《第5章:トライワンズ》『第5節:幻獣山』
「よぉ〜し! 集まったな! 少年少女よ! ちゃんとクエストは受注して箒は借りてきた!?」
「はい!」
「もちろんですわ♡」
日曜日朝八時ピッタリにヴァイスハイトの正門前へ集合しているのは、キセキとメイル、そして泉弟のスプリングだった。
「いいね! それじゃあ行こうか! 幻獣山へ!」
三人は麒麟が生息していると言われる幻獣山へと列車で向かった。最寄りとなる駅に降り立つと、目の前には頂が雲に隠れて見えないほど高い山がそびえ立っていた。
【物語あるある】頂が雲に隠れた山
「これが……幻獣山……!」
「情報によるとこの頂上に麒麟が住んでるって話だ」
「うわぁ……え、待ってください。登頂するんですか?」
「ああ」
「え、今日中に帰れます? どう考えても一日で登り切れるような山じゃないですけど……?」
「……あんた、もしかして徒歩で登ろうと思ってる?」
「ん? 違うんですか?」
「おバカ! 何のために箒を持ってきたと思ってるんだ!」
「そういうことか! そのための箒!」
「あらあら、これは先が思いやられますわ♡」
「ご、ごめんなさい……(たまに感覚のズレを起こすよなぁ。直さないと)」
キセキとメイルとスプリングは箒に跨り、同時に地を蹴った。すると箒はフワッと浮かび上がり、そのまま幻獣山の頂へと向かい始めた。その間、三人は雑談をする。
「スプリングさんはカテゴリー:フェニックス以上の魔物と何度か戦ったことあるんですか?」
「あるよ。一回だけ」
「一回!?」
「何よ、悪い?」
「い、いや、相当自信がおありだったのでもう何度も戦ったことがあるものかと……」
「言っとくけどそもそもカテゴリー:フェニックス以上の魔物なんてそう簡単に出会えるものじゃないからね? クエストも大体白魔道師隊が処理するからあーし達にまで回ってこないし」
「と言うと……?」
「全国から集まるクエストってのは最初白魔導師隊を通して、その次にあーし達のクエストボードに貼られるの。もちろん生徒が発行して直接貼られたクエストは別としてね? そうして白魔導師隊を通した時にカテゴリー:フェニックス以上の難関クエストは大体そっちで対処されちゃうから、あーし達の目に触れることは少ないってことよ」
「なるほど……今回はブルーマさんに依頼してもらってそれを直接クエストボードに貼ったってことですか?」
「そゆこと」
「わざわざクエスト発行してもらった理由って何ですか? その方がやりやすいって仰っていましたけど……」
「あらあら、そんなこともわからないとは、本当に先が思いやられますわね♡」
「いやぁ、ホントに俺無知なもんで……」
「緊急時を除いて、原則魔物を狩ることもその素材を受け渡しすることも国の許可が必要ですの♡ でも国に許可を得るのなんて、基本的にとんでもなく手間と時間がかかりますわ♡ そこで便利なのがクエストで、クエストでの魔物の狩りは事後報告が許されますの♡ つまりクエストさえ発行されていれば、魔物を討伐したり素材の受け渡しをしたりした後で書面で報告するだけで良いので圧倒的に楽なのですわ♡」
「メイル詳しいな! 凄い! ありがとう!」
「これくらい当然ですわ♡」
「ま、あーしが戦ったのはクエストじゃなかったけどな」
「え、じゃあ何で?」
「「クアッドドラゴン」だ」
「また知らない単語ぉ……」
「「クアッドドラゴン」は「トライワンズ」の種目の一つで、生徒四人対ドラゴンの試合を行うことですわ♡」
「ドラゴンと戦うの!? それも四人で!?」
「去年の「トライワンズ」であーしとフレイドさんとガストルさんとピサさんで出場してね。惜しくも準優勝だったのよ」
「それは何で順位が付くんですか……?」
「三十分以内でドラゴン相手にどこまで戦えたかだね。そもそもドラゴンを倒すことは想定されてないのよ。ウケるっしょ? 翼を優先して攻撃して落としたとこまでは良かったけど、そっからの連携がまだまだだったって審査員には言われた。納得いかなくね!?」
「見てないから分からないですけど……その四人でも手に余るってやっぱりドラゴンって相当強いんですね」
「ちなみに優勝はどこだったのかしら?」
「ヴィゴーレのパラスが集まったチームがドラゴンを圧倒していたよ。いや、そのリーダーはまだそのときパラスでは無かったな。確かグラディオ何とか……とか言ったか?」
「グラディオ・エスパーダですか!? その人なら昨日会いましたよ! 何でも「トライワンズ」関係でヴァイスハイトに用があるとかで……」
「あ〜、確かそんな名前だったな。昨日は午後からパラスでの意見交流会があったから、そのために来てたんでしょ」
「(ドラゴンを圧倒できるレベルの力の持ち主……か……本当に勝てるのか? 俺……いや、弱気になるのはダメだ。勝つんだ。そして証明するんだ。アキュアへの気持ちを。自分の中で確かめる意味でも……)そういや昨日から思ってたんだけど、メイル、前一緒にいたセレスティア? は連れて来なくて良かったの?」
「彼女にはワタクシから留守番を頼みましたわ♡」
「どうして?」
「「シングルブルーム」優勝に関することは、ワタクシ一人で全て成し遂げたいからですわ♡」
「!!」
「先代の方々は皆そうしてきましたの♡ そうしてこそ一人前のクラドイン家だと認められるのですわ♡」
「(だから箒を買うのも一人で来てたのか。お嬢様だからその辺召使いとかに頼みそうなものだもんな)」
箒は山の頂を覆う雲の中まで到達していた。
「……でも今現在こうして貴方とスプリング様に手伝ってもらっている……もう意味は無いのかもしれませんわね……」
「そんなことないよ! メイルはまだ一人で戦っているよ!」
「!! ……ワタクシが?」
「ああ。「シングルブルーム」で優勝すると決めたのはメイル。そのために「フラッシュダッシュ」を手に入れたいと思ったのもメイル。素材を集めるのに麒麟と戦うことを選んだのもメイル。俺とスプリングさんはたまたまそのメイルの選択と道が被っただけであって、メイルに手を貸しているわけではない。メイルはずっと一人で選択して、一人で戦い続けているんだ。「シングルブルーム」の結果云々の前に、その時点でメイルはもうかけがえのないものを手に入れているんじゃないかな?」
「かけがえの……ないもの……」
「……(あ〜!!! また長文説教おじさんみたいになっちゃった! 恥ずかしい! 絶対喋りすぎた! 絶対二人とも引いてる!)」
「……」
「(スプリング何か話してぇ!?)」
「そう……ですわね……貴方の仰る通りかもしれませんわ♡」
「え?」
「ワタクシ、自分で決めるということをしたことがありませんでしたの♡ 産まれた時から食べるものや生きることで困ったことはありませんでしたし、何もかも既に準備されていて、それに則って生きれば間違いないと言われ、その通りに生きてきましたわ♡ ヴァイスハイトに来たのも“魔術”を学ぶのにこれ以上は無いと言われたから来たのであって、ワタクシが選んだのではありませんわ♡ でも……それでも、いや、それさえもワタクシが選択した結果だと貴方は仰いたいのですわよね?」
「うん、そうだよ。そしてメイルが選択した結果、今俺が隣にいる」
「!!」
「生きるということは選択の連続なんだ。全ての選択の結果が今という現実に繋がっている。さっき道が被っただけって話したけど、そこで助けを求めてもいいと思うんだ。もちろん一人でやり遂げたいっていうメイルの考えは尊重するけど、どうしても無理だってなった時、俺という仲間がいることを忘れないで欲しい。俺はいつでも君の力になるから」
「……そうですわね……うん……決めましたわ……ワタクシ……」
「構えろ! 二人とも! 敵襲だ!」
スプリングが叫んだ瞬間、彼女は巨大な赤い手に掴まれて雲の中へ消えていった。
「スプリングさん! (まずい! 視界が悪くて敵がどこから来るかわからない! しかもここは空中。いつものように戦えるか!?)」
「……! お離れになって!」
ドンッ! キセキはメイルに突き飛ばされた。その瞬間、メイルは赤い触手のようなものに捕まって雲の中へと消えた。
「メイル! (くそっ! 俺のことを庇って! っていうかさっきから襲ってきてる赤い手や赤い触手……嫌な予感がする。これは……もしかして……)」
雲の中からキセキの眼前にゆっくりと箒に立って乗った男が現れた。
「よぉ、キセキ」
「……!! ブルートォォォォォ!!!!!」
キセキは叫んだ。それはフレイドを殺した張本人、ブルート・クリムゾンだった。
【物語あるある】恩師の仇との再戦
「会いたかったぜぇ。お前に殴られて罵声を浴びせられたあの日から、お前のことを忘れた時間は一秒たりとも無かった。ずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっと考えてた……どうやってお前を嬲り殺してやろうかなぁ!?」
ブルートに黒い霧のようなものが集まっていく。
「(いきなりオーバーロード!?)」
「飛ばしてくぜぇ? “血術陣 解放”!」
ブルートの腕に赫い魔法陣が浮かび上がる。
「“第1幕
ブルートの腕から血が撒かれ、それは空気中に漂った。
「(攻撃……じゃない? 何だ?)」
「“第2幕”」
「!!」
「“
空気中に漂っていた血液が一気に爆発してキセキを襲った!
「がっ……!」
攻撃をモロに受けたキセキは箒から弾き飛ばされ、山の斜面にドサッと落ちた。
「(全方位からの爆撃……しかもコレ……)」
キセキの身体の攻撃を受けた部分は、酷く爛れていた。
「(“血酸”……酸を含んだ血か。傷口が炎症を起こしてズキズキと痛む……)」
「おいおいコイツで終わりじゃないだろ!? なぁ!?」
「!!」
いつの間にかブルートがキセキの眼前に居た。
「“第3幕”」
「(ヤバいヤバいヤバい! 何か、何か技を! そうだ! まだブルートには使ってない技!)」
「“
「呀翔斬!!!!!」
ドッカァァァァァン!!! 二つの刃はぶつかり合い、大爆発を起こした。それによって起きた砂煙から、ブルートが立っている方にキセキが飛び出す。
「!!」
「もう一発! 呀翔斬!!!!!」
「ぐっ!!!」
キセキの攻撃は命中し、ブルートの身体は斬られた。
「(よし! 当たった! これならやれる!)」
「なんてね」
「!?」
ブルートの傷口から大量の血が吹き出し、キセキを襲った!
「“第4幕
「ごぽっ……ぐがぱっ……」
キセキを襲った血が金魚鉢のような形を成し、彼を中に閉じ込めた。
「(く、苦しい……! 息が出来ない……! どうにかしてここから出ないと! 呀翔斬!!!!!)」
鉢の中でキセキは技を放ったが、ビクともしなかった。
「(くそっ! ダメか! だったら……峰啼脚!!!!!)」
キセキは足元で爆発を起こし飛び出そうとするが、鉢の外壁が伸びてそれを拒んだ。彼は鉢の中に弾き返される。
「(これでもダメか! ど、どうしたら……もう……息が……)」
「ぐはははははは!!! 惨めだなぁ惨めだなぁ。お前もあいつも、何も成し遂げられず死んでいくんだ。そういうの何て言うか知ってるか? ……犬死って言うんだよ。お前らのようなゴミにはお似合いの死に方だな! さぁ、苦しみながら、後悔しながら逝け! ぐははははははははははははは!!!」
「“第1章
とんでもない勢いの熱水が鉢を攻撃した。すると鉢はみるみる溶けていき、キセキが中から溢れ出る。
「“第1式
雲の中から飛び出してきたメイルの拳がブルートを襲った! しかしブルートはそれをサッと躱す。
「キセキ! 大丈夫か!?」
「げほっごほっげほっ……す、スプリングさん……? 無事だったんですね……」
「あーしは全然大丈夫だよ! それよりもキセキが!」
「俺も大丈夫です……ちょっと食らいすぎましたが……」
「貴方は一旦下がって休んだ方が良いですわ♡ ワタクシに任せなさい♡」
そう言ってメイルは鎧で覆われた拳を構える。
「お嬢様口調がうぜぇ方は知らねぇが、もう一人は……おお〜! やっぱり! スプリングじゃねぇか!」
「ブルートさん……本当に「魔王の心臓」を移植されてるんすね……」
「「魔王の心臓」? ちげぇよ。コレは「冠」だ。オレは「
「はっ。フレイドさんが居たらこう言ったんじゃないすか? 「人様の力を自身の力と過信する……本当に惨めだ」と」
「俺の前で……」
ブルートの周りに無数の赤い刃が浮かび上がる。
「あいつの名前を出すなぁぁぁぁ!!!!」
その赤い刃が次々と飛んでいき、キセキ達を襲った!
「“第2章
「“第2式
メイルとスプリング、それぞれから放たれた技は赤い刃を次々と叩き落としていき、最後はブルートに迫った!
「メイル! あーしから攻めるから追い討ちを!」
「承知いたしましたわ!」
「目の前で打ち合わせ!? ナメられたもんだなぁ!」
「“第3章”」
「攻撃が来るって分かってんのに受けられねぇわけねぇだろ!」
「“
スプリングの杖の先から熱湯が飛び出した! しかしブルートはそれを腕で易々と弾く。
「ぐははははは!!! ここに来て何だその“魔術”!? みっともねぇなぁ十二衛弟!」
「“第3式”」
「来るの分かってるのに食らわねぇよ! ……あれ? なんだ?」
メイルが右から迫ってきているのに、ブルートはそちらの方へ向けない!
「(何だ!? スプリングから目が離せねぇ!)」
「“
メイルはブルートの周りを飛び回り、ありとあらゆる方向から拳をぶつけた!
「ぐっ……ちっ! 何だ今のは!」
「“泉詩鈺執”はかかった相手の注目を自身に固定させる“魔術”! あんたはこっから私以外見ることが出来ない!」
「つまんねぇ“魔術”使いやがって! 全員まとめてぶっ飛ばしゃ関係ねぇ! “第5幕”!」
ブルートの頭上に赤い結晶が現れた。
「!! 皆! アレを受けちゃダメ! 防御に徹して!」
「わかりましたわ!」
バッ! メイルとスプリングが話す前にキセキが飛び出していた。
「キセキ!?」
「“
刹那、ブルートの頭上の結晶は大爆発を起こし、辺りを焼け野原にした。その中の水で出来た蓮華が咲き乱れた場所に立つ、キセキとメイルとスプリング。
「防いだ……だと……!?」
「“水彩蓮華”……間に合って良かった(これもブルートの前では使ってない技だ)」
「ナイスだキセキ! 助かった!」
「た、助かりましたわ」
「こちらこそ、さっきまで庇って頂いてありがとうございました。こっからは俺も戦います」
「でも、その傷……」
「大丈夫です。戦えます。戦わせてください」
キセキは真っ直ぐスプリングの目を見つめる。
「……わかった。一緒にフレイドさんの仇を討とう!」
「はい!」
「クソがっ! イライラさせやがって……さっさと諦めてりゃ楽に殺してやったのによ。仕方ねぇ。「アレ」使うか」
「(「アレ」……?)」
「……“ベルトベフライエン”」
ドッッッッッッッッ!!!!! ブルートが唱えた瞬間、彼の胸から黒い霧のようなものが一気に溢れた。それは天まで立ち上り、留まる様子がない。
「!? 何……これ……」
「(オーバーロード……ではない……? いや、それよりももっとヤバい感じがする!)」
天まで立ち上っていた黒い霧のようなものが突然パッと晴れた。次の瞬間、バキバキと音を立てながらブルートの身体の周りに赤い鎧が構築されていく。それが頭の上から足の先まで全て覆い尽くしたとき、彼の目が妖しく光った。
「ぐふっ、ぐははははははは!!! これが! これが“ベルトベフライエン”! あぁ、力が溢れる! 力……が……」
「……? 何だ?」
「ぐ、ぐあ、あああ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
ブルートの咆哮が幻獣山に轟いた。キセキとメイル、スプリングは耳を塞いで耐える。
「……殺ス。邪魔ナモノ。全テ」
「!? 自我を失ってる!?」
【物語あるある】我を失ったカタカナで話すキャラ
「“第6幕
気がつくと、全員身体を切り裂かれていた。
「きゃあ!」
「ぐあっ!(何!? は、速すぎる!!)」
「“第7幕
ブルートが右腕に血を集結させ、それが凝固し巨大な拳になった。
「(あんなので殴られたらひとたまりもない……! も、もう一度……!)“水彩蓮華”!!! ……あれ?」
さっきのように“水彩蓮華”が発動しなかった。
「(おい! どうして!? 何で急に発動しない!? まだ俺がこの力を使いこなせてないってことか!? で、でも早く使わないと……)!!」
ブルートがいつの間にかキセキ達の頭上に飛んでおり、巨大な拳を構えて力を溜めている。
「(も、もしかして……この斜面ごと打ち砕く気か!? ヤバい! どうする!? 考えろ! 俺はそう簡単には死なないんだ! 何かある! 考えろ! 考えろ! 考え……何だ? この声は? いや……いななき?)」
ブルートが拳を振り下ろしたその瞬間……ゴオッッッッッッッ!!!!! 暴風と轟雷が吹き荒れ、ブルートを弾き飛ばした。彼は地面に強く打ち付けられた。
「(誰だ!? 誰かが助け……)!!」
キセキの視線の先には白銀に輝く体毛に覆われた神々しい生物が立っていた。それは事前に魔物図鑑で確認していた麒麟の姿そのものだった。
「(麒麟!? も、もしかして、麒麟が助けてくれたのか……? どうして……?)」
「“第4章
スプリングの魔術によって、ブルートが倒れている場所の地面が次々熱水を吹き出し、彼を攻撃した!
「“第4式
倒れているブルートの腹にメイルの拳が打ち込まれる! しかし彼はその拳を受け止めていた。
「!!」
「邪魔者、死ネ」
ブルートはメイルの腕を左手で掴んだまま掲げ、大きな赤い刃を右手に形成し、彼女の首を見据えて振りかぶった!
「メイル!!」
「(ヤバい! メイルがやられる! あそこまで峰啼脚で行けるか!? いや、峰啼脚だときっと届かないし間に合わない! もっと速く、鋭く、そして攻撃を止めさせるくらいの連撃をブルートに……あれ……知って……る……? 使ったことは無い。でも、初めて“水彩蓮華”を発動出来た時と似た感覚だ。今なら出来る気がする。それしか……ない)うああああああああ!!!!!」
風よりも速く、キセキの身体は動いていた。ブルートの眼前に迫り、拳を振りかぶった。
「!?」
「(フレイド……技、借りるね)“熱血鉄拳・天晴”!!!!!」
ドドドドドドドドドッッッッッ!!!!! 高速の拳が幾度もブルートの顔面に叩き込まれる。そうすると顔を覆っていた赤い鎧にヒビが入り、それを皮切りに全身へと広がっていった。
「トドメだ!!! これはフレイドさんと紡いだ技!!! くらえ!!!」
キセキはヒビだらけになった鎧のブルートへ全力で拳を振りかぶる。
「縁啼拳ッッッッッ!!!!!」
ドッゴォォォォォォォォォン!!!!! ブルートは吹き飛び、岩壁へと埋まった。そしてバタリと地面に落ちて倒れた。
「や、った……ブルートを……フレイドさんの仇を……討っ……た……」
バタリ。同時にキセキも倒れた。
【物語あるある】恩師の仇を討つ
「キセキ!!!」
「パカラ……パカラ……」
「!!」
倒れたキセキにゆっくりと麒麟が近づいてきていた。
「な、何だ!? やるのか!? 受けて立つぞ!?」
「わ、ワタクシも戦いますわよ!?」
「戦う意志は無い。寧ろ感謝している。ありがとう」
「!? しゃ、喋った!?」
「ブルート……と言ったか。こやつは「蒼炎」の手先として人ならざる者の力を与えられていた。もしあのままこやつがここで暴れていたら、幻獣山は無くなっていただろう」
「!! そ、そんなにヤバかったんすか!?」
「“ベルトベフライエン”……こやつの使ったそれは禁術の一つだ。詳しいことは知らぬが、「魔王の欠片」と共鳴することで超人的な力を得ているように見えた。一刻も早く「蒼炎」の野望を止めなければ、世界全てが更地になってしまうだろう」
「そ、そんなことはさせない。でも「蒼炎」の野望って……?」
「わからない。だが「蒼炎」は国家転覆や魔王復活なんてものが可愛く見えるようなもっと凄惨なことをしでかそうとしている。それだけはわかる」
「国家転覆や魔王復活よりも……」
「我が友らにも貴殿達のことは伝えておこう。「蒼炎」を討つため、力になってくれるだろう。では、さらばだ」
「あ、ちょ! ちょっと待って!」
「……?」
「あ、あの……ほ、ほら、メイルが言いなよ」
「わ、ワタクシが!?」
「そ、そりゃあメイルのために来たみたいなとこあるし? こんなチャンス二度と無いっしょ?」
「そ、それはそうですが……き、麒麟様」
「何だ」
「あの……たてがみをくださいまし」
「……は?」
目を開けると、そこは保健室のベッドの上だった。ガバッと起き上がり、左右を確認する。
「(いてて……俺……気絶してたのか? メイルとスプリングは!?)は、ハイレン先生!」
キセキは目の前のデスクに座っていたハイレンに声をかけた。ハイレンはゆ〜っくりとこちらを振り返る。
「……え?」
「お前なぁ!! 言っただろ!! 保健室来すぎ!! 怪我しすぎって!! なのに性懲りも無くまた来やがって!! しかも毎度毎度怪我増やしてくるのはなんなんだ!? 次の次の次くらいにゃ死ぬぞ!? おい!! いい加減にしろ!!」
「あ〜、あの〜、えっと……あ、謝ることしか出来ません。ごめんなさい……そ、そんなことよりも、メイルとスプリングさんは!?」
「そんなことってお前……メイルとスプリング? ああ、あの二人ならそこまで重症ってわけじゃなかったから手当してすぐに帰したよ。何でも「フラッシュダッシュ」を作ってもらいに行くとか何とかで……」
「キセキ!!!!!」
ハイレンの話を遮るように、キセキの名を叫んだのはスプリングだった。
「スプリングさん!」
「やっと起きたか! この寝坊助! もう起きないかと心配したじゃん!」
「あはは……そんなに寝てました?」
「うん。しょーみ二日くらい」
「ああ、二日か……え!?!?」
キセキが時計を見ると、そこにはTuesday(火曜日)と書かれていた。
「はえ……ま、マジ……?(俺の学生生活の二日間がまたパァに……)」
「そんなことより! コレ! 見てよ!」
「そんなことってスプリングさん……こ、これは……もしかして!?」
「そう! 「フラッシュダッシュ」が完成したの! 超ヤバくない!?」
スプリングの手には柄から先端まで白銀の毛によって覆われたキラキラと光る箒が握られていた。彼女に手渡され受け取ったキセキは、その見た目の重厚感とは裏腹に、とても軽いことに驚いた。
「俺が気絶した後、無事手に入れてくれたんですね。「麒麟のたてがみ」。……ん?」
キセキは箒の先端に紙が結び付けられていることに気づいた。
「……? 何だ? この紙」
「ああ、多分ブルーマからだよ」
「えっと……「代金はツケといてあげる! その代わりまた遊びに来てね(キスマーク)」……複雑な気持ちだ」
「……うん、あーしも」
「いやいや、ツケといてくれたことに感謝しなきゃだね! お礼言いに行かなきゃ!」
「今すぐじゃなくていいっしょ?」
「貴方は本当に優しいですわね♡」
メイルが保健室の扉の所に立っていた。
「メイル! 傷はもう大丈夫なの?」
「貴方ほどではありませんわ♡ もう全快して「シングルブルーム」の予選にも出場してきましたわ♡」
「予選!? 今日だったの!?」
「ええ、もちろん首位で突破しましたの♡」
「凄い! おめでとう! それで本戦は?」
「本戦は「トライワンズ」初日の明日ですわ♡」
「へぇ〜、そうなのか〜。明日が「トライワンズ」初日……待って。もしかして「ツインワンズ」も……?」
「「ツインワンズ」は明後日が本戦だよ」
「本……戦……ってことは予選は……?」
「今日、だった、ね」
「終わったあああああああああ!!!!!!」
「えっ!? なになに!? もしかしてキセキ「ツインワンズ」出場するつもりだったの!?」
「えっと……まぁ、色々事情がありまして……」
「アハッ、ウケるんだけど! えっ、てか普通にそれヤバくない? どうすんの?」
「ど、どうしましょうか……?」
キセキがハイレンの方を見る。
「な、何でオレの方を見るんだよ! 全然知らねぇよ「トライワンズ」のことなんか!」
「でも先生ココ長くなかったっけ?」
スプリングがハイレンに聞く。
「そうなんですの?」
「そうなんですか? 先生」
「長くいる先生が毎年行われる「トライワンズ」のことを一切知らないってのはちょっとおかしな話じゃね?」
「ってことは先生もしかして……」
「もしかしますわね♡」
「ああっ! もうっ! そうだよ! 「トライワンズ」運営委員会の会長だよ! クソがっ!」
「会長!? すげぇ……」
「じゃあ先生があーだこーだしたら怪我で伏せってた生徒の一人や二人無理矢理ねじ込めたり……?」
「出来るんですか!? 先生!」
キセキがウルウルした目でハイレンを見つめる。
「うぅ……で……出来ない……ことも、ない……かも?」
「先生! お願いします! 大切な人がかかってるんです! どうにかねじ込んでください!」
「どういう状況だよ!!! ……はぁ、しゃーねぇなぁ。「ツインワンズ」担当の奴に掛け合ってやるよ」
「やったぁ!!!」
「たーだーし! 条件がある!」
「「トライワンズ」中怪我するな……か。これから「ツインワンズ」出ようって生徒にそれは無理難題じゃないか?」
「一方的に勝ち進めばいいのですわ♡」
「そんな上手くいくかねぇ……」
保健室を後にしたキセキはサラマンダル寮、メイルはウンディネル寮を共に目指して歩いていた。スプリングはこれからまた会議だと急いで去っていった。
「それよりも、貴方に話しておかなければならないことがありますわ♡」
「え、何?」
「……えっと……」
「……?」
「ワタクシ、もっと友達に頼ろうと決めましたの♡」
「おお、いいじゃん!」
「貴方と話して、自分は周りに流されてきただけではなく、自分で選択してきたこともあるのだと気づけましたわ♡ それで、ワタクシはすっごく勇気を貰えて……そのおかげで「シングルブルーム」の予選を勝ち上がれたと言っても過言ではありませんわ♡ だから……その……」
「うん」
「ありがとう、キセキ。ワタクシと友達になってくださらない?」
「あははっ、俺はもう友達のつもりだったんだけどね」
「……! お、オホホホホホホ! も、もちろんワタクシもそのつもりでしたわ!」
「それは良かった。こちらこそありがとうねメイル。これからもよろしく!」
「ええ♡ よろしくして差し上げますわ♡」
「あははっ!」
キセキとメイルはとても和やかに会話を終え、それぞれの寮へと向かうのだった。
【物語あるある・再掲】共闘して仲が深まる
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます