《第5章:トライワンズ》『第4節:恋敵』

「キセキは何が食べたい? お肉? お魚? それともお野菜?」

「う〜ん、そうだなぁ……」

 アキュアがキセキに食べたいモノを尋ねた。二人はフロントハイトの中でも飲食店が多く建ち並ぶ街道を歩いていた。左右に様々な様式の店があり、キセキはそれを眺めながら迷っていた。

「(どうせなら過去に無かったモノを食べたいよな……この時代特有の食べ物ってなんだろ? ……お!)アレって何?」

 キセキは少し先に見える一つの店を指さした。

「アレは魔物料理専門店だね! キセキ、あまり魔物料理食べたことない?」

「食べたことない! 食べてみたい!」

「じゃああそこにしよう!」

 キセキとアキュアは独特の匂いで満たされた店内へと足を踏み入れた。


【物語あるある】魔物を使った料理


「ばくばくばくはぐっもぐもぐもぐもぐ」

 山積みになった皿。次々と運ばれる料理。その真ん中に座ってどんどん平らげていく、腰に短剣を提げた銀髪ツーブロックの背の小さい少年。周りの客もその勢いに圧倒されている様子だった。

「(何だアレ……めちゃくちゃ食ってる……)」


【物語あるある】めちゃくちゃ食うキャラ


「いらっしゃいませ〜! 二名様ですか〜?」

「はい、そうです」

「ではこちらへどうぞ〜」

 店員に案内され席へと着くキセキとアキュア。

「こちらお水です〜。ご注文はうさぎですか〜?」

「え?」

「ん?」

「へ?」

 キセキ、アキュア、店員三人の時間が一瞬止まる。

「ああ、すみません〜。当店名物が「角うさぎの丸焼き」でして、皆さんご注文なされるので〜」

「あ、なるほど……(過去にそういうタイトルの作品あったからビックリした)」

「ご注文決まり次第またお伺いします〜」

 そう言うと店員は厨房の方へ去っていった。

「「角うさぎの丸焼き」だって、キセキ。名物ってことは美味しいのかな」

「ね、どんな味するんだろ?」

 キセキは正直「角うさぎの丸焼き」よりも気になっているものがあった。今なお手を止めず料理を口に運んでいる少年である。

「(銀髪……ってことは重要キャラだよな? 俺から話しかけといた方がいいのかな? それとも勝手に何かしらイベントが起きるか? 今は食うのに夢中そうだけど……)」

「何だ? 俺に何か用がある感じか?」

「!!」

 銀髪の少年はこちらを見るでも無く食べながらキセキに話しかけた。背を向けられていたためキセキは誰に話しているのか分からなかった。

「(……ん? 俺に話しかけているのか?)」

「そうだよ。お前だよ」

「(!? 心が読めるのか!?)」

「心が読めるわけじゃない。俺はパッシブ「過敏触覚」で何となく相手の考えてることがわかるんだ。空気の揺らぎとか風の流れとかで少なくとも自身の魔力域内に居るやつの言動は大体把握できてる。……って感じだけど、何か用か? パラスと少年」

「!!」

「(アキュアがパラスってことまで……)用があるってわけじゃないんだ。ただそれだけ食べられるのが凄いなって思っただけで」

「……」

 ガタッ! 少年は突然立ち上がりスタスタとキセキの方へ近づいてきた!

「な、なになに……!?」

「……嘘は良くない感じだな」

「!?」

「言ったろ? 何となくだけど考えてることわかるって。お前は何か読み取りづらい感じだけど、少なくとも俺の髪の毛に注目してたのはわかる。何故髪の毛を見てた? そして何故嘘をついた? この二つは何か関係してるのか?」

「(こいつはとんでもない奴が現れたぞ……?)え、えっと……それは……」

「そんなに質問攻めにされたら答えられるものも答えられないよ、君」

 戸惑うキセキをアキュアが庇った。

「はぁ……今話があるのはパラスじゃなズッキューーーン!!!!!」

 少年がアキュアを見て固まった。

「!?」

「(な、何だ!? いや、物語あるあるだとこの展開は……)」


【物語あるある】一目惚れ


「……お前、名前は?」

「……私? アキュア・オーシャンですけど……」

「そうか、アキたんか」

「アキ……たん!?(たん付け!?)」

「アキたん、俺の嫁になれ!!!」

「え!?」

「……はぁ!?(何言ってんだこいつ!!)」


【物語あるある】初対面で求婚


 少年は両手でアキュアの手を掴む。

「とんでもなく綺麗な空気を感じ取っていたが、顔までこんなに綺麗だとは! それでいてアキたんパラスだよね!? 俺もパラスなんだ! お似合いだろ!? 一生大切にする! だから結婚してくれ!!!」

「あ……えっと……」

 アキュアは顔を真っ赤にしてグルグルと混乱していた。

「ちょ、ちょっと待って! パラス!? パラスってどこの!? ってか君誰!?」

 キセキが少年に最もな疑問をぶつける。

「俺はヴィゴーレのパラス「たかどの」の一人「剣楼けんろう」のグラディオ・エスパーダだ!」

「(ヴィゴーレのパラス「楼」だって……!?)そんな人がどうしてここに!?」

「「トライワンズ」の件でヴァイスハイトに用があってね。それまで腹が減ったからここで腹ごしらえしてたって感じだ。……で、アキたん、返事は?」

「い、いや、アキュアは……」

「お前に聞いてない。俺はアキたんと話しているんだ」

「!!」

「……そう言ってくれるのはありがとう。でもごめんなさい。それは出来ません」

「(……ホッ)」

 アキュアが断るであろうことは分かっていたが、キセキは彼女の言葉に安心した。

「何で!? どうして!?」

「だって私、グラディオくんのこと全然知らないから」

「!!」

「(そりゃそうだよな)」

「それはこれから知っていけばいいよ! 大した問題じゃない!」

「それだけじゃない。私、好きな人が居るの。世界で一番大切で、素敵で、大好きな人が」

「……!(アキュア……)」

「……なるほどね。そういう感じか」

 グラディオがキセキとアキュアを交互に見て何かを悟ったように言った。

「……キセキ、だっけ?」

「あっ、はい……」

 アキュアから手を離したグラディオはキセキを真っ直ぐ見据える。

「「ツインワンズ」には出場するか?」

「つ、「ツインワンズ」? 「トライワンズ」じゃなくて……?」

「「ツインワンズ」は「トライワンズ」の種目の一つで、一対一の決闘のことだよ」

 キセキの疑問にアキュアが答えた。

「そうなんだ! い、今のとこ出場する予定は無いですけど……」

「じゃあエントリーしろ。そしてそこで決着をつけよう。どっちがアキたんに相応しい男か」

「!?」

「そ、そんなことする必要無いと思います!」

「アキたん、これは男と男の勝負だ。やるかやらないかはキセキ次第……どうだ?」

「……やります。受けて立ちましょう」

「キセキ!?」


【物語あるある】恋敵との決闘


「フッ、今度は嘘じゃないな。良い感じだ。キセキと戦えるの楽しみにしてるよ。じゃあ、それまで負けるんじゃないぞ」

 そう言ってグラディオは店員に向かって手を挙げた。

「お会計で。釣りは要らねぇ」

 そうして去ろうとしたグラディオを店員が止めた。

「あの〜、足りないんですけど〜?」

「!?」

「(……)」

 グラディオはキッチリ代金を支払ってから店を後にした。

「(……ちょっと可愛いな、グラディオ。アキュアに良いとこ見せたかったんだろうなぁ)」

「キセキ!!!」

 アキュアが大声でキセキの名を呼んだ。

「分かってるの!? あの人パラスだよ!? “魔術”を見なくても分かる! きっとめちゃくちゃ強いよ!? しかも二年生でパラスだなんて……」

「二年生? 何で分かるの?」

「制服の肩の部分にラインが入ってたでしょ? ヴィゴーレはその線の数で学年が分かるの。彼は二本だったから二年生ってこと」

「(確かに軍服みたいな制服着てたな。肩のラインはそういう意味だったのか)二年生でパラスって凄いね」

「凄いねって……そんな人と戦うんだよ!? 大丈夫!?」

「う〜ん、だいじょばないかも……」

「!? じゃあどうして……」

「でもそれが勝負から逃げる理由にはならないよ」

「……!」

「グラディオには悪いけど、アキュアのことは俺の方がよく知ってる。アキュアの得意な“魔術”も、将来の夢も、可愛いところも……好きな人も」

「!! ……キセキ……」

「どれだけ不利でも、どれだけ相手が強くても、どれだけ勝算が無くても、関係ない。この勝負は受けなくちゃいけないんだ。一人の男として」

「……」

「その上で俺は必ず勝つ」

「!?」

「アキュアを引き合いに出されて負けるわけにはいかない。アキュアを大切に想う気持ちは誰にも負けないから。これは一人の男としてじゃなく……キセキ・ダブルアールとして」

「……嬉しい。ありがとうキセキ。そうだよね。キセキはそういう人だった。……「ツインワンズ」、応援してるね」

「あの〜」

 非常にいい雰囲気の二人の間に、店員が割って入った。

「ご注文は〜?」

「あ、すみません。えっと……」

 キセキとアキュアは互いに気になるものを注文し、あっという間に平らげた。お金を払って店から出ると、アキュアが嬉しそうに話す。

「美味しかった〜! ありがとう。奢ってくれて! 私の方がお金あるから良かったのに」

「いいんだよ。今日色々案内してもらったし、そのお礼!」

「優しいなぁ。キセキは」

 そう言うとアキュアはキセキと手を繋いだ。

「!? アキュア!?」

「えへへ、今日はこうして帰ろ? こうして帰りたい」

「も、もちろん!(可愛すぎてドキドキするぅ〜!!!)」

「今日だけでキセキの良いところいっぱい見れたし、一緒にフロントハイトに来れて良かった。ありがとうね、キセキ」

「いや、こちらこそ! 誘ってくれてありがとう! めちゃくちゃ楽しかった!」

 キセキとアキュアはヴァイスハイトに着くまでずっと手を繋いで話しながら帰った。二人は幼い頃そうして帰った記憶を少し思い出しながら、ゆっくりゆっくり歩くのだった。


【物語あるある・再掲】新たな波乱の予感

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