《第5章:トライワンズ》『第8節:三人目』
キセキ、ユージーン、ヘルデ、ルミナス、ドロシー、チュイはヴァイスハイトの地下奥深くにある一つの扉の前に立っていた。同じような扉がいくつも並んでおり、一見ただの倉庫に見える。
「(これが「本当の秘密の部屋」の扉……? もっと仰々しい感じかと思ってたけど、意外と普通だな)」
「何も無さそう……やろ?」
「!!」
キセキの心を見透かしたようにチュイが言った。
「まさにそれが狙いよ。まさかこんなところにヴァイスハイトの秘密が眠ってるとは誰も思わへん」
「確かに……」
「じゃあ早速開いてもらってもええ? ドロシーちゃん」
「は、はい!」
チュイに指名されドロシーは扉の前へと立つ。
「は、始めます……」
「たのんます!」
ドロシーはドアノブを軽く握った。すると幾重もの魔法陣が扉の前に現れた。
「うわっ! 何だこれ!」
「この何重にもなった魔法陣が扉を閉ざしてるんや。正しい手順を踏んで解かな開かんようにな」
驚いたキセキにチュイが話した。ドロシーが杖を不規則に動かして魔法陣を消していく。
「順調やな〜。流石ドロシーちゃん!」
「記憶したことをそのまましてるだけなので……」
「それでも凄いよ! ドロシー!」
「あ、ありがとうございます……キセキくん」
手際良く魔法陣を消していくドロシーをキセキとチュイが褒めた。あっという間に魔法陣は最後の一つになった。途端にドロシーの手が止まる。
「ん? どうしたん? ドロシーちゃん」
「これ……記憶と違います」
「なんやて!?」
「最後の魔法陣は「妹の名は?」という問いで答えは「ネージュ」のはずなんですけど、そもそも質問が違ってます」
「毎回違う質問が表示されるようになってんのか! なになに……? 「妹の好きな料理は?」……ってわかるかい!」
「妹って……ディオーグ先生の、ですかね?」
「確証は無いけど、多分そうじゃないかしら?」
「ニャア」
ユージーンの言葉にヘルデが返した。
「妹、名前、ネージュ?」
「前回の質問から推測したらそうですね……でも何のヒントにもなりません……」
ルミナスとドロシーが話し合った。
「まさかここで詰むとは思わんやん! 何か、何か無いか!? ヒントになりそうなもん!」
チュイは必死に周辺を捜索する。
「(いや……物語あるある的に考えてこんな序盤で詰むわけがない。何か答えに繋がるものがあるはずだ。何だ……? 料理……? 料理と言えば……フレイドと食べた中華。アキュアと食べた魔物料理……待てよ。印象には残ってるけど結局食べなかった料理がある。この世界において意味の無いものは存在しない。「アレ」がここの答えとして提示されていたのだとすれば……!)「角うさぎの丸焼き」……とか?」
「え?」
「ん?」
「へ?」
六人の時間が一瞬止まる。
「な、何で?」
「い、いやぁ……何となく?」
チュイの疑問にキセキが申し訳なさそうに答える。
「……よし! ワイはキセキくんを信じる! 皆は?」
「信じます!」
「信じるわ!」
「ニャー!」
「信じる」
「し、信じます!」
「満場一致! ってことでドロシーちゃん書き込んでくれ!」
「ちょちょ、いいんですか!?(あくまでメタ的に推理しただけであって正解とは限らないぞ……!?)」
「だって他に思い当たるのも無いし。ここで立ち往生してる間にバレるかもやし。そしたらキセキくんの直感を信じるのも悪ないやろ?」
「ち、違ってたらごめんなさい……」
ドロシーは魔法陣に向かって杖で「角うさぎの丸焼き」と書き込んだ。しばらくの静寂が流れ、六人は固唾を呑んで扉を見つめる。
「……」
「……(頼む……! 合っててくれ……!)」
カチャ。音もなく魔法陣が消えた後、扉から鍵の開く音がした。
「あ、開いた……開いたああああああああ!!!!!」
「やったあああああ!!!!!」
「流石キセキさん!」
「信じてたわ!」
「ニャオ!」
「キセキ、凄い」
「ひ、一安心です……」
六人は手を取り合って喜び合い、そしてまた扉の前に立った。
「じゃあせっかくやから当ててくれたキセキくんに開けてもらおか!」
「いいんですか!」
「ええよええよ! ささっ! 思いっきり開けてくれ!」
キセキはドアノブを握る。一呼吸置いた後、ゆっくりと回し、勢い良く開いた! そこには……
「!?」
「な、何だこれ……」
床へ無造作に置かれたいくつもの箱。壁側に立ち並ぶ本棚。長らく手をつけられていないであろうことを示す大量に積もった埃。それは見るからに古い倉庫の中だった。
「た、ただの倉庫やん!」
「(そんなわけない。明らかに中身と鍵が釣り合ってない。何か秘密があるはず……物語あるあるだと……)」
キセキは並び立つ本棚を眺める。
「……! (この本棚だけ埃が少ない……! だとすれば……!)」
キセキはその本棚に納められている本を片っ端から触っていく。その中の一つだけ奥に動いた。
「(コレだ!)」
本を奥に押し込むと、カチッという音が鳴り、本棚が動き始めた。するとその裏に通路が現れた!
【物語あるある】本棚の裏に隠し部屋
「キセキくん凄い! どうして分かったの!?」
「ま、また何となく……かな……」
ヘルデが驚いてキセキに聞いたが、彼は誤魔化した。
「でかしたキセキくん! この先がきっと「本当の秘密の部屋」や!」
六人は現れた通路へ足を踏み入れる。通路は真っ暗で、彼らは「リグフート」を唱え足元を照らしながら慎重に歩を進める。
「……長いなぁ。ずっと真っ直ぐやけど、どこに繋がっとるんやろ?」
「ですね……そういえばチュチュ先輩はどうやってこの場所を見つけたんですか?」
「それはワイの“魔術”が関わってるんやけど……どうしよっかな〜。ワイの“魔術”は最高機密やからな〜……まっ、この通路見つけてくれた借りがあるし、話してもええか」
チュイは懐から何かを取り出した。
「ワイの“魔術”はこの子らや」
「鼠……?」
「そう。ワイは“鼠術陣”の使い手でな、十五匹の鼠ちゃんと意思疎通できる。だから常にヴァイスハイト中を走り回らせて情報収集させてんねん。その中でたまたまこの部屋にディオーグ先生が入ってくのを一匹が見つけて、怪しいから調査してみたら案の定……ってわけや」
「なるほど……! 確かに鼠だと怪しまれないし、情報収集には最適かも……! (だから鼠色の髪の毛なのね……)」
「ニャニャ……」
アンジュがチュイの手の鼠を見つめる。
「た、食べたアカンで!」
「食べないですよ〜」
「ニャ!」
焦るチュイにヘルデが笑って返す。
「(うん……情報収集に最適ってことは内通者としても……やっぱりチュイが? 信じたくはないけど、関西弁糸目で“魔術”もそれっぽいってなぁ〜。今まで気にしてなかったけど、ずっとどこかで鼠が俺の会話を聞いてた可能性はあるし……だけどどうやって問い詰める? 今のままだとあまりにも根拠が弱い……もっと決定的な瞬間に立ち会わないと……)」
「お! 何や広いとこに出たで!」
「!!」
六人は天井の高い大広間へと出た。何も無い殺風景な場所で、まだ奥に通路が続いていた。
「……ここには何も無さそうですね」
「そうね。何のための場所なのかしら?」
「ずっと、居たら、頭、おかしく、なりそう」
「確かにそうですね……」
「とりあえず道はまだ続いてることやし、先に進もうや!」
「そうしましょう!」
キセキ達は奥の通路へ向かった。
「ボチャ」
「……ん?」
彼らの前に天井から何か落ちてきた。
「何や……?」
「……土?」
その瞬間、その土が一気に拡がり、地面を覆い尽くした。
「!?」
「な、何だ!?」
ボコボコと音を立てて何かが生えてくる。それは人の形を成し、六人の前に立ち塞がった。
「土人形……ゴーレム!? いや、それよりも……」
「自動防衛魔法か……? それらしくなってきたやないか! この先に「何か」がある証拠や!」
ユージーンは冷静に分析し、チュイは道の先を想像して興奮した。その間に続々と人形は形成されていき、キセキ達に襲いかかった!
「来る……! 縁啼拳!!!!!」
キセキが拳をぶつけると、人形は爆ぜて消えた。
「そんなに強くない! 皆で協力して殲滅しよう!」
「わかったわ!」
「あの〜」
「……? チュチュ先輩?」
「ワイの“魔術”、情報収集能力はピカイチやけど、戦闘はてんでダメやねん。だから皆頼んだ!」
「ええ!?」
驚くキセキに人形が襲いかかる!
「“光術陣 展開 第4章
ルミナスが光のごとき速さでキセキと人形の間に割って入る!
「“第5章
光の刃を杖の先に構築し人形を切り裂いた!
「ルミナス! ありがとう!」
「問題、ない」
「私達もやろう! ユージーンくん! ドロシーちゃん!」
「はい!」
「は、はい!」
ヘルデ、ユージーン、ドロシーが杖を構える。
「“猫術陣 召喚”」
「“土術陣 展開”」
「“風術陣 展開”」
人形達が三人に襲いかかる!
「“第2令
「“第1章
「“第3章
それぞれの技で人形達を弾き飛ばした!
「やるやん! 流石ワイの見込んだ一年生達や!」
チュイがキセキ達の後ろで叫んだ。
「この調子で片付ける!」
五人は湧き出てくる人形達を次々倒していった。しかし……
「はぁ……はぁ……待って……これ……」
「くっ……キリが……ない……!」
人形は地面から無尽蔵に湧き出してくる。
「何か止める方法は……きゃあ!」
「ニャア!」
「ヘルデさん! アンジュさん! ……うわ!」
人形に捕まったヘルデとアンジュを助けようとしたユージーンも足を捕まれ倒れた。二人と一匹はズブズブと地面に取り込まれていく。
「(地面に取り込もうとしてる!?)今助け……くそ! 離せ!」
駆け寄ろうとしたキセキに人形達がまとわりついた。
「(まずい……! ルミナスとドロシーは!?)」
ルミナスとドロシーの方を見ると、二人も人形に捕まり地面に取り込まれようとしていた。
「(ヤバいヤバいヤバい! 数が多すぎる! このままだと……)」
キセキもゆっくりと地面に取り込まれ始めていた。
「(動けない……! これじゃあ技も出せない……! 取り込まれたらどうなるんだ!? 死ぬのか!? 俺が!? くそっ……誰か……)」
キセキが顔まで取り込まれかけた瞬間、誰かが彼の手を引き地面から引きずり出した。
「(何だ……? 誰だ……?)」
その人物はヘルデ、アンジュ、ユージーン、ルミナス、ドロシーも助け出し、その後目にも止まらぬ速さで次々と人形達を倒していった。最後に地面に杖を突き立て、何かを唱えたかと思えば拡がっていた土が弾け飛び、人形はもう湧かなくなった。
「遅くなってごめんね。怪我は無いかい?」
「ディ……!」
「ディオーグ先生!」
それはディオーグ・キルアディアだった。
「(数百は居た敵を一瞬で……! しかも俺達を助け出しながら……凄い……これが……これが最強の魔術師!)」
【物語あるある】最強の片鱗が垣間見える
「あ、あのぉ……」
チュイがヘコヘコしながらディオーグに話しかける。
「ど、どうしてディオーグ先生がここに……?」
「ずっと聴いていたんだ。キミ達がココに入る前からずっとね」
「(聴いていた……?)」
「そうしたら何かヴァイスハイトで聴いたことのない魔力と戦い始めたから、慌てて助けに来たというわけだ」
「ああ〜なるほど〜助けに来てくださったんですね〜なるほどなるほど〜……勝手に入ってすみませんでしたぁ!」
チュイがディオーグに土下座した。
「あと皆が襲われてる時にワイなんも出来んでごめんなぁ。ホンマに戦闘となったらからっきしやぁ。ホンマごめんんん」
チュイが土下座したまま全員の方へ向くようクルクルと回った。
「アハハッ、チュイ、ボクは怒ってないよ。何故ならココへはわざと招き入れたんだから」
「へ?」
ディオーグの言葉にチュイは呆気に取られる。
「チュイが鼠でボクを見張っていたことも、その差し金でドロシーのパッシブが仕掛けられていたことも気づいていたし、内部の警備が弱まる今日決行することも想定していたし、チュイの鼠にもボクは居ないと思い込ませた。全てはキミ達をココへ招き入れるためだ」
「……(ぜ、全部バレてたってことかよ……)」
「敵が現れるのは想定外だったが……皆無事で何よりだ」
「あ、あの……」
「何だい? キセキ」
「招き入れたって……どうして俺達を?」
「キミ達だから招き入れたというわけではない。もしこの部屋に気づく者が現れれば、それが誰であっても招き入れていた。探究心は誰かに止められるものではないからね。それにヴァイスハイトは何よりも生徒の自由を重んじる学校だ。その行動力は尊重したい」
「そういうことだったんですね……」
「さぁ、ここまで辿り着いたご褒美だ。この先の部屋をお見せしよう」
「待ってました!」
ディオーグの言葉にチュイが叫んだ。七人は大広間の先の通路へと進む。
「先程の大広間は緊急時の避難用シェルターなんだ。もう長らく使われていないけどね」
「そうなんですか!」
「そしてその先にあるのが……」
ディオーグが通路の奥の扉を開いた。そこには……
「え……」
「食料庫……?」
「その通り」
そこは缶詰や水筒が大量に備蓄された食料庫だった。壁はレンガ造りになっており、その壁にもたくさんの食料が掛けられている。
「月に一度ココに異常が無いかチェックするのもボクの仕事でね。今日も特に異常は無しだ。キミ達が入り込んだということ以外」
「あはは……そんな仕事、他の職員に任せればいいのでは……?」
ディオーグの言葉にキセキが疑問をぶつける。
「そう思うかい? だがココは緊急時ヴァイスハイトの要ともなる場所だ。重要度が高い。万が一異常があった際、どちらにせよ理事長であるボクが対応しなければならない。だったら初めからボクが点検するのが合理的だ。何よりボクがやれば数秒で終わる」
「な、なるほど……(確かにさっき敵を倒したスピードで点検したら一瞬で終わりそうだな)」
「さて、結末は「緊急時用の食料庫」だったわけだが、ご満足いただけたかい?」
「いや、えっと……正直言うてええですか?」
チュイがそう言って壁を叩く。
「なんでやねん!!!!!」
彼のツッコミが食料庫に響き渡る。
「あのディオーグ・キルアディアが何重にも鍵かけとる部屋やからよっぽど重要な秘密とか貴重なお宝とかが眠ってるんかと思ったら……食料庫て!!! もっと……こう……何かあるやろ!!! 食・料・庫・って!!!!!」
「ち、チュチュ先輩、その辺で……」
「アハハッ、まぁそうなるよね。大したものじゃなくてごめんね」
暴走するチュイをキセキが止めて、ディオーグが謝った。
「はぁ……もうこれは前夜祭に戻って騒ぎまくって発散するしかないわぁ」
「でも僕は皆さんとちょっとした冒険が出来て楽しかったです!」
「私も! とってもドキドキしたわ!」
「ニャオ!」
「ワタシも、楽しかった」
「ワタシもです! チュチュ先輩、ありがとうございました!」
「……まぁ、キミらがそう言うなら良かったんかな」
キセキ達は元来た道を戻ろうと扉の方へ向かった。
「あ、キセキ! ちょっといいかい?」
ディオーグがキセキを呼び止めた。
「え? あ、はい……(俺だけ……?)」
キセキを残して五人は食料庫を後にした。ディオーグと二人きりになり、部屋はシンと静まり返る。
「こちらに来てくれ」
ディオーグは食料庫の奥へと歩いていく。キセキもそれについていく。突き当たりまで来たとき、ディオーグは壁を構築しているレンガの一つを押した。すると壁はズズズッと動き、新たに通路が現れた。
「……! こ、これは……」
驚くキセキを見てディオーグはニコッと微笑み、そのまま更に先へと突き進む。キセキも置いていかれないようについていった。しばらく歩いた後、古びた扉に辿り着いた。ディオーグはその扉をゆっくりと開く。
「わぁ……」
そこは思わず感嘆の声が漏れるほど綺麗な部屋だった。天井はガラス張りのようになっており、透けて見える水面からここは水中であることが分かった。月光が優しく差し込み、水で反射して様々な形で部屋を照らす。その奥にはガラスケースのようなものに入った大きな花が置かれていた。
「凄い……ヴァイスハイトにこんな場所があったんですね!(奥にあるのは薔薇……? 人ぐらいの大きさだぞ)」
「ああ、良い場所だろう」
ディオーグは乱雑に置かれた椅子の一つに座り、キセキにも座るよう促した。キセキは一番近くにあった椅子に座った。
「少し、話そうか」
「は、はい……!」
キセキは緊張していた。それをディオーグも察した。
「緊張しないで。リラックスして話してほしい」
「わ、わかりました……(リラックスできねぇ……)」
「何から話そうか……そうだね。まずは一つ訂正しようか」
「訂正……?」
「さっきボクはキミ達だから招き入れたというわけではなく、もしあの部屋に気づく者が現れればそれが誰であっても招き入れていたと言った。アレは少し違う」
「え!?」
「招き入れたのは……キミがいたからだ」
「俺が……ですか?」
「うん。キミであれば妹を救えるかもしれないと思ってね」
「妹……ネージュさん?」
「そう。ネージュ・キルアディア。たった一人の兄妹だ。……今、ココにいる」
「……? どこに……」
キセキは辺りを見回すが、それらしき人は居ない。その中で部屋の奥の花に目が止まる。
「……。……!」
キセキは慌てて花の入ったガラスケースのようなものに駆け寄る。近づいて見てみると、それは、花ではなかった。
「こ、これは……」
それは目を閉じて立ったまま動かない血塗れの人間だった。身体の至る所から棘が生えており、それが薔薇の花弁のように見えていたのだ。ガラスケースのようなものからはほんのりと冷気を感じる。
「(な、何なんだ……? これ……? 全く動く気配が無い。固まってる? 生きてるのか……? 死んでるのか……? どちらにせよ、何でこんなところに……)」
「生きてるよ。少なくともボクはそう信じてる」
「!!」
「話すと長くなるから簡潔に言うと、彼女は今特異な状態でね。生きたまま死んでいる。つまりは仮死状態に近い。そうなったのはボクの責任だ。だから月に一度、様子を見に来てる」
「……! (食料庫の点検というのも半分は嘘……)」
「キセキなら何か……彼女を救う手立てを知らないか? というか……そういう能力を授かっていないか?」
「……? え、どういうことですか?」
「……キミは、転生者だろう?」
「!?」
キセキは驚愕した。鼓動が激しくなる。見抜かれるのはこれで三度目だが、やはり慣れるものでは無かった。動揺が止まらず、言葉を発せない。その様子を見て、ディオーグが話す。
「……やはりそのようだね。スマホの件での疑いが今確信に変わった。それなら授かっているはずだろう。チート能力を」
「え、えっと……(スマホの件!? もしかして俺の鞄にスマホを入れたのはディオーグ!? いや、それよりもスマホを知ってるだと……?)」
キセキはまだ上手く言葉を紡げなかった。
「……先にボクから話そうか。端的に言うとボクもキセキと同じなんだ」
「……え? 同じ?」
「ボクは転生者だ」
「!?」
キセキはまた絶句した。
【物語あるある・再掲】転生者は一人じゃない
「(待て待て待て待て。話についていけない……ディオーグが転生者!? 俺とマーリンを含めて三人目!? そんな話あるか!? ……いや、でもそう考えたら色々納得がいく。スマホのこともだけど、一番は名前だ。今だに彼の名前だけ由来が判然としない。それは転生者だからだとしたら筋が通る。ディオーグはラスボスではない……?)」
「アーサーという少年にこの時代へ転生させられてね。そのときチート能力を授かった。それがパッシブ「無限魔力」だ」
【物語あるある】無限の魔力
「ディオーグ先生もアーサーに……最強たる所以もチート能力を授かっていたから……し、信じ難い話なのに、全て理にかなっている……ピンインの魔力が見えないって話も、魔力が無限だからか……」
「ピンイン……? ああ、夜衝の長か。魔力を見ることが出来るんだよね。その通り。魔力が無限ということは魔力域の範囲も無限。見えないのではなく、逆に常に見えているから他と識別出来ないのだろう」
「(とんでもない能力……そりゃ最強だわ)」
「ボクについては話した。次はキセキの番だ。キミは一体どんなチート能力を授かったんだい?」
「そ、それがですね……」
キセキは自身が転生した際の経緯を話した。
「チート能力を授かっていない……? その上三つのルールだって……? そんなのボクは聞いていないよ」
「そ、そうなんですか!?」
「ああ。ボクが転生した際は「無限魔力」を与えられただけだった。それに自身が転生者であることをバラせば死ぬのなら、ボクはとっくの昔に死んでいる」
「じゃあ俺にだけ適用されている……? でもそうだとしたらこうして話しているのもアウトな気が……」
「そうだね。アーサーの設けたルールというのが嘘か真か分からない以上、気軽にバラすことは控えた方がいいだろう……それにしても、チート能力を授かっていない……か……ボクの宛は外れたようだね」
「力になれず、ごめんなさい」
「いや、いいんだ。気にしないでくれ。でもそんなアーサーのことだ。そう言いつつ何かしらのチート能力をキセキに授けている可能性もある。キミがまだ気づいていないだけで」
「それなら一つ、気になる力が……」
キセキは何故か「水彩蓮華」や「熱血鉄拳・天晴」を発動出来たことを話した。
「……! それは、本当かい?」
「はい。使おうと思って使えないときもありましたが、習得していないはずの“魔術”を土壇場で発動出来ました」
「……キセキになら、話してもいいか」
「……え?」
「それはチート能力ではない。誰もが発動させられる可能性を秘めている、最強の“魔術”。その名は“跡術陣”……“軌跡の魔術”だ」
【物語あるある】タイトル回収
「“軌跡の魔術”……! (俺の名前の由来はコレだったのか……!)」
「フレイドが死の間際発動したのも“跡術陣”だろう。“跡術陣”はその人の生きてきた軌跡を魔術化するもの。「水彩蓮華」や「熱血鉄拳・天晴」を発動出来たのは、キセキの記憶の中で印象に残っている技だからだろうね。“概術陣”と同じで自身の軌跡という概念を“魔術”として扱うから、非常に不安定な分強力なんだ。キセキはそれを上手く使いこなしてるみたいだけど」
「“跡術陣”を公にしないのはどうしてですか……?」
「……“跡術陣”が自身の未来までも決定づける可能性があるからだ」
「!? ……ど、どういうことですか?」
「その人の生きてきた軌跡を魔術化すると言ったね? それはその通りなんだけど、時に“跡術陣”は未確定な未来をも魔術化し確固たるものにしてしまうほどの力を持っている。それは例えば、自身の死の運命とかね」
「自分が死ぬ運命を受け入れることで、強大な力を得るということですか……? それってつまり……“跡術陣”の“終章”を発動したフレイドさんは……」
「……おそらく彼は自身がそこで死ぬことを察した。その未来を受け入れることで今際の際でありながら強力な技を発動出来たのだろう」
「そんな……フレイドさん……」
「……きっとフレイドはそれだけ護りたい存在が傍に居たから使ったのだと思うよ」
「!!」
「彼はキミに託したんだ。自身の未来を。これからの世界を。彼がどのような未来を予知したのかは分からない。だけどそこに自分が立っていなくても、安心して任せられる存在が居たから死の運命を受け入れた。その炎の遺志を無駄にしてはいけない。ボクらが引き継ぐんだ」
「……そうですね。フレイドさんの死を無駄にはしません。ランタンは、俺が倒します」
「……うん。その意気だ。そのランタンについてだが……キセキは誰か心当たりは無いかい? 内通者について」
「……強いて言えば、チュチュ先輩ですね」
キセキはチュイが怪しい理由をディオーグに話した。
「ふむ……確かにチュイは怪しいね。でも彼は違うと思うよ」
「え、どうしてですか?」
「少なくとも入学式で握手した際、彼に疑わしき点は無かった。いや、それで言うと誰も疑わしくはないのだけれど」
「あの握手って、スパイを炙り出すためのものだったんですか!?」
「ボクは“魔術”で人に触れるだけで断片的にだが記憶や考えていることを覗き見ることができる」
「何そのチート能力……」
「これはチート能力じゃないよ。“属術陣”の一つだ。悪趣味と言われるかもしれないが、生徒達を護るためその“魔術”で毎年全ての生徒に触れて危険分子が居ないか確認している。チュイだけでなく今年は怪しい生徒は居なかった」
「(チート能力とは別にそんな能力持ってるって、この人が最強と呼ばれるのは何もチート能力だけの話では無いんだな)そういえば俺と握手した際、一瞬固まったのは俺が転生者だと分かったからですか?」
「そうだ。普通産まれたときから断片的に見える記憶が、キミだけ14歳のときからだった。ボクも14歳の姿で転生させられたから、もしかしてと思ったんだ」
「なるほど……」
「話を戻そう。その上で気がかりなのは先程の敵襲だ」
「あの土で出来た人形みたいなやつですよね」
「ボクはヴァイスハイトに居る全ての人間の魔力を把握している。生徒や教員以外が侵入すればすぐにわかる。なのにさっきの敵襲は全く予知出来なかった」
「(チュイが会話や行動は把握されているって言ってたのマジなのか……)アレは既に忍び込んでいる内通者の能力ってこと……!?」
「そう考えるのがいいだろうね。ただ何故このタイミングで仕掛けてきたのか、誰がどのような方法であんな大規模な“魔術”を使ったのかが分からない。ボクはココに「蒼炎」が関わっていると思っている」
「「蒼炎」……!」
「「蒼炎」の能力はハッキリしていない。ただの炎とはもちろん違うし、人や物を転移させるだけでなく、攻撃を受け付けない性質もある。そのような万能の“魔術”は聞いたことがない」
「魔王の力とは違うんですか……?」
「仮に「魔王の欠片」を取り込んでいるとしても、魔王にそのような能力は無い。おそらくランタン固有の能力だろう。奴を倒すには「蒼炎」の解明が鍵になる」
「一筋縄ではいきそうに無いですね……」
「だからと言って思い通りにはさせないよ。キセキ、キミの力も不可欠だ。いざランタンと戦うときは、頼んだよ」
「……! はい!」
「そろそろ戻ろうか。きっと皆も心配してる」
「(もっと色々聞きたかったけど……)あの、一つだけ聞いてもいいですか?」
「なんだい?」
「……転生するとき、自分で新しい名前を決めるよう言われましたよね? どうしてその名前に?」
「……なんか、強そうじゃない? ディオーグ・キルアディアって」
「……え? それだけ?」
「アハハッ、それだけだよ。深い意味は無い」
「そ、そうですか……(そりゃ由来とか分かんねぇわけだ)」
キセキとディオーグはその部屋を後にした。
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