《第5章:トライワンズ》『第1節:集結』

 円卓に向かい合わせで均等に並ぶ四脚の椅子。机の上には何らかの資料が山積みになっている。それ以外は何も無い殺風景な部屋に入ってくる、刺々しく逆立った銀髪をした古傷だらけの男。

「おいおい、今回も欠席かァ? ディオーグの坊っちゃんはよォ」

 そう話す彼の名はバルカン・アーセナル。ヴィゴーレ魔法魔術学園の理事長。

「彼は忙しいのです。神に選ばれし者として使命を果たすため日夜励んでいるのです」

 バルカンの後ろから入ってきたシスターのような衣装を着た女性がそう語った。青紫色の髪をしており、目が細く常に閉じているように見える。彼女の名はミィコ・プライア。ヴェネレイト魔法魔術学院の理事長。二人は席についた。

「オレもそれなりに忙しい中時間割いて来てやってんだけどなァ。そうやっていつまでもディオーグを特別扱いしてるから来ないんじゃねェ?」

「特別扱いではないのです。彼は彼の使命と責務があり、それは神より与えられし試練でもあるのです。そのために「卿合会議」を欠席するのなら、致し方のないことなのです」


【物語あるある】会議に欠席者がいる


「そういう考え方を特別扱いって言うんだよォ。ディオーグは神の遣いでも何でもねェ。ただの魔術「狂」だァ。その辺本人は分かってんのかねェ」

「そう言って本音はただディオーグに会いたいだけなのだろう?」

 バルカンとミィコが揃って声のした部屋の入口を見ると、全身白ずくめのとんがり帽子にローブを着た少女が立っていた。肌の色まで真っ白で、血が通っていることを感じさせない独特の雰囲気があった。

「……こりゃあ一番意外なヤツがおいでなすったァ」

「ヴゥアツァ。貴方が来るなんて珍しいのです」

「気になる議題があってね。少しだけお邪魔するよ」

 ヴゥアツァと呼ばれた少女はそう言いながら席についた。


【物語あるある】普段来ない人物の参加


「気になる議題ィ? 「郊外の魔術卿」ともあろうお方がわざわざ出向いてまで聞きたい話題って何だよォ?」

「「蒼炎」だ」

「!!」

「「ランタン」……とも言ったか。ヤツの動きはワレとしても看過出来なくてね。何せたった一夜で国が厳重に保管していた「魔王の欠片」を全て奪い去り、それを手下に移植して使っていると言うのだからね。コレは面白くない」

「蒼炎の目的は何なのでしょう。少なくとも神に反した行いであることは間違いないのですが……」

「国家転覆……魔王復活……考えられる可能性はいくらでもあるがァ、鍵を握っているのはよォ……」

「ボクの学校、ヴァイスハイトですね」

「!!」

 いつの間にか残っていた最後の席にディオーグが座っていた。

「何だよォ! 明日隕石でも落ちんのかァ? パラディンが四人揃うのなんていつぶりだよォ!」

「久しいね。ディオーグ」

「お久しぶりです。ヴゥアツァさん」

「ディオーグ。貴方が来たのも気になる議題があったからなのですか?」

「まさに今話していたことです。蒼炎は明らかにヴァイスハイトの生徒を狙って行動している。つい昨日パラスの一人が「魔王の心臓」を移植された者に殺されました」

「知ってるぜェ。ヴィゴーレでもとんだ騒ぎだったァ」

「亡くなった彼は、「到達者」だったと思います」

「!!」

「……証拠は?」

「死の間際、知らない“終章”を使っていたとの証言が」

「そりゃあ「三賢者」もお怒りだろうなァ! 何せ今年は「あの年」だしなァ。「到達者」は一人でも多いに越したことはねェ」

「……これ以上の被害を減らすためにも、皆様のお力をお借りしたい」

「もちろん力になりますが、具体的にどうするのですか?」

「「トライワンズ」の早期開催を願い出たい」

「!!」

「……なるほど。蒼炎に対して三大学舎の協力関係と力を示すということか。そういうことならワレは関係ないね」

「いえ、ヴゥアツァさんには個人的に別件の相談があります」

「ほう? 後で聞こうか」

「っにしても早期開催っていつやるんだよォ?」

「来週です」

「来週ゥ!?」

「早ければ早いほどありがたい。出来ませんか?」

「ハッ、言うようになったじゃねぇかァ。そういうのは出来る出来ないじゃねェ、ヤるんだよォ」

「問題ないのです。調整しましょう」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 久方ぶりに四人の魔術卿が集った「卿合会議」は深夜まで続いたのだった。


「(ほっとんど寝れなかった……!)」

 ギンギンの眼でキセキはベッドから起きる。隣ではアキュアがまだスヤスヤと眠っている。

「(……起こすのも悪いし、ちょっとヴァイスハイトを散歩でもしてくるか)」

 キセキはアキュアの部屋から出て、ボーッとヴァイスハイトの廊下を歩き回った。

「(今日でヴァイスハイトに来て5日目。ようやく週末だ。過去と同じで現在でも土日休みってのが普通で助かった。ちょっと今は新しく授業受けようとかいう気分にはなれなかったからな。アキュアとデートしてリフレッシュして、来週からまた授業いっぱい受けて頑張ろう。変幻魔力域は強力だけどまだ伸び代がありそうだし、“水彩蓮華”を発動出来た新たな謎の力も気になる。俺はチート能力を授かってないはずだけど、アーサーはあんまり信用ならねぇからなぁ……そこんとこどうなんだろ。チート能力っていうにはあんまりパッとしないけど……ん?)」

 キセキが頭を整理しながら歩いていると、虹の噴水がある中庭へと出た。そこではピンク髪の少女が白猫を連れて散歩していた。

「ヘルデ!」

「……!? キセキくん!?」

「ニャッ!?」

 それはヘルデとアンジュだった。声をかけたキセキに一人と一匹が駆け寄ってくる。

「キセキくん帰ってきてたの!?」

「昨日の夜更けに帰ってきたんだ。心配かけてごめん」

「そうなのね……無事だったのなら安心したわ。何してたの?」

「ああ〜、まぁ、誰にでも不意に外へ飛び出したくなる時期はあるから……」

 キセキはエクスプロードの言葉をそのまま借りた。

「……なるほど?」

「ニャ?」

 ヘルデとアンジュは分かったようで分かってない顔をした。

「と、とにかく! もう二度とこんなことはしないから!」

「それなら良かったわ」

「ヘルデとアンジュはここで何してたの?」

「毎朝の日課の散歩よ。私もう結構ヴァイスハイトに詳しくなった自信があるわ!」

「へぇ〜、いいね(そういや「秘密の部屋」見つけた時もヘルデは散歩してたんだったな)。何かお気に入りの場所とか見つけた?」

「私とアンジュのお気に入りは断然屋上ね! 夜風がとても心地よいのよ」

「そうなんだ! 屋上はまだ行ったことないや」

「是非行ってみて! ヴァイスハイトの周りを一望出来て素敵な場所よ。……あともう一つ、気になる場所があるんだけど……」

「気になる場所?」

「昨日も朝いつものように散歩してたらね、チュチュ先輩って人に会ったんだけど……」

「チュチュ先輩? 俺とユージーンも知り合いだよ」

「そうなの!? あの人とってもヴァイスハイトに詳しいのね! 色々教えてもらったんだけど、今一番気になっているのは「秘密の部屋」のことで……」

「「秘密の部屋」? それなら……あ、いや、何でもない(フレイドに他言無用って言われていたんだった。っていうかあのチュチュ先輩が簡単に情報を与えたのか……何でだ?)」

「……? その「秘密の部屋」は二つあるらしくて、一つは十二衛弟が関与していて、もう一つはディオーグ先生が関わっているみたいなの」

「!? 二つ!? ディオーグ先生が!?」

「それ以上は教えてもらえなかったんだけど、そんなこと言われたら気になるじゃない? ……そうだわ! 今度ユージーンくんとルミナスちゃんと四人で「秘密の部屋」探してみない?」

「いいね! 俺も気になる!(十二衛弟が関与してるってのは「シリウス」だろうけど、ディオーグが関わっているってのは何だろう)」

「キセキさん!?」

 キセキとヘルデが声のした方を見ると、そこには驚いた顔でユージーンが立っていた。

「ユージーン!」

「き、キセキさん、いつの間に帰ってたんですか!?」

「昨日の夜帰ってきたんだ。心配かけてごめんね」

 キセキはヘルデと同じやり取りをユージーンともした。

「無事なら良かったです! キセキさんが消えて部屋まで燃え始めたときはどうなることかと思いましたが」

「もしかしてエクスプロード先生に燃えてること伝えてくれたのってユージーン?」

「はい! 偶然近くに居て良かったです!」

「そうだったのか! 助かったよ、ありがとう」

「いえいえ!」

「……ユージーンくん、何持ってるの?」

 ヘルデはユージーンが手に持ってる紙を指さした。

「あ、そうそう! これを皆さんに伝えなきゃいけないと思いまして! 新聞部が号外を校内で配っていたんです。見てください!」

「……なになに。「「トライワンズ」の早期開催が決定。開催はなんと来週!」」

「「トライワンズ」が来週に!?」

「そうなんですよ! これはとんでもないことです!」

「ごめん、例によって「トライワンズ」が何か分からない。何それ?」

 興奮するユージーンとヘルデに、キセキが質問した。ユージーンが答える。

「三大学舎対抗交流大会、通称「三本の杖」、またの名を「トライワンズ」です! 年に一度夏にヴァイスハイトとヴィゴーレ、ヴェネレイトの交流会が行われるんですが、それが何と予定を早めて来週開催になったんです! これは今までに無い異常事態ですよ!」

「そんなに凄いことなんだ?」

 まだピンと来てないキセキにヘルデが説明する。

「毎年全国から何万人という観客が集まるほど注目されてて、「トライワンズ」を目指して魔法や“魔術”の腕を磨いている生徒も少なくないの」

「それは凄いな!(過去で言うオリンピックみたいなものか)でもそういうことなら早期開催を不満に思う人も居そうだけど」

「そうなんですよね。「トライワンズ」のことを取り決めているのは各学舎の理事長なので、何かのっぴきならない理由があるのでしょうけど……」

「何はともあれ楽しみだな!」

「そうね!」

「そうですね!」

 三人は「トライワンズ」への期待を膨らませるのだった。


【物語あるある】他校との交流会

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