第24話 ゴブリン殲滅
「とにかく、だ。あの奥のゴブリン共を殲滅しないと依頼達成にはならないわけだ」
ニッツがリーダーらしく仕切り直しの声を上げる。
「じゃあ、もう一度毒を投げ込みましょうか」
「まだ在庫があるのかよ……。よし、じゃあ俺が扉を叩き壊すから、毒を投げ込んでくれ」
ニッツが大剣を何度か素振りする。うん、あんな金属の塊がぶつかれば扉も壊れるでしょう。
「――いくぞ!」
ニッツが一撃で扉を破壊したので、ゴブリンが襲いかかってくる前に毒を投げ込む。
「風魔法! 行きます!」
ミーシャの魔法に乗って奥の空間へと毒が流れ込む。先ほどと同じように断末魔が響き渡ってきたので、すぐに決着が付くでしょう――
「――っ!
ミーシャが驚きの声を上げる。隣の空間へと流れ込んでいったはずの毒が逆流し、こちらに向かってきたのだ。……ゴブリンが風魔法を使って対抗してきたか、あるいは魔法の主導権を奪われたとか?
まさか、まさか。
ゴブリンが風魔法を使うなんて聞いたことがないし、魔法の主導権を奪うなんてもってのほか。そんなことは魔導師団長クラスじゃないと不可能でしょう。いやでも実際に毒が戻されているしなぁ?
っと、今するべきは考察じゃないわ。風魔法の乱流で毒がかき消されてしまったのだから。
「ニッツ! ガイル! ゴブリンが飛び出てくるわ!」
「よっしゃ!」
「任せろ!」
まずはガイルが大盾を持って突撃。奥からなだれ込んで来ようとしたゴブリンを押し戻す。
しかし勢いが強すぎたのか突撃が止まらず、敵中に孤立しそうになってしまう。
「あまり突っ込むとサポートできないわよ!」
魔力で編んだ糸をガイルの腰に巻き、ガイルを無理やりこちら側へと引き戻す。
ガイルが後ろに倒れ込んだところでニッツが前に出た。
「ゴブリンを押しとどめるぞ! 手伝えセナ!」
「人使いが荒いわね!」
ガイルに巻き付けた糸を消し、刀を抜いてニッツの支援へ。
うまいこと扉の前に陣取れたので、一度に相手取るゴブリンの数は少なくなる。奥の空間にどれだけのゴブリンがいようとも、扉を通れるのは一匹か二匹だけだからね。それだけを相手にしていればいずれは殲滅できるでしょう。
……ただし、それは相手が普通のゴブリンだけだったときのこと。
「結界行きます!」
私とニッツの眼前に結界魔法が発動する。――直後、風属性の攻撃魔法が私たちを切り裂かんと襲いかかってきて、結界に阻まれて消えた。
「お見事よミーシャ!」
「長くは持ちませんよ!」
ミーシャの支援もあり、ニッツと二人で10匹ほどゴブリンを切り伏せたところで――
「――よし交代だ! 俺が押さえるから作戦会議してくれ!」
ガイルが大盾で身を隠しながら、大盾を扉代わりにしてゴブリンの侵入を防ぐ。もちろんゴブリンにもわずかながら知性があるので盾の隙間から攻撃しようとするけれど、そんなゴブリンをフェイス君が投げナイフで牽制している。
ニッツ、私、ミーシャが顔をつきあわせる。
「よしどうする!? このまま逃げるか戦うか!?」
「逃げたってそのうち追いつかれるわよ。それに洞窟の中からゴブリンを出しちゃうのもマズいし」
「だがよぉ、ここで戦ってもジリ貧じゃないか?」
「……私が攻撃魔法で焼き尽くすから、呪文詠唱が終わるまで時間稼ぎしてくれない?」
「セナさん、正体は分かりませんが、あっちにも魔術師がいますよ? しかも攻撃魔法を使える……」
「大丈夫。相手はたぶん風属性の魔術師でしょう。火炎魔法を使えば相性がいいから打ち勝てるわ」
「あいしょう……?」
「じゃあ呪文詠唱を始めるから、ミーシャ、みんなへの退避指示よろしく」
呪文詠唱中だと『避けて!』とか言えないからね。ここは魔術師であり呪文詠唱に対する知識があるミーシャに退避のタイミングを判断してもらいましょう。
退避の号令が早ければ呪文詠唱中の私にゴブリンが襲いかかってくるし、少しでも遅れればニッツたちも攻撃魔法に巻き込まれる。――責任の重大さを理解しながら、それでもミーシャは力強く頷いた。
彼女の返事に満足しながら私は右腕をゴブリンたちのいる空間へと向けた。
「――いと猛々しき
呼吸によって大気中の魔力を取り込む。体中に魔力が駆け抜ける。その魔力が限界まで高まったところで、
「今です! 退避してください!」
ミーシャの叫びでニッツたちが横に飛び――
「――
直後、すべてを焼き尽くす業火がゴブリンたちのいる空間に飛び込んだ。
『ギャガ!?』
『ガッガ!?』
『ガァアアヤァアアアダアガアアアガアアッ!』
地獄のような絶叫が響き渡る。地獄もかくやというほどの惨劇が繰り広げられる。
ゴブリンだって生きたいだろう。
生きるために巣を作り、主を残すために子供を作っていたのでしょう。
しかしゴブリンは人類にとっての『敵』であり。
私は、人間の味方になると決めたのだ。
と、焼き尽くされるゴブリンを眺めながらそんなことを考えていると、
「あ」
誰かが気の抜けるような声を発した。
すぐさま私も状況を理解する。火炎魔法はゴブリンを焼き尽くしながら直進し、広い空間の突き当たりの壁にまで到達。ぶつかった勢いで跳ね返るというかこっちに戻ってきたのだ。
あー、壁から天井までどことなく丸い形をしているものね。こう、いい感じに
ニッツたちは私の攻撃魔法を避けるために横に飛んだまま、床に転がっている。
つまり、戻ってきた火炎魔法の進路にいるのは私だけであり。
目前に迫る、赤い炎。
「みぎゃーっ!?」
結界で防げばいいのに。反射的に横っ飛び回避をしてしまい、地面をゴロゴロと転がり、全身砂だらけになる私であった。 ぬぉおおおお……。
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