出したらしい。
「よし、何か分かるかもしれないし、回収してギルドに持って行こう。……食べるなよ?」
「食べないわよ。私のことを何だと思っているのか……」
「肉狂い」
「肉のことになると見境がなくなる」
「お肉が関わらなければ良い人なんですけど……。いや関わらなくても割と……?」
「肉欲女騎士」
あっはっはっ、ギルドに戻ったら
◇
指揮官らしきゴブリンの肉は回収して、ギルドへ。
その他、焼けたゴブリンの中でも可食部分を拾い集め、今回の依頼先の村に持って行くことになった。
「ゴブリンの肉って一日でマズくなるんじゃないの? 焼けばそんなこともないとか?」
「いや、焼いてもダメだな。でも、マズくても肉は肉。村の連中は冬のための貯蓄を切り詰めて俺らへの依頼料を出したんだから、ないよりはマシだろう」
仕事なのだからちゃんと依頼料はもらう。
それはそれとして、村人が飢えないようにゴブリンの肉を持って行ってあげると。
うんうん、一番単純な『救う方法』は村から依頼料を受け取らないこと。でも、そうせずにお互いが利益を得られる形にしたと。よくできました。おねーさんポイントを1ポイントずつ進呈しましょう。ちなみに1ポイントにつき1回お肉料理を御馳走してあげます。
「ただの肉ポイントじゃねぇか」
「また肉か」
「私エルフなので肉料理はあまり……」
「じゃあ僕が代わりにもらう」
食欲旺盛なフェイス君だった。うんうん少年よいっぱい食べて大きくなりなさい。
ま、御馳走するのは冒険者ギルドに帰ってからにするとして。まずは村人に渡すゴブ肉を回収しましょうか。
わざわざ私たちが働かなくても、村人に洞窟まで取りに来させればいいだけなのだけど、森には他にも魔物がいるから危ないものね。
とりあえず、黒焦げになったもの以外をどんどん
と、なぜかミーシャが痛そうに額を手で押さえていた。
「……毒入りのガラスをぽんぽん出した時も思いましたけど……セナさんの
「え? 確かめたことはないけど……ここのゴブリンくらいは入りきるんじゃないかしら?」
「…………、……そんな大容量の
「ういっす」
なんだか才能への嫉妬より先に心配をされるのは新鮮だったので、思わず敬礼してしまう私であった。
となると、
取り出したるは軍用の荷車。所々に鉄を使っているのでかなり頑丈な一品だ。
「
「え? え~っと……なんでだっけ? 入れっぱなしで忘れていたからなぁ……なんか、こう……戦場に派遣されたときに……酔っ払った勢いで?」
「「「「…………」」」」
ミーシャたちは無言のまま顔を見合わせて、
「「「「酒禁止」」」」
示し合わせたように同じタイミングで禁止令を出されてしまった。なぜだ、依頼達成後にみんなで仲良く
「なぁんか、セナって冒険者に変な期待を抱いてないか?」
「貴族令嬢ってのが本当なら、籠の中のご令嬢が自由気ままな冒険者に憧れるってやつじゃないか?」
「セナさん。私はお酒を飲めませんし、フェイス君は未成年。ニッツさんは単純に弱いですし、ガイルさんは『筋肉に酒は大敵!』教の人間ですから……うちのパーティで常飲する人はいません」
「冒険者なのに……? マジで……?」
あまりにも衝撃的な事実に愕然とする私であった。
◇
荷車に積めるだけ積み込んで、依頼先の村を目指す。
「よっし! 気張れよガイル! 力仕事は男の華ってな! 女子供にいいところを見せるぜ!」
「おうよ!」
「わー男子カッコイイー。……とはいえ、見ているだけというのも気が引けるわね。ミーシャ、ここは私たちも
「え? 私支援魔法は使えますけど自分の強化はちょっと……」
「あらそう? じゃあ私が強化してあげましょう。大丈夫、支援魔法は使ったことはないけど自分を
「いやいや使ったことのない魔術を人に使うのは……みゃあ!? 身体が言うこと聞かない!?」
「あー! ニッツ! ガイル! ミーシャが勢い余って
「うお!? 上半身埋まってるじゃねぇか!」
「今助けるぞ!」
私たちがミーシャの足を掴んで、引っ張り出そうとしていると、
「……途中までセナの
呆れ顔のフェイス君がそんな指摘をしてきた。もうちょっと早く言ってくれませんかね……?
※これで第一章完結となります。
もうちょっと『セナさんらしい』プロットにするので、一週間くらいお休みします。
フォローしていただければ更新通知が行くかと思いますので、よろしくお願いします。
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