第2話 重要任務命令
食事だって、ちゃんと食べようとは思った。けれど、妙に体が重くて面倒くさい。
俺は寝ぼけたまま、冷蔵庫を漁って、適当に野菜を出して、食パンに挟んだ。
それを食べながら、眠気覚ましの
珈琲を淹れると、太宰に
「あぁ、嫌な事思い出したぜ。クソッタレが」
朝から最悪な気分で珈琲を淹れる。
当時はまだ十六歳だったし、苦味になれていなかっただけだ。すぐ飲めるようになったんだから、あれは飲めないと信じていた太宰の負け。
そんな言い訳じみた事を言い聞かせて、半分食べたサンドウィッチを口に咥えたまま、マグカップを持って
今日はあまり仕事を入れていない。十三時に本部ビルに行って、そのあとはいつも通り。気分が優れないのが難点だが、たまにはこんな日があっても善いだろう。
そう思っていると、携帯電話が鳴った。
電話の相手
俺は通話
「はい、中原です」
電話の向こうから、柔らかい声が響いてくる。
『あぁ中也くん。今、大丈夫かね?』
俺は「今から向かいます」と返す。
俺は食べかけのサンドウィッチを口に詰め込み、珈琲で胃に押し込む。
黒帽子と
***
横浜は今日も平和だ。それを、マフィアの幹部が言っていいものか悩みどころだが。
買い物をする主婦や仕事に走る会社員。
学校をサボって遊ぶ高校生や、
色んな人間がまぜこぜに歩くこの街は、いつだって刺激に溢れていて、いつだって平和な面をしている。それがまた、不思議と心地良かった。
マフィアの本部ビル、見張りの部下の挨拶を軽く返して、
何の仕事を与えられるのか、どういった内容なのか、それらが何であれ、
そんな事を考えながら帽子を被り直した。丁度、
厳格な雰囲気の廊下を歩き、
扉を三度ほど叩き、「
しかし、返事がない。俺は聞こえないようにため息をついた。
こういう時は、大体そういう時だ。
「失礼します」
俺は、返事を待たずに扉を開けた。
「あぁ~~エリスちゃん、そんなに食べたらお昼ご飯が入らなくなってしまうよぉ」
「平気よ! これは別腹だもん!」
扉の先では、案の定エリスの心配をする森鴎外の姿があった。
円形の卓、刺繍を施した白い
その中から好みの菓子を選んで食べるエリス嬢は、無邪気な笑みを浮かべる。その笑顔を見て、
しかし、すぐ我に返り、エリスの説得を試みる。
「今日のお昼ご飯は、エリスちゃんが食べたいって言ってた
「私、
「えぇ~……」
そろそろ止めないと、本題に入る前に日が暮れてしまう。俺は咳払いをして、
「
「失礼しまぁ~す」
俺が本題に入ろうとするタイミングで、執務室の扉が開いた。
入ってきたのは、中華風の服を着た、人形のような風貌の少年だった。
背伸びをするような
「
見た目の愛くるしさに反して、物騒なことを言うリンは、俺を見るなり「げぇっ」と云った。
俺も思わずため息をつく。
「なんで中也が居るんだよぉ」
「こっちの
「そのまんま返してあげるよ。最悪、
「そりゃ良かったな」
「仕事に関係なく一番最初に殺してあげる」
「重力に勝てるってのか?」
リンはいつも俺を敵視してくる。
彼が大振りの袖から畳み刀を出すのが見えた。俺も合わせて、異能を使えるように出力を調整する。
「止めなさい、二人とも」
俺も、
「さて、今日呼んだのは、他でもない。──『
『
主に海外の武器の密輸と、情報の売買をしていた。しかし、マフィアに逆恨みしている敵対組織と結託、マフィアに攻撃を仕掛けた。
敵対組織と武器商人、横浜一帯を牛耳るマフィアでは規模が違いすぎるが、時と場所さえ選べば勝ち時はある。
実際、マフィアは武器の取引場所で襲撃を受け、応援を呼ぶ前に仲間が殺された。
その中には、俺の部下もいた。
その襲撃事件を起因に、組織はマフィアの報復に遭った。
残酷で、冷徹、残忍で、完膚無きまでに。たった一週間前のことだった。
そして、『
可愛い顔をして、リンはその場にいた六十人余りの敵を、一瞬にして葬ったのだ。
文字通り、跡形もなく。
部下の証言では、瞬きをした時には目の前の敵はもう居らず、代わりに
それが、彼も呼ばれた理由か。当事者が必要な仕事とは、一体何なのか。
「『
「じゃあ、その人たちを殺せばいいんですかぁ? それなら、ボクがいっちばん得意ですよ」
リンは得意げに言うが、
「それも悪くないが、『
「それは一体何でしょうか」
俺が尋ねると、
「USBメモリだよ」
それが、秘密兵器?
そんなものが一体何の役に立つのか。
……いいや、そんなことを言ったら、きっと太宰の野郎に「そんなこともわからないの~?」とバカにされるに違いない。
「何か不満かね?」
「お言葉ですけど
「リン君、どんな相手でも慎重に行動すべきだよ。どんなに力の差があったとしても、それを上手く
リンはチラッと俺の方を見て、また頬を膨らませる。
「
リンは愛嬌たっぷりに微笑み、
俺は
「あぁそうだ、中也君」
「リン君のこと、よろしく頼むよ」
俺はまた一礼して、執務室を出た。
リンは俺が拾って、組織に連れてきたのだから。
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