第21話 肉欲騎士


「ったく、どこまで話したか……。ゴブリンの巣を相手に短期決戦は無謀だ。地の利は相手にあるし、数が多いからな。だからこっちは洞窟の外で待機して、食糧確保のために洞窟から出てきたゴブリンを少しずつ狩っていく戦法をとるのが一般的だ」


 うちのパーティには私とミーシャ魔術師二人がいるから簡単なケガの治療はできるけど、さすがに死人を生き返らせるのは不可能だからね。無理をせず少しずつ着実に狩っていくのは悪くない戦法でしょう。


 ……ただ、今回は別の方法も可能なので、現地に着いたらそっちを提案してみましょうか。


 他にも冒険者の心得などを聞きながら森の中を進み、洞窟を目指す。

 大人数パーティであったおかげか、幸いにして別の魔物と遭遇することなく目的地に到着した。


 崖になっているところに空いた洞窟。

 その入り口では二匹のゴブリンが見張り役をやっていた。下っ端なのかどことなく普通のゴブリンより小柄な気がする。


「で? セナは何をするつもりなんだ?」


「ま、とりあえず見張り役を排除しましょうか」


 攻撃魔法だと派手な音がするから洞窟内のゴブリンに気づかれるかもしれない。ここは別の方法を使いましょう。


 魔力で練り上げた糸を伸ばし、見張り役の首に巻き付ける。魔力の糸なので魔術師なら目視できるだろうけど、普通の人間やゴブリンでは見ることはできない。


 ゴブリンの首に糸が何重にも巻き付いたところで、糸を収縮。急激に短くなった糸は巻き付いていたゴブリンの首を締め上げた。


 抵抗すらできず、断末魔を発することすらできず。窒息というよりは首をへし折られて絶命するゴブリン。


 ニッツとガイルは何が起こったか理解できていないようだけど、魔力を目視できるミーシャとフェイス君は『うわぁ……』とドン引きしていた。そりゃあ確かにえげつないとは思うけど、危険を冒さず、音も立てない方法だというのに。


 こほんと、仕切り直しとばかりにミーシャが咳払いする。


「……え~っと、では、探知魔法で洞窟の中を調べますか。セナさんは使えますか?」


「あまり上手く使えないわね」


「え? 意外ですね? 攻撃魔法の方が難しいでしょう?」


「何というか……こう、細々とした魔法って苦手なのよね。力加減ができないというか。攻撃魔法なら力ずくで目標をぶち抜けばいいだけなんだけど」


「「「「あぁ……」」」」


 心底納得したような「あぁ……」だった。私が不器用みたいな扱いには厳重に抗議したいところだ。


 ミーシャが探知魔法を発動して、洞窟の中を調べる。魔力風で新緑色の髪が穏やかに揺れていて、それだけでもう芸術作品として成立しそうな美しさだ。エルフ美少女魔法使い。いいわね。中身は年上かもしれないけど。もはやそんなものは超越してしまっているのだ。


「……セナは女好き?」


 とんでもない発言をするフェイス君だった。誰だこんな下品な言葉を教えたのは? ……ニッツかガイルしかいないか。あとでお説教ね。


 それはともかく訂正しなければ。私は女好きじゃなくて、美少年と美少女が好きなのだ。見ているだけで満足で、手を出すつもりはないのだ。あとは大人のおねーさんも大好きだし、男性の鍛え上げられたマッスルも嫌いじゃないわ。


「……肉欲騎士」


 誰だこんな言葉を教えたのは?



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