《第5章:トライワンズ》『第9節:開幕』
天候・気温ともに良好。夜空には箒に乗った新聞記者や報道関係者が飛び交い、数万にも上る観客は熱気に包まれていた。ここはヴァイスハイトの競技場。「トライワンズ」開幕式の会場である。
「こんばんは。星の子達よ」
競技場の中央に特設されたステージの上で挨拶するのはディオーグだった。
「今年は異例の早期開催となったが、無事こうして開幕宣言を行えることに喜びと感謝の意を示そう。本当にありがとう」
そう言ってディオーグは拍手した。観客も一緒に手を叩いた。
「何故こうなったのか。どうして各所の反対を押し切って強行したのか。様々な憶測が飛び交っていたが、ココでハッキリさせよう。「蒼炎」……またの名を「ランタン」と呼ばれる者の存在だ」
ディオーグの言葉に観客はザワザワと騒ぎ立つ。
「ヴァイスハイトのパラス「十二衛弟」炎弟のフレイド・ブレイム。彼の訃報は皆の記憶に新しいだろう。何を隠そう、彼の死の黒幕はその「蒼炎」だ」
観客の声が更にうるさくなる。
「彼はパラスである前にヴァイスハイトの一生徒だ。彼を護れなかった責はボクにある。その責任を取るということは、残された者達をかの魔の手から護り抜くということだとボクは考える。だがボクも人の身。限界がある。「蒼炎」、それに与する「雨夜七冠」、黒魔導師達の蛮行を止めるためには圧倒的に人手が足りない……そこで協力を願い出た」
いつの間にかステージ上にバルカン、ミィコ、ヴゥアツァが立っていた。観客が驚きで一瞬声を失う。だがすぐに口々に叫んだ。
「ヴィゴーレのバルカン様だ!」
「ヴェネレイトのミィコ様もいるわ!」
「ってことはアレは……「郊外の魔術卿」!?」
「四人のパラディンが一堂に!」
会場がより一層騒がしくなった。ディオーグが話を続ける。
「我らを筆頭に「知恵」の学校ヴァイスハイト、「力」の学園ヴィゴーレ、「信仰」の学院ヴェネレイトはより強固な協力関係を築く。そこに「西の大魔女」ヴゥアツァも加わり、対「蒼炎」同盟として生徒達を護り通すことを誓う! そしてその第一歩、三大学舎対抗交流大会「トライワンズ」の開幕をココに宣言する!」
ウオオオオオオオオオ!!!!! 会場が大きく色めきだった。熱狂はピークに達する。今ここに「トライワンズ」は開幕した!
【物語あるある】宣戦布告
競技場に三大学舎それぞれの吹奏楽部が入場し、ファンファーレを奏でる。
「凄い盛り上がりだな! 会場の熱がとんでもない!」
「年に一度のお祭りですからね! それに加えてディオーグ先生のあのスピーチ……興奮しました!」
「パラディンが手を取り合ってランタンに立ち向かう……これ以上心強いことはないわね!」
「ニャー!」
キセキ、ユージーン、ヘルデがそれぞれ開幕式の感想を述べる。大声で話さなければ聞こえないほど会場は盛り上がっていた。
「キセキ!」
キセキが声のした方を見ると、そこにはガストル、ピサ、スプリングが立っていた。彼を呼んだのはガストルだった。
「ガストルさん! ピサさん! スプリングさんまで!」
「なんだか久しぶりだな。色々あったそうじゃねぇか」
「そうですね……ホントに色々……」
ガストルの言葉にキセキは苦笑いした。
「キセキくん、卵ちゃんは元気かい?」
「はい! 元気です! でもなかなか生まれないですね……」
「支度に時間のかかる子みたいだね。そういう子ほど生まれるときが楽しみだ」
「ですね!」
ピサの話にキセキは賛同した。
「キセキ、「ツインワンズ」の件どうなったの?」
「それが……無事特別枠で出場出来ました!」
「おっ! 良かったじゃん! あーしも嬉しいよ!」
キセキの答えにスプリングは喜んだ。ハイレン達の尽力によりキセキは特別枠として「ツインワンズ」本戦に出場することが決まっていた。
「スプリングさんも口添えしてくれたって聞きました。ホントにありがとうございます」
「いやいや! あーしは大したことしてないよ! キセキが眠る前最後に一緒にいたのはあーしだから、それに関して聞かれたことを答えたまでで……」
「十二衛弟の言葉っていうのが大きかったんだと思います。スプリングさんのおかげです」
「そ……そう言われれば、そうかも?」
「調子に乗るな、スプリング」
ガストルがスプリングのニヤケ面を指摘した。
「キセキ、スプリングはすぐ調子に乗るから褒めるのは程々にしておいた方がいいぞ」
「ガストルさん! これに関してはあーし調子に乗ってもいいっしょ!?」
「大したことしてないって言ったのはお前じゃねぇか」
「そ……それはそうですけど! 後輩からの感謝は素直に受け止めるべきでしょ!」
「あはは……そういえばどうして三人が一緒に?」
キセキがガストルとスプリングの会話に割って入った。
「あーし達、また「クアッドドラゴン」に出場すんの! 種目自体は明後日なんだけど、今から打ち合わせしとこうって話になってね〜」
「生徒四人でドラゴンと戦うっていう……あの!? ……あれ、でももう一人は?」
「ガルフくんだよ。今はプリンシプト校長に呼ばれて居ないけどね」
キセキの疑問にピサが答えた。
「(ガルフ・プレデター……怪弟……だったか? シリウスで見た感じこういう催し物には参加しなさそうだったけど、昨年のフレイドに代わって出場するのか。「怪」……って言ったらファットのクズが使ってた“怪術陣”が思い浮かぶけど、同じ“獣術陣”かな?)」
「……話してたら来たぞ。ガルフのやつ」
ガストルがそう言って指さした方を見ると、黄土色の髪をした前髪の長い青年がこちらに歩いてきていた。十二衛弟三人に軽く会釈した後、キセキに気づき「ゲッ」という顔をする。
「……何でコイツがいるんですか」
「俺たち仲が良いんだよ。な! キセキ」
「は、はい! (ガルフ、あからさまに嫌な顔しなかったか……?)」
肩を組んできたガストルに少し戸惑いながらもキセキは答えた。
「……キセキ・ダブルアール……お前のことは嫌いだ」
「!?」
「ちょっと、ガルフ。急に何言ってんの」
ガルフの発言にスプリングが反応した。
「……急じゃないですよ……シリウスで会ったときからコイツのことは気に食わなかった……それがフレイドさんの件で決定的になった……ボクの直感はやはり正しかった」
「ガルフくん。何度も言ったけどフレイドくんはキセキくんのせいで亡くなったんじゃないよ」
「そうだよ! それにあーしとつい先日仇を討ったところだし! まだそんなこと言ってんのガルフくらいよ? マジウケんだけど」
ガルフにピサとスプリングが反論する。
「……そんなこと、どうでもいい……ボクはコイツが嫌い……それは絶対に揺るがない……「クアッドドラゴン」の打ち合わせしないんですか? それならボクはもう行きます」
「あ、おい! ガルフ!」
ガストルの呼び止めにも応じず、ガルフは去っていった。
「……はぁ、ったく、本当に勝手な奴だな。キセキ、あいつに言われたことは気にすんなよ! じゃあな! 「ツインワンズ」、勝てよ!」
「は、はい! ありがとうございます!」
ガストルはガルフを追いかけた。
「私たちも行くよ。みんな、またね」
「じゃーねー! みんなそれぞれ頑張れよ!」
「ありがとうございます!」
ピサとスプリングもガストルの後を追いかけていった。
「(これはまた……嫌われてるなぁ俺……ナルカミもだけど、十二衛弟に目つけられ過ぎじゃね? コレも主人公の運命か……)」
「キセキさん、最初からですけど十二衛弟相手でも全く物怖じしないですよね……」
「キセキくん、十二衛弟の色んな人に認知されてて凄いわね!」
「ニャ!」
「あはは……喜ぶべきなのかどうか……」
ユージーンとヘルデの言葉にキセキは力無く答えた。
「「シングルブルーム」が始まるまでもう少しありますね。先に昼食を取りに行きますか? 食堂に「トライワンズ」開催記念メニューがあるそうですよ!」
「お! いいね! 食べに行こう! (何気に食堂行くの初めてだな)」
「行きましょ行きましょ!」
「ニャア!」
キセキ、ユージーン、ヘルデの三人はヴァイスハイトの食堂へと足を運ぶのだった。
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