《第5章:トライワンズ》『第7節:前夜祭』

 メイルと別れた後、キセキは自室で日記をつけていた。

「(アキュアとデートしたことまでは書いてるから……幻獣山に行ったところからだな)」

 キセキは日記に幻獣山で起きた出来事を書き連ねていく。

「(ブルート……俺が倒した後いつの間にか居なくなってたらしいけど、どうなったんだろ……それにしてもあんな辺境の地であいつと出会うとは……いや、偶然じゃない。明らかに俺を狙った犯行だろう。イグナイトは変わらず目を覚まさないから俺がランタンに狙われる理由が分からない。ただ……内通者の存在はもう確実だろう。一体誰だ? 幻獣山に向かうことはアキュア、メイル、スプリング、ブルーマしか知らないはず……いいや、ブルーマの店に他にも客がいた。顔までは覚えてないけど、その中の誰かか? これからは何かイベントが起きる度周りの人物も気にしておかないとな……待てよ。メタ的に推理するなら「あの人」が一番怪しくないか? 名前は……)」

 コンコンッ。

「チュチュやで〜! キセキくん!」

「!!」

 チュイが扉の向こうからキセキを呼んだ。

「……あれ? おらへん?」

「いますいます!」

 キセキは慌てて飛び出した。

「お〜! おるやん! 何ですぐでぇへんの?」

「ち、ちょっと着替えてて……(頭の中で思い浮かべてた人が実際に来るとは思わないじゃん!)」


【物語あるある】都合良く現れる登場人物


「まぁ、ええわ。それよりキセキくん。前夜祭こぉへんの?」

「前夜祭?」

「あら、存在も知らへんかったか。今、暇?」

「ええ、まぁ……」

「やったらついといで〜。オモロいとこ連れてったる!」

「オモロいとこ……?」

 キセキは言われるがままチュイについていった。扉の間に着き、チュイは一つの扉に向かって「ミスリル!」と叫んだ。そして扉を開くとワッ! と歓声や怒号が聞こえてきた。

「な、何ですかコレ……!」

「コレが「トライワンズ」前夜祭や! 三大学舎の生徒が集って宴しよるんよ! ここは無礼講! 学年もクラスも関係無く楽しんだもん勝ちや!」

 そこにはヴァイスハイトの生徒だけでなく、ヴィゴーレ・ヴェネレイトのものと見られる制服の人達が何十人といた。皆食べ物や飲み物を片手にどんちゃん騒ぎしている。


【物語あるある】前夜祭


「チュチュく〜ん! こっちに来て話の続き聞かせてよ〜!」

「おっ、呼ばれてしもた。ほなキセキくん、また後で! 色んな人と話して楽しんどいで〜」

「あ、ありがとうございます!」

 チュイは呼ばれた方へと向かっていった。

「(っにしても凄い騒ぎだな。先生達はこのこと知ってんのか? ……カッターシャツにネクタイはヴァイスハイトの生徒、軍服っぽい制服はヴィゴーレの生徒だから、シスターみたいな制服はヴェネレイトの生徒かな? ホントに三大学舎が集まってるんだな〜。すげぇ)」

「やぁやぁ〜、キセキさん〜」

「ん?」

 キセキは突然青紫色の髪の少女に話しかけられた。眠たげな三白眼で、制服からヴェネレイトの生徒だと分かった。

「今来たとこですか〜? 想像以上に盛り上がってて驚いたでしょ〜?」

「……えっと、どちら様でしたっけ?」

 キセキは少女のことを思い出せずにいた。

「覚えてないんですか〜? 私は覚えてますよ〜? 十二衛弟水弟のアキュアさんとイチャイチャしてたじゃないですか〜」

「イチャ……!? し、してないですよ! ……って、あ!!!」

 キセキはようやく少女のことを思い出した。

「魔物料理専門店の店員さん!?」

「思い出すの遅いですよ〜。傷つく〜」

「うっ、ごめんなさい……(あの時はグラディオに注目してて店員にまで意識がまわってなかったな……)」

 そう、彼女はキセキとアキュアがフロントハイトで昼食を食べた魔物料理専門店のウエイトレスだった。


【物語あるある】モブだと思っていたら実は重要人物


「ハハハッ、冗談です〜。私、グゥジ・プライアって言います〜。一応ヴェネレイトのパラス「浄皇じょうこう」の一人「菓皇かこう」をやらせてもらってます〜」

「俺はキセキ・ダブルアールです……ってパラス!? (ヴェネレイトは「浄皇」って言うのか……!)……あれ、何でそんな人があそこで働いてたんですか?」

「アルバイトが趣味なんですよ〜。社会勉強ってやつです〜」

「(その上でパラスの任務もこなしてるって考えたら凄いな)へぇ〜、いいですね! 他にはどんなバイトを?」

「家庭教師とか、居酒屋とか、使い魔屋とか、おもちゃ屋とか、ケーキ屋とか色々ですね〜」

「(……掛け持ちしすぎじゃね?)す、凄いですね……」

「それよりこんな所にいて大丈夫なんですか〜? グラディオさんと戦うんですよね〜?」

「あ〜、まぁ、そうなんですけど、そもそも舞台に立てるかどうかまだ分からなくて……」

「……?」

 キセキは眠っていたため予選に出れなかったことを話した。

「ハハハッ、キセキさん面白いですね〜。じゃあ、出れるかどうかはさておき、グラディオさんと戦ったことのある私が稽古をつけるのはどうですか〜?」

「えっ!? いいんですか!?」

「いいですよ〜。私の仇を取ってください〜」

「(ってことは負けたのか……ヴェネレイトのパラスを負かすだなんてグラディオどんだけ強いんだ……?)」


【物語あるある・再掲】能力強化イベント


 二人はミスリルの外の広いテラスへ出た。テラスには誰もいなかった。

「ルールは簡単です〜。私がグラディオさんを真似て動くので、キセキさんはそれに対して遠慮せず攻撃してきてください〜。何回か繰り返せば動きの癖や特徴を掴めてくるかと思います〜」

「わ、分かりました! (「浄皇」に稽古をつけてもらう……グラディオと戦うまでに戦闘力をアップさせるまたとないチャンスだ。必ずモノにする……!)」

「では、いきますよ〜」

「はい!」

 フッ。ガッ。ドテッ。グゥジが消えたと思った瞬間、キセキは地面に尻をつき、彼女に杖を突きつけられていた。

「!?」

「ダメですよ〜、キセキさん。ちゃんと相手の動きを見ていないと〜」

「(いや待って!? 見てたよ!? 見てたけど気づいたら尻もちついてた! 速すぎる!)えっと……全然見えなかったんですけど、何かコツとか無いですか……?」

「う〜ん、そうですね〜、キセキさんは相手の姿を追ってるのかもです〜」

「……姿を追わないと見えなくないですか?」

「相手の姿を見るのではなくて、魔力の動きを見るんです〜。人は生きてる以上必ず動く前に魔力が揺らぎます〜。それを察知してどこからどう攻めてくるか見極めるんです〜」

「魔力が見えるんですか!?(ピンインと同じ……?)」

「いいえ、見えません〜。見るっていうのは感じ取るってことです〜」

「魔力を……感じ取る……」

「そうだ〜。こうしましょ〜」

 グゥジは懐から何か取り出してキセキに付けた。

「こ、これは……?」

「アイマスクです〜。それを付けたまま私の攻撃を躱してください〜」

「いやいや! 見てても無理なのに見なかったらもっと無理ですよ!」

「小さな音を聞くとき目を閉じて耳を澄ますでしょ〜? それと同じです〜。一つの感覚を遮断したら他の感覚が研ぎ澄まされます〜。物は試し、やってみて下さい〜」

「(で、出来るのか……? この俺に……? ……いや待てよ。グラディオも「過敏触覚」という触覚で空気の揺らぎや風の流れを感じ取って言動を把握してるって言ってたな……それと同じ感じか……?)」

「では、もう一度いきますよ〜」

「(……やや南から吹く風。食べ物や飲み物の匂い。生徒達が騒ぐ声。目の前に立つグゥジ……今必要な情報だけを感じ取って、それ以外はシャットダウンする……グゥジの動きだけに集中する……来る!)峰啼脚!!!!!」

「!!」

 キセキは爆発の勢いで飛び上がり、後ろから迫っていたグゥジの手を避ける。

「(驚いてる……見えなくてもわかる……コレが魔力を感じ取るということ……!)縁啼拳!!!!!」

 ドカァァァァァン!!! キセキの拳の先が爆ぜた。

「(外した! 手応えがなかった! どこに……? 集中しろ。感じ取れ。グゥジの気配……! これは……真上……!)呀翔斬!!!!!」

 キセキは自身の上空に斬撃を放った。パキッと音がなり、何かが落ちてくる。彼はそれを掴んだ。

「(何だ……? この感触……杖!?)」

「惜しかったですね〜」

「!!」

 キセキはグゥジの拳が顔の前に突きつけられているのを気配で察した。アイマスクを外してそれを確認する。

「杖に魔力を込めて囮にし、自分は先に着地していたんですね……」

「そうです〜。引っかかってくれると思ってました〜」

「み、見事に引っかかりました……杖、壊しちゃってごめんなさい」

「気にしないでください〜。それよりも一度言っただけでそこまで出来るのはキセキさんの才能です〜。自信を持ってください〜。グラディオさんとの戦い方も何となく分かってきたんじゃないですか〜?」

「……! はい!」

「グゥジせんぱ〜い」

「!!」

 テラスに一人の少女が入ってきた。ピンクのインナーカラーを入れた黒髪ツインテールに、ハートや十字架の衣裳が多く施された黒とピンクの服を着た、いわゆる地雷系ファッションの女の子だった。

「ネギせんぱいがお呼びですよぉ?」

「ああ、すぐ行く〜。キセキさん、もう大丈夫〜?」

「あ、はい! ありがとうございました!」

 キセキはアイマスクと杖をグゥジに返した。

「いえいえ〜。キセキさんならきっと私と同じくグラディオさんをボコボコに出来ると思うので、頑張ってください〜」

「ボコボコにって……あれ? グゥジさん負けたんじゃなかったですか?」

「誰もそんなこと言ってないですよ〜? ……あ〜、仇ってのは去年の後夜祭で私が楽しみにしていたプリンをグラディオさんが全部食べちゃったことですよ〜。許せないですよね〜」

「ああ……そういう……(ってことはグゥジ、グラディオよりも強いってことかよ……)」


【物語あるある】食べ物の恨みは怖い


「それじゃあ「ツインワンズ」、楽しみにしてますね〜」

「はい! 必ず出場して必ず勝ちます!」

 グゥジはニコッと微笑んでから、ミスリルの中へ戻っていった。

「(って言っても出られるかはハイレンの采配次第だけどなぁ……物語あるあるの展開的に出られないってことは無さそうか……?)」

「「ツインワンズ」! 本戦出るんですか?」

 グゥジを呼びに来た少女がキセキに聞いた。

「あ、うん。その予定……」

「アタシも出るんですよ! 「ツインワンズ」! ……あ、すみません。アタシ、マイン・マオって言います! ヴェネレイトの一年生です!」

「そうなんだ! 俺はキセキ・ダブルアール。ヴァイスハイトの一年生だ」

「一年生だったんですね! じゃあタメ口でもいい?」

「もちろん!」

「アハッ、ありがとう! 一年生で「ツインワンズ」に出場する人珍しいから会えて嬉しい!」

「そうなの?」

「例年そこまで多いわけじゃないんだけど、今年は早期開催になったせいもあっていつも以上に少ないみたい! 先生が言ってた!」

「そうなのか! マインはどうして出場しようと思ったの?」

「アタシ、昔から臆病なところがあって、「ツインワンズ」に出場したらそれも変えられるかなって!」

「自分を変えるためにか……! いいね!」

「キセキはどうして?」

「俺は……大切な人を護るため……かな?」

「おお〜! 何それカッコイイ!」

「あはは、ありがとう」

「キセキのこと、応援してるね! あ、もちろん対決になったら容赦しないけど!」

「こちらこそ! お互い全力を尽くそう!」

「うん! じゃあまたね!」

 マインは笑顔で去っていった。

「(さて、俺も中に戻るか。グゥジに教えてもらった感覚、忘れないようにしなきゃ)」

 キセキがミスリルの中へ戻ると、そこにはユージーン、ヘルデ、ルミナスが居た。

「キセキさん! テラスにいたんですか!?」

「キセキくんいたぁ!」

「ニャー!」

「キセキ、いた」

「みんな!」

 キセキは三人と一匹に駆け寄る。

「皆も来てたんだ! 何してたの?」

「ここにキセキさんの姿が見えなかったので、部屋まで呼びに行ってたんですよ。でも部屋にもいなかったので、一体どこに行ったのかと……」

「あ〜、ちょうど入れ違いになっちゃったのかも。探してくれてありがとう」

「見つかって良かったわ」

「ニャオ」

「キセキ、ちょっと、久しぶり」

「そうだね! ルミナス……あ……」

 キセキはノワール、イグナイト、フレイドのことを思い出す。

「(ルミナスにとったら弟が敵側にまわってて、従姉妹は昏睡状態、その彼氏も亡くなったって相当ショックなはずだよな……どうしよ……何て声をかけたら……)ルミナス……えっと……その……」

「キセキ、大丈夫」

「!!」

「悲しい。けど、それだけ、じゃない。ランタン、許せない。必ず、ワタシ、倒す。そして、ノワール、連れ戻す。今は、それだけ」

「……! (ルミナスはとっくに乗り越えていたんだ。強い。俺が心配するまでもなかった)」

「キセキ、一緒に、戦って、くれる?」

「当然! 俺だってランタンを許せない! 共に戦おう!」

「ありがとう、キセキ」

「私達も一緒だわ!」

「ニャニャ!」

「そうです! 僕も出来ることをします!」

「!!……ユージーン、ヘルデ、ありがとう」

「皆の気持ちは同じだな。心強いよ」

「そうと決まったら、まずは「トランワンズ」に向けて英気を養いましょう!」

「そうね!」

 ユージーンの提案にヘルデが賛同する。

「そういえば皆は何か出場するの?」

「僕とヘルデさんは「ツインワンズ」に出ます!」

「そうなの! 俺も出るかもなんだ!」

「出る、かも……?」

「え〜っと、それは……」

 キセキは本日二度目の説明を行う。

「なるほど……それはハイレン先生、頑張ってほしいわね!」

「ニャア」

「きっと出場できますよ! キセキさんが戦っているところ見てみたいです!」

「(そういや意外とユージーンとヘルデの前で戦ったこと無かったな。逆に二人が戦ってるところも見たことない。「ジャック・オ・ランタン」のときは別れてたし……)」

「戦う、キセキ、かっこよかった」

 ルミナスが少し自慢げに語る。

「そう言われると照れるな……ルミナスは何か出場するの?」

「ワタシ、「クアッドドラゴン」、出たい」

「「クアッドドラゴン」に!? どうして?」

「強くなるため。ドラゴン、戦った経験、貴重。必ず、力になる」

「そっか。確かにその通りだね。じゃあ俺も出よっかな!」

「キセキくん、残念ながら出場出来る種目は一人一つまでなの」

「そうなの!? じゃあ無理じゃん!」

「「クアッドドラゴン」、四人チーム、あと、二人、足らない」

「ん? 一人は決まってるの?」

「ドロシー、っていう子。友達、なった」

「そうなんだ!(ドロシー・ゲイルか! 入学式で出会った恐らく重要人物の子だ……まさかルミナスと友達になってるとは……ルミナスが友達を……何かちょっと嬉しいな)あと二人、誰かいないかなぁ?」

「何か困っているようだな、キセキ」

 そう話しかけてきたのは、前髪が稲妻のようにカールしている黄色い髪の少年。

「カンムル! 久しぶりだね!(今日はいつもの双子を連れてないのか)」

「再会を喜ぶ間柄ではないだろう。「クアッドドラゴン」の話をしていたな?」

「うん、そうだよ」

「俺も出場するんだ。だが共に出る予定だったライトとレフトが出られなくなった。あと二人足らない。どうだ、そちらも二人足らないなら一緒に出てやってもいいが」

「(ライトとレフトは例の双子のことだな。病気か何かか?)いいじゃん! 共に出なよ! ルミナス」

「ヤダ」

「!?」

「お前、嫌い。協力、出来ない」

「る、ルミナス。お互いに困ってるわけだし、ここは一旦手を取り合っても……」

「ヤダ」

「ほ、ほら! 仲良くしなくてもお互いがお互いを利用するってつもりで!」

「……じゃあ、お願い、して」

「!!」

「きちんと、お願い、って、言えたら、組んでも、いい」

「(お願いだって!? そんなことカンムルが絶対しなさそうなことじゃん……!)」

「……くっ……お……お願い……します……」

「!?」

「……わかった。一緒に、出よう」

「はっ! これでいい気になるなよ! お前なんて数合わせだ! ドラゴンを倒すのは俺一人で十分だ!」

 そう叫ぶとカンムルは人混みへと消えていった。

「(妙に素直だったな……何でだ?)」

「やっぱり、あいつ、嫌い」

「あはは……」

「楽しんでるかい! 諸君!」

「!!」

 キセキ達の後ろからチュイが現れた。

「チュチュ先輩!」

「やぁ、ヘルデちゃん! 今日もかわええな! 何の話してたん?」

「「クアッドドラゴン」のことです。ルミナスちゃんが出場するので」

「ニャーオ」

 チュイの質問にヘルデが答えた。彼はルミナスに目をやる。

「おっ、今年の新入生代表やん。はじめまして! ワイはチュイ・チューハー。気軽にチュチュって呼んでな〜」

 ササッ。ルミナスはキセキの後ろに隠れた。

「……ルミナス、です」

「はははっ、そないビビらんでも! これからオモロい話したろっちゅーのに」

「オモロい話……?」

「ヘルデちゃんには前少し話したな? 「秘密の部屋」についてや」

「!!」

「コレは結構危ない話や。ここだけの秘密にしてや」

「そんな話、こんなに人が多いところでしてもいいんですか?」

 チュイの言葉にキセキが疑問符を浮かべた。

「こんなに人が多いところ……やからこそや」

「……?」

 更にチュイ以外の全員の頭に疑問符が浮かぶ。

「皆知らんかもやけど、基本的にヴァイスハイト内での会話や行動はディオーグ先生に把握されとると思った方がええ」

「!?」

「ど、どういうことですか?」

「詳しいことはワイもわからん。けど彼は自身の“魔術”で何の話してるかから誰がどこにおるかまで把握出来とるとワイは考えとる」

「じ、じゃあ今こうやって話してるのもマズいんじゃないですか?」

「ところがどっこい。そんな“魔術”にも穴がある。いくらあのディオーグ先生と言えども、こうやってぎょうさんの人が騒いでる部屋の中でコソコソ話してる会話までは聞き取れんのよ」

「なるほど……」

「だからヴァイスハイト内で内緒の話するときはこういう騒がしい部屋が最適なわけや。「本当の秘密の部屋」の話とかな」

「本当の……?」

「「秘密の部屋」は二つある。一つは十二衛弟のお遊び。もう一つはディオーグ先生が関わっとる「本当の秘密の部屋」や。その部屋は何十種類もの魔法で異様なぐらい厳重に閉じられとってな、そもそも簡単に開けることができへん。ただ一人を除いて……」

「それがディオーグ先生……?」

「当たり。ワイは彼が簡単にその魔法を解いて中に入っていくところを確認してる。「本当の秘密の部屋」の存在に気づいてから数ヶ月の間、一ヶ月に一回くらいの頻度かな? 中に入れたのは彼一人だけや」

「だからディオーグ先生が関与していると……?」

「そうや。そしてついに優秀な助手のおかげでその扉の開き方に辿り着いた! おっ、ちょうどおるわ。ドロシーちゃん!」

「ドロシー!?」

 チュイは近くでウロウロしていた赤茶色の長髪をした少女を呼び止めた。眼鏡をかけているが、それが隠れるぐらい前髪を伸ばしている。

「あ、ど、どうも……」

「ドロシーちゃん」

「ルミナスちゃん!」

 ルミナスとドロシーが再会を喜び合った。

「ドロシー。入学式以来だね」

「キセキくん! あの時は本当にありがとうございました……」

「いえいえ、気にしないで。どうしてドロシーがチュチュ先輩の助手に?」

「ワタシが校内で迷っていたらチュチュ先輩が助けてくれたんです。それでワタシのパッシブの話になって……」

「彼女のパッシブは「分割魔力域」! 自身の魔力域を分割して置いとくことが出来るねん! しかもその魔力域内で起きたことを記憶出来る能力付! 情報収集にこれほど適したパッシブはなかなか無い!」

「(「分割魔力域」……!? 俺の「変幻魔力域」と似た感じか……!)」


【物語あるある】主人公と似た能力の持ち主


「それを「本当の秘密の部屋」の前に置いてもらって、ディオーグ先生が扉を開く手順を記憶してもらったわけや! ドロシーが居れば開かずの間を開くことが出来る!」

「おお……! 凄い!」

「ってことでどうや!? これからその「本当の秘密の部屋」に行くって言うのは!」

「今から!?」

「今ヴァイスハイトは明日からの「トライワンズ」に備えて外への警備が強まってる。つまり内側は手薄ってことや! それに今日ディオーグ先生が居ないのも確認済み! やるなら今しかない!」

「……私、行きたい!」

「ニャ!」

「僕も!」

「……ワタシも、行く」

 ヘルデ、ユージーン、ルミナスが賛成した。

「んん……だったら俺も行きます!」

 キセキも続いて手を挙げた。

「(ディオーグ先生が隠している部屋だなんて物語あるある的に何も起きないわけがないしな。もしかしたら彼がラスボスかどうかわかる展開があるかも……!)」

「よっしゃ! そしたら決まりや! 六人でディオーグ先生の秘密を暴くで!」

「おー!」

 キセキ、ユージーン、ヘルデ、ルミナス、ドロシーの五人はチュイに続いてミスリルを後にした。向かう先は「本当の秘密の部屋」。そんなことは露知らず、ミスリルでの前夜祭は夜通し続くのだった。

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