《第5章:トライワンズ》『第3節:閃光の箒』

 フロントハイトに多くの人が行き交う中、キセキとアキュアの姿はある箒屋の前にあった。ケインズの店とは打って変わり、広い街道に面して建つそれは、壁が様々な色のペンキで彩られており、とても目を引く外観をしていた。

「(さっきは暗すぎて心配になったけど、派手すぎたらそれはそれで心配になるな。大丈夫か?)」

「ここがブルーマさんのお店! 箒と言えばココだね!」

「また邪険にされたりしないかな……?」

「だ、大丈夫! ブルーマさんはとってもフレンドリーだから! さっ、入ろ!」

 アキュアに手を引かれキセキは店内へと足を踏み入れた。

「どうして無いんですの!? もうここで六軒目ですわよ!?」

「!!」

「だからお嬢ちゃん、「フラッシュダッシュ」の材料になる「麒麟のたてがみ」がどこも入荷出来なくて生産自体してないのよぉ。悪いわねぇ」

 赤、青、黄、緑、紫、橙といったカラフルな髪色をした人物に、銀髪を縦ロールにした少女が詰め寄っていた。


【物語あるある】出先でメインキャラと出会う


「(あの子は入学式のときのメイルお嬢様……だったか? 執事みたいな連れはどうしたんだろう? いや、それよりも……)」

 キセキは目線をもう一人に移す。

「(お姉さんじゃなくてオネエさんじゃねぇか!)」

 彼女……いや、彼は明らかにニューハーフであろうと分かる見た目をしていた。


【物語あるある・再掲】オカマキャラがいる


「あら、アキュアちゃん! 久しぶりねぇ」

「お久しぶりです! ブルーマさん!」

 ブルーマがこちらに気づき手を振った。

「そちらの彼は?」

「あ、どうも、キセキ・ダブルアールといいます」

「……! ああ、キミが!」

 ブルーマはキセキを見て目を輝かせた。

「アキュアちゃんから色々聞いてるわよぉ〜。話してた通りのイケメンね!」

「アキュアが俺のことイケメンと!?」

「言ってたわよぉ〜。その上自分の考えを尊重してくれる優しいところとか、黒魔道師から護ってくれたかっこいいところとか、だーーーいす」

「ブルーマさん! それ以上は!」

 アキュアが顔を真っ赤にして慌ててブルーマを止めた。

「あら、話しちゃダメだったぁ? 照れちゃってか〜わいい!」

 アキュアが真っ赤になった顔を手で隠す。

「(照れてるアキュアマジで可愛いな)そういえば何の話してたんですか? メイル……だよね?」

 蚊帳の外で呆然としていた銀髪の少女にキセキが声をかけた。メイルはハッと我に返る。

「あらあら、誰かと思えば入学式で恐れ多くもワタクシに話しかけてきた殿方ですわ♡」

「(話しかけてきたのはメイルからだった気がするけど……)」

「二人とも知り合いかしらぁ?」

「ええ、まぁ……(知り合いではあるよな)」

 キセキとメイルの様子を見たブルーマの問いにキセキは少し濁して答えた。

「なら良かったわぁ! この子説得してくれない? 「フラッシュダッシュ」は無いって言ってるのに聞かないのよぉ」

「そこを何とかなりませんの!? ココで無ければもう他に宛が……」

「アキュア、「フラッシュダッシュ」って……?」

 キセキがコソッとアキュアに聞く。

「「フラッシュダッシュ」は「閃光の箒」とも呼ばれる世界でも数本しかない最速の箒のことだよ。素材もそうなんだけど作ること自体かなりの技術を要するから、簡単には生産できないらしいの」

「へぇ〜、そんな箒が……」

「「麒麟のたてがみ」が無い限りワタシの技術を持ってしてもどうしようもないわぁ。ごめんなさいねぇ」

「そんな……」

「「麒麟のたてがみ」があればどうにかなるんですか?」

 申し訳なさそうなブルーマと落胆するメイルを見てキセキが聞いた。

「そ、それはぁ……まぁ、そうねぇ。「麒麟のたてがみ」さえあれば作れないことは無いわぁ」

「なるほど……メイルはどうしてそんなに「フラッシュダッシュ」が欲しいの?」

「……あ、貴方には関係ありませんわ♡」

「関係あるよ。同じヴァイスハイトの同級生じゃん。それにそこまで必死になるのには何か理由があるんじゃないの?」

「……」

 メイルは少し迷う素振りを見せてから、決意したようにポツリポツリと話し始めた。

「「トライワンズ」が来週開催になったのはもうご存知?」

「ああ、うん」

「その種目の一つ、「シングルブルーム」は代々クラドイン家が出場すれば必ず首位を獲得してきましたの。ワタクシもその期待に応えなければなりませんわ」

「メイルちゃんクラドイン家なの!?」

 アキュアが驚いて聞いた。

「待って、俺「シングルブルーム」辺りからついていけてない。どゆこと?」

「「シングルブルーム」は簡単に言うと箒レースだよ。箒に乗って競走して誰が一番速いかを競うの」

「ほうほう」

「そしてクラドイン家は五大貴族の一つ……って言えば伝わるかな?」

「五大貴族……! ヴィゴーレとかそういう?」

「そうそう!」

「(だからお嬢様なのか。色々繋がった)つまりメイルはクラドイン家の言わばしきたりとして「シングルブルーム」で優勝したくて、そのために「フラッシュダッシュ」が必要だと?」

「そうなりますわ♡」

「そしてその「フラッシュダッシュ」製作には「麒麟のたてがみ」が欠かせないと……じゃあ取りに行こうよ。「麒麟のたてがみ」」

「!?」

「ヤダ、本気ぃ!? 麒麟はカテゴリー:フェニックスの魔物よ!? 素人がどうにか出来る相手じゃ無いわ!」

 ブルーマはキセキの提案に驚愕した。

「(カテゴリー……つまり危険度は魔物や黒魔導師に対して付けられるものだったな。分け方はクラスと同じだから、カテゴリー:フェニックスは上から二番目の危険度ってこと……上から二番目!?)えっ、そんなに危ないんですか?」

「知らなくて言ってたのぉ!?」

「でも「麒麟のたてがみ」が無いとどうしようも無いんですよね?」

「そ、そうだけどぉ……」

「じゃあ俺、取ってくるよ」

「そんな薬草取りに行くみたいなノリでぇ……」

「お、お待ちになって! どうして貴方がそこまでする必要があるんですの? これはワタクシの問題ですわ!」

「目の前で困ってる人が居るのに放っとけないよ。しかも相手はカテゴリー:フェニックスでしょ? 一人でどうにかできる問題じゃない」

「!!……どうして……どうして貴方はそうやって見ず知らずの人をいつも……」

「力は人を護るためにあるからだよ」

「……!」

「俺の恩師が言ってたんだ。「護るために力を磨き、より強くなる。そうして護られた者が力をつけ、また人を護る存在になる。護るべきものの無い力は、その身も周りも滅ぼす危険な力だ」って。俺は彼に護ってもらった。だから俺はたとえ弱くても人を護るためにこの力を使いたい。そうすることできっと巡り巡ってメイル以外を救けることにも繋がっているんだ。そう信じてる」

「よく言ったキセキ!!!」

 突然水色の髪に赤色のインナーカラーを入れた女性が肩を組んできた。

「えっ!? 誰!? ……って、あ!」

「スプリングさん!?」

 そう、彼女は十二衛弟の一人、泉弟「スプリング・バッセン」。

「(シリウスに居た見るからにギャルっぽい人だ……どうしてここに?)」

「恩師ってのはフレイドさんのことか?」

 戸惑うキセキに構わずスプリングは尋ねた。

「あっ、はい。そうですけど……」

「くぅ〜! やっぱイイコト言うねぇ! フレイドさんは! あーしが惚れただけのことはある!」

 キセキ達は完全に呆気に取られていた。

「その上でキセキ! あんたの気概にもビビッと来たよ! マジで感動した! 超ヤバい! そうだよそうだよ。魔法も“魔術”も人を護るためにあるんだよ! 最近はその辺勘違いしてる輩が多い!」

「あ、ははは、ありがとう……ございます?」

「ってことであーしも手伝うよ! 麒麟狩り!」

「どういうことで!?」

「あんたの漢気を見込んでってことだよ! どっちにしろあんた一人で狩れる相手じゃないっしょ? 自分で言ってたじゃん」

「そうですけど……(十二衛弟が来てくれるのはかなり心強いぞ……?)」

「わ、ワタクシも行きますわ!」

 メイルが手を挙げていた。

「ワタクシの箒のために行くのに、ワタクシが行かないわけにはいきませんわ!」

「おっ、いいねぇ。一緒に行こうかメイル!」

「じゃ、じゃあ私も!」

「あんたはダメだ、アキュア」

「ええ〜!! 何でですか!?」

 立候補したアキュアをスプリングが一蹴した。

「相手は風と雷を操る魔物だぞ? 相性は?」

「水属性は風属性に弱い……あ」

 スプリングの問いに答えたキセキをアキュアがジトーッとした目で見つめる。

「で、でも俺はアキュアが居てくれた方が安心するな〜」

「ダメだ。上級生としてみすみす怪我させに行かせるわけにいかない」

「わ、私そんなに弱くないです!」

「そういう問題じゃなくて……ってか、あんた課題は?」

「ドキッ」

 アキュアはわかりやすく反応した。

「終わってないよな? ただでさえ「トライワンズ」が来週になったせいで十二衛弟はやること盛り沢山なのに、麒麟狩りしてる暇あんの?」

「そ、それはスプリングさんも同じでは……?」

「あーしは今朝全部終わらせたね」

「ええ〜!! ズルいです!!」

「(ズルくはないでしょ、可愛いな)えっ、アキュア課題とかやること盛り沢山なのに今日誘ってくれたの? 何かちょっと申し訳ない……」

「いやいや! 私がキセキとフロントハイトに来たかっただけだから! 気にしないで! 明日気合いで全部終わらせるし!」

「(それは大丈夫なのか……?)」

「それじゃあメンバーはあーしとキセキとメイルの三人で! 明日八時に正門前集合ね! ブルーマ! クエスト発行しといてよ! そしたら色々やりやすいし!」

「それはいいけど、本当に大丈夫ぅ? 「白魔導師隊」でも手を焼く相手よぉ?」

「大丈夫大丈夫! あーしの実力ナメないで! じゃあまた明日!」

 そう言うとスプリングは去っていった。

「(嵐のような人だったな……)」

「そういえばアキュアちゃん達は今日何の用事で来たのぉ?」

「そうだ! 彼の箒を買いに来たんです!」

「あらそうなの。好きに見てっていいわよぉ」

「あ、そのことなんですけど……「麒麟のたてがみ」取ってきたら、俺の分まで「フラッシュダッシュ」作ってもらうことって出来ますかね?」

「キセキ、「フラッシュダッシュ」がいいの?」

「何か話してたら俺も「閃光の箒」ってのが気になっちゃって……」

「ウフフ、良いわよぉ! 腕によりをかけて作っちゃう!」

「ありがとうございます!」

「あらあら、ワタクシと同じ箒が欲しいだなんて、少しおこがましいんではなくて?」

 メイルがキセキに言った。

「いやぁ、仰る通りで……でもメイルが居なければ存在さえ知らなかったよ! ありがとう!」

「……お、お礼を言うのは「麒麟のたてがみ」を無事手に入れてからですわ♡ では失礼♡」

 メイルはスカートの裾を上げてお辞儀をしてから店を出ていった。

「じゃあ私たちも行こっか! お昼にしよー!」

「賛成! ブルーマさん、「フラッシュダッシュ」の件、よろしくお願いします!」

「ハァイ。くれぐれも気をつけるのよぉ」

 キセキはアキュアの提案に賛同してブルーマの店を後にした。


【物語あるある】新たな波乱の予感

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