《第5章:トライワンズ》『第6節:雨夜七冠』

〈昨日・最果ての地〉


「ハァ……ハァ……」

 肩で息をしながら歩を進める血塗れの男。それはブルートだった。

「やぁ、ブルート。元気かい?」

 彼に話しかけるのは蒼い炎のランタンを杖の先に提げた少女……正確に言えば、そのランタンから声がしていた。

「ぐははっ、コレが元気そうに見えるか? ぐほぉあ」

 ブルートは盛大に吐血した。

「あ〜、辛そうだね。うんうん、これは厳しそうだ」

「……? 何が……」

「ブルート、君から「冠」を剥奪する」

「!?」

 ブルートは冷や汗をかく。「冠」の剥奪。それが意味することは一つだった。

「ま、待ってくれランタン! 俺はまだやれる! 今回はちょっと調子が悪かっただけだ! まだあのガキを殺してねぇし……まだ「蒼炎の刻」を迎えてねぇし……まだ……まだ死にたくねぇ!!!」


【物語あるある】命乞い


「知らないよ」

「!!」

「一度は許したはずだ。君がフレイド・ブレイムから逃げ帰ってきた時にね。今回が最後のチャンスだった。それを活かせなかった君が悪い」

「そ、それは……」

「更にあれだけ釘を刺していた“ベルトベフライエン”をひけらかすように使いやがって。手の内をバラしただけじゃないか。やはり君に「蒼炎」を持たせなかった判断は正しかった」

「す、すまなかった! 許してくれ! 何でもする! 何でもするから! どうか命だけは……」

「それは出来ない相談だ。ブルート・クリムゾン」

「……!」

 突如ブルートの身体が蒼い炎によって燃え上がった。

「うわ、あ、わ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 ブルートの抵抗虚しく、蒼い炎の勢いが増し、彼は荼毘に付された。


【物語あるある】使えない部下は処刑される


「……さて、続けて「戴冠の儀」に移ろうか。雨夜七冠の四が抜けた。それによって五、六、七は一つ上に繰り上げだ」

「あれれぇ? ダメだったんだ、ブルートくん。かわいそっ! キャピキャピ☆」

「ラドロン。君が次の雨夜七冠の七だ。「冠」を授けよう」

「え〜! やったぁ! ランタンありがとう! より一層頑張るね! キャピキャピ☆」

 そう話すのは雨夜七冠の七「奪冠だっかん」のラドロン・クレフティス。目の中に☆がある黒髪マッシュの背の小さな少年だった。彼の身体が蒼い炎に包まれたかと思うと、首筋にⅦと刻まれ、「魔王の心臓」が移植された。

「$€々€<%☺︎︎⑅⃛*<༅:♪€3×÷×!」

 そう言うのは杖の先にランタンを提げた少女。彼女は雨夜七冠の六「遊冠ゆうかん」のモグモグ・シュピール。漆黒のローブを身にまとい、フードを深く被っているためその顔は分からない。

「モグちゃんも昇級を喜んでるわ。良かったわね」

 そう述べるのは雨夜七冠の五「霊冠れいかん」のプネウマ・プレデター。気だるげな雰囲気で、真っ白な肌に透き通った長髪が印象的な女性。

「やることは変わらない。我らは「蒼炎の刻」を目指すのみ」

 そう語るのは雨夜七冠の四「槍冠そうかん」のハルバート・ランスピア。龍を模した鎧を全身にまとっており、片手に巨大な槍を携えている。その素顔は分からないが、気難しそうな空気を醸し出していた。

「ブルートがやられたようだな……奴は四天王の中でも最弱……ただのガキごときに負けるとは雨夜七冠の面汚しよ……なぁ〜んてなぁ! ハハハハハハハハ!!!!!」

 そう笑うのは雨夜七冠の三「毒冠どくかん」のディリティリオ・ギフト。シルクハットにペストマスクを被り、トレンチコートをまとった不思議な格好をしている。コートの裾には謎の液体が入った大量の試験管を提げている。

「ブルートは何の役にも立たなかったな。元々気に食わなかったから清々したぜ」

 そう嘯くのは雨夜七冠の二「幻冠げんかん」のミラジェン・イルサン。金髪ウルフカットにスーツを着た男性。


【物語あるある】敵精鋭が一人ずつ話す


「あぁ、俺も早く「冠」欲しいなぁ。そしたら一気に強くなれんのになぁ」

 そう話すのは灰髪の男グラッジ・グレイ。「ジャック・オ・ランタン」討伐クエストの際、キセキ達を襲撃した男だ。

「やっぱりパラスを殺すのが実力を認めさせるのに一番早いよ。パラス……そこら辺に居ないかなぁ」

 そう言うのは黒髪の少年ノワール・コントラスト。ルミナスの弟で、キセキ、フレイド、ガストルと南西の町で戦った少年だ。

「向上心があるのは良いことだ。二人も雨夜七冠を目指して精進してくれ」

「それでぇ。今日僕達を集めたのはブルートくんの公開処刑がしたかっただけ? キャピキャピ☆」

 ラドロンがランタンに尋ねた。

「いいや、重要な話があるからだ」

「重要な話? 何ですか?」

 プネウマがランタンに聞く。

「「トライワンズ」の早期開催が決まったのは皆知ってるね?」

「当然承知」

「そうなの!? 知らなかった! なんてね! 一番に知ってま〜す! ハハハハハハハハ!」

 ハルバートとディリティリオがそれぞれ反応を示す。

「いわゆる我らへの「当てつけ」だ。三大学舎の協力関係と力を示し、魔力的結束を強くする。確かに今回のように僻地に出てきてくれないと攻めづらくなってしまった。ディオーグ・キルアディアの案だろうね。そして「西の大魔女」もきっと関与しているだろう」

「……ヴゥアツァか」

 ミラジェンが呟く。

「我々には強力なカードが残っている。ディオーグ・キルアディアも気づいてはいるが、特定にまでは至っていない様子だ。しかし「西の大魔女」が関わっているとなるとそれも時間の問題……あの子に限ってそんなヘマはしないだろうが、万が一バレる可能性も考慮して我らも作戦決行を早める必要がある」

「作戦ってよぉ……「あの」ぉ!? 本当に出来んのかよぉ?」

 グラッジが驚いて尋ねた。

「理論上はね。まぁ、雨夜七冠の何人かは死ぬだろうが」

 ピリッ……! ランタンの言葉に雨夜七冠の六人の空気が張り詰めた。

「雨夜七冠になった途端に死ぬのはヤダなぁ。キャピキャピ☆」

「〆¥*♪¥%#^\×$÷€<!」

「私は絶対生き残る、ですって」

「「蒼炎の刻」を見届けるまでは、死なない」

「オレ絶対一番に死ぬやつじゃあん! ヤダヤダヤダヤダ! なぁ〜んて! 死んでも死んでやんねぇよ!」

「死ぬとしたら俺以外の誰かだろうな」

「全員死んでくれたら、「冠」独り占めなんだけどなぁ」

 ノワールの言葉に雨夜七冠達は固まる。

「「「「「死んでたまるか」」」」」

「○:〒&€%+♪>#<\^々÷¥!」

「あはは! やっぱり面白いね、皆。誰も死んで欲しくはないよ。ただ相手が相手だからね。そういった可能性も考えないといけないってだけだ」

「じゃあ結局作戦はいつするんだぁ?」

「それは……」


「!!」

「思ってたより早くてビックリだよぉ。キャピキャピ☆」

「#&€♪*÷〒<:々&$%!」

「間に合いますか? ヴォルペの件もまだですが」

「間に合わせる。それ以外無いだろう」

「逆にそんだけ時間あんなら余裕じゃね? つってぇ! すぐ逆張りしたがるんだから!」

「面白くなってきたな」

「その作戦を行うにあたってやっぱり気になるんだけど……」

 ノワールが手を挙げて話す。

「ランタン、何者? 本当の目的は?」

「!!」

「ボク達は言わば無理難題をこれから行おうとしてるわけだけど、それを率いている者の顔も名前も知らないし、目指すのは「蒼炎の刻」って言うけど最終的な本当の目的も知らない。それってどうなのかな?」

「最もな疑問だね、ノワール。では目的の方から少し話そうか。そもそも「蒼炎の刻」ってどういうものか理解してるかい?」

「楽しい時代! キャピキャピ☆」

「¥→☆♪○〆^<%#$☆〒+×!」

「ディオーグ・キルアディアの居ない時代」

「弱者が淘汰され強者だけが生き残る時代」

「オレ達が自由に生きれる時代! ぷはっ! そんな時代どこにもないだろ!」

「ランタンが支配する時代」

「わかんねぇ」

「力を持った者が全ての時代」

「うんうん。どれも正解だよ。ポイントは三つかな。一つ、我らが生きやすい時代。二つ、力を持つ強者だけが生き残れる時代。そして三つ……ディオーグ・キルアディアが消えた時代。我々はそういった時代を創れる力と手段を持っている。「蒼炎の刻」はもう目の前だ。今回の疑問はその後の話だよね。そうした結果、どうなるのか」

「……」

 全員が固唾を呑んでランタンを見守る。

「物語が生まれるのさ。史上最強の物語が」

「物語が……生まれる……?」

「魔王がどうしてバラバラに封印されてなお強大な力を持っているか分かるかい?」

「……」

「それは物語の力だ。今現在この世界で最も力のある物語は「勇者アーサーの冒険」。誰もが聞いたことのある物語だろう。その中で魔王は最強の敵として描かれている。それを多くの人が読み、伝え、想像することで力をつけているんだ」

「そんな話初めて聞いたぜぇ?」

「突拍子も無い話に聞こえるかい? でも魔法や“魔術”と同じことさ。魔法や“魔術”も呪文という言葉を紡ぎ、魔力を様々なカタチに具現化するもの。ただの物語でも読まれたり語られたりすることでその対象の力として具現化されるんだ」

「それがランタンとどう関係するのぉ? キャピキャピ☆」

「これは歴史においても同じなんだ。一人の英雄が戦争を勝ち抜き一国の王になった話が語り継がれる度にその王の力が増すように、歴史という物語は存在しているだけで特定の人物を強くする」

「+☆<\^〒°%€×¥:♪$%÷<?」

「その特定の人物になりたいってこと? ですって」

「その通りだ、モグモグ。現代最強の魔術師をランタンとその愉快な仲間たちが打ち倒した歴史なんて、必ず教科書に載ると思わない?」

「!!」

「物語が生まれるというのはそういうことだ。ディオーグ・キルアディアを倒したという事実だけで、何もしなくても未来永劫強くなり続けられる。それはもう誰にも止められない。まさに我々は無敵になる」

「……素晴らしい」

「最っ低じゃねぇか! あ、間違えた。最っ高じゃねぇか! ハハハハハハハハ!」

「無敵か……いい響きだ」

「そして次に正体に関してだが……」

 ランタンから蒼い炎が飛び出し、八人の前で激しく燃え上がった。その中に人の姿が見える。

「●●は●●の●●だった」

「!!」

「え〜! 本当にぃ? キャピキャピ☆」

「¥%×<>^々○〒:☆♪$%€!」

「ランタンの言うことだから信じる! ですって。その通りね」

「にわかには信じ難し。しかし頭として申し分無し」

「ハハハハハハハハ! 面白い! 面白すぎてそれ以外言えねぇ! ハハハハハハハハハハ!」

「はははっ! そりゃいいや」

「おもしれぇけどよぉ、そんな奴が何でって聞くのは野暮かぁ?」

「それを話すと長くなるからね。またの機会にしよう。少しは納得してもらえたかい? ノワール」

「……うん。想像以上だったよ。ありがとう、ランタン」

「それは良かった。ではそれぞれ成すべきことを為そう。いってらっしゃい」

 ランタンのその一言で七人は各自方々に散っていった。

「♪$°*×=:々〆^☆¥%+<〒\€!」

「モグモグ、お腹が空いたのかい? そうだね。腹ごしらえしに行こうか」

 モグモグとランタンは蒼い炎に包まれ消えた。


【物語あるある】暗躍する敵組織

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