第22話 毒殺系ヒロイン


 ミーシャの探知魔法によると、洞窟は緩やかに下っていて、しばらくすると半円ドーム状の空間が広がっており、その奥にもう一つドーム状の空間が広がっているみたい。


 二つの広い空間には合計で50ほどのゴブリンがいるとか。


 こんな数のゴブリンが子作りを始めたら……冗談じゃなく小さな村など飲み込まれかねない。ここは容赦なくいきましょうか。


「ミーシャ。洞窟は行き止まり? 他に出口はある?」


「たぶん無いですね」


「そう。逃げ道がないなら好都合ね」


 気配を消しながら洞窟の入り口へ。中からゴブリンが出てくる様子はないので早速準備に取りかかる。


 まずは空間収納ストレージに大量保管しておいたガラス瓶を取りだす。と、魔術師であるミーシャが目を丸くした。


「なんて透明度の高いガラス……」


 この世界だとまだまだ透明ガラスの量産は難しいからね。建物の窓に使えるのは王侯貴族や一部の裕福な商人だけ。そんな貴重な透明ガラスを薬品入れにしているのだから驚かれて当然かしら。


「ガラスの瓶で保存するなんて……一体どんな薬品なんですか?」


「ん? 毒よ」


「ど、毒?」


 ずささっと後ずさるミーシャたち。


「大丈夫よ、魔物には効果抜群だけど人間には無害な毒だから」


「……そんな都合のいい毒なんて聞いたこともないですけど……?」


「ちょっとしたコツがあれば作れるんだけどなぁ」


「さっきから何なのですかその『コツ』って……。というか毒を作れるんですか? セナさんって国王陛下から叙勲された騎士爵ですよね? 子供の憧れる騎士様ですよね?」


「というわけで!」


 空間収納ストレージから次々にガラス瓶(毒入り)を取りだし、洞窟の奥へぽいぽい投げていく私。もちろんガラス瓶なので地面に落ちれば割れてしまう。がしゃーん。ぱりーん。こなごなー。


「あ、あんな高価なものを……ガシャガシャと……」


「じゃ、ミーシャ。魔法で洞窟の奥に風を吹き流してくれる? 気化した毒を運ぶ感じで。私だとどうも上手くできないのよねぇ」


「……やりますよぉ、やればいいんでしょう~……」


 なぜか涙目になりながら、それでも素晴らしい力加減で風魔法を操るミーシャ。やはりこの細やかな魔力制御がなぁ。できないんだよなぁ私。吹き飛ばすことと絞め殺すことばかり考えてきたからなぁ。


 ミーシャの魔力制御は完璧であり、気化した毒は上手いこと風に乗って洞窟の奥へと流れていった。


 ……しばらくして、洞窟の中から断末魔の声が響いてくる。命を対価とした多重奏だ。


「えげつな……」


「敵とはいえ、憐れな……」


「いっそ攻撃魔法で焼き払う方がまだ温情があるのでは?」


「鬼畜」


 なぜドン引かれているのだろう私? ちょっと騎士爵でありながら毒殺という手段を選んだだけなのに!


「分かってるじゃねぇか」


 頭で理解しても心で納得できないことはあるのです。


「ま、こっちに危険が及ばないってのは利点だわな。他の魔物にも使えるのか?」


「こんな風に洞窟に巣くっているヤツならね。風がある場所だと拡散しちゃうから効果が薄まっちゃうわ」


「ふぅん、万能って訳でもないのか……」


 納得したのかニッツが背中の大剣を引き抜いた。


「……もう一度確認するが、人間には効果がない毒なんだよな?」


「そうね。不安なら私が先行しましょうか?」


「う~む……」


 ここでお願いをするとセナを信頼していないみたいだしなぁ、でも危険があるのも確かだよなぁという顔をするニッツ。まぁリーダーとして慎重になるのは当然だから私がさっさと先行しようとすると――


「――先行するのは、僕の仕事」


 斥候スカウトとしての誇りがあるのか前をゆくフェイス君。……それは格好いいんだけど、口元に布を巻いて防御しているのがお姉さんちょっと悲しいかなって。


 とにかく、未知の場所を進むなら斥候に任せた方がいい。ということで私たちはフェイス君の後に続いて洞窟に入った。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る