《第4章:夜衝》『第6節:告白』
「キセキ、入ってもいい?」
「ど、どうぞ!」
アキュアがバスタオル一枚だけ纏った姿で入ってくる。そこは彼女の部屋の浴室だった。
「あははっそんなに緊張しなくても! 昔よく一緒に入ってたでしょ?」
「(昔ってそれ何年前の話……!? ってか何でこうなったんだっけ……!?)」
キセキはパンクしそうな頭で必死に思い出す。
保健室を後にしたキセキとアキュアは、事の次第をディオーグに報告するため、理事長室を目指していた。アキュアがポツリと話す。
「イグナイトさん……大丈夫かな。早く良くなって目が覚めるといいけど……」
「そうだね……フレイドさんとイグナイトさんをあんなにしたランタン……許せない」
「ランタン……何者なんだろう。どうしてヴァイスハイトの生徒を……それもキセキを狙ってるって……」
「イグナイトさん、そう言ってたね(俺が主人公だから……では納得いかないよな。今のところ俺が狙われる要素って何だ? 何か俺が特別な力を持っていてそれがランタンにバレた……?)」
【物語あるある】主人公が敵組織に狙われる
「……キセキ、もう勝手に居なくなっちゃヤだよ?」
アキュアがキセキのローブの裾を掴んで言った。
「……! (可愛い)だ、大丈夫! もう絶対勝手に居なくなったりしない! 約束する!」
「……うん。信じてる。ありがとう、キセキ」
キセキとアキュアが話していると、気がつけば理事長室前に着いていた。二人は扉をノックして中に入る。
「失礼します……っていない?」
ディオーグは不在だった。
「どこかに出かけてるみたいだね」
「(ホントに忙しいんだなあの人)書き置きだけ残しておく?」
「そうしよっか! 私に任せて! 報告書なら書き慣れてるから!」
「(それは良い意味でだと信じたい……)」
アキュアはショウカ村で起きたことを紙にまとめた。
「……これでよし、と。じゃあ部屋に戻ろっか!」
「そうだね!」
「……って、もしかしてキセキの部屋、燃やされちゃって無いんじゃない!?」
「あ、そうじゃん! 今どうなってんだろ!?」
二人は慌ててキセキの部屋へと向かう。するとそこにはエクスプロードが居た。
「あら、キセキくん! 帰ってきてたのね、無事で何よりだわ」
「あ〜、心配かけてホントにすみません……」
「いいのよ。誰にでも不意に外へ飛び出したくなる時期はあるわ。それよりも貴方の部屋なんだけど……」
エクスプロードが目をやった先を見ると、学生寮に部屋一つ分ぽっかりと空いた空間があった。
「見ての通りで……」
「ああ……ですよね……」
「燃え尽きる前にコレだけは避難させられたわ」
エクスプロードは孵化器に入った卵を見せた。
「卵! エクスプロード先生が助けて下さったんですか!?」
「ええ。たまたまサラマンダルの談話室に居たら突然学生寮の一室が燃え始めたって言うからね。急いで中に入って何とかコレだけは護れたわ」
「(俺達が出た後そんなことになってたのか)ありがとうございます!」
「いえいえ。部屋の修復なんだけど、早くても明日になりそうだから今日は誰かお友達の部屋に泊まってもらってもいいかしら?」
「分かりました! 部屋の修理よろしくお願いします」
「それなら私の部屋においでよ! キセキ」
「アキュアの部屋!?」
唐突なアキュアの提案にキセキは驚いた。
「何よぉ、嫌なのぉ?」
「いや、全然嫌じゃない(むしろ嬉しい)けど、女の子の部屋に一晩泊まらせてもらうってのは……」
「あら、いいじゃない。それも今しか出来ないことかもしれないわよ? キセキくん」
「(先生が推奨するってのはどうなんだ……)」
「そうだよそうだよ! 久しぶりにお泊り会しようよ! ね? ね?」
「わ、分かった分かった! お世話になります!」
最終的にキセキはアキュアに推し負けて、彼女の部屋に泊まることにした。
「やったぁ! キセキとお泊り会だなんていつぶりだろう!」
喜ぶアキュアを横目にエクスプロードがキセキの耳元で囁いた。
「可愛い幼なじみで良かったわね」
「ボソッと言わないでくださいよ……」
「うふふ、お泊り会楽しんでね、キセキくん」
そうしてキセキとアキュアは、アキュアの部屋へと向かった。
「じゃ〜ん! ここが私の部屋で〜す! 結構綺麗にしてるでしょ?」
「えっ!? 広っ!?」
キセキは部屋の綺麗さよりもその広さに驚いた。
「いいでしょ〜。十二衛弟になったら特別な部屋をいくつか貰えるんだ〜」
「(フレイドの「プロミネンス」みたいなものか。自室まで特別仕様とは……)恐れ入りました、水弟様」
「ふっふっふ。控えおろう! 十二衛弟水弟のアキュア・オーシャン様のお通りじゃ! ……なんちゃって」
「(めっちゃ可愛い)あはは! アキュアが凄いって改めて実感するよ。……それにしてもホントに綺麗にしてるね」
「そうでしょ〜? ……まぁ、ほぼ寝るためだけに使ってるからってのもあるけどね」
「あ〜、気持ち分かるかも」
「キセキもう疲れたでしょ? お風呂入る?」
「そうさせてもらおっかな」
「分かった! 久しぶりに一緒に入っちゃう?」
「あはは……冗談は良くないよアキュア」
「冗談じゃないよ? 一緒に入ろうよ!」
「……マジで?」
「キセキ先に入ってて! 私色々準備してから入るから!」
「……マジで?」
「(そうだよそうだよ。俺の部屋が吹っ飛んだからアキュアの部屋に泊まることになって、それで何故か一緒にお風呂に……)」
【物語あるある】幼なじみとお風呂
「お背中お流ししますね〜♪」
「!?」
アキュアはキセキの背中を洗い始めた。
「懐かしいなぁ。昔は二人でこうやって洗いっこしたよね」
「そ、そうだね! あ、後は自分で出来るから!(じゃないともう理性がもたない)」
「そう?」
キセキは急いで身体を洗い流した。
「じゃ、じゃあ俺は先に上がってるから!」
浴室から出ようとするキセキをアキュアが抱き締めて止めた。
「!?」
「ダメだよキセキ、まだ頭洗ってないでしょ?」
「(ヤバいヤバいヤバいその格好で抱き締められると直接当たって感触が……)ぶはっ」
「キセキ!?」
キセキは鼻血を出して倒れた。
目を覚ますと、アキュアのベッドの上だった。
「キセキ! 大丈夫!?」
アキュアが心配そうに覗き込む。
「だ、大丈夫大丈夫! ちょっとのぼせちゃっただけだから……」
そう言ってキセキは浴室での出来事を思い出し、また鼻血を出した。
「きゃあ! 大変!」
「わぁ! ティッシュティッシュ!」
キセキはアキュアからティッシュを貰い、何とか鼻血を止めた。
「キセキごめんね。調子悪いのに私が無理言ったから……」
「そ、そんなことない! ホントに大丈夫だから!」
「本当に? 無理しちゃダメだよ?」
「うん! ありがとう!」
キセキはアキュアにお礼を言った。
「それじゃあもう寝よっか! お隣失礼しま〜す」
「えっ、寝るって二人で!?」
同じベッドに入ろうとするアキュアにキセキは驚いた。
「そりゃそうだよ。ベッドは一つしかないし」
【物語あるある】幼なじみと同じベッドで寝る
「(マジかよ……いや、むしろご褒美なんだけど、コレ朝まで耐えられるか……?)ご、ご馳走様です」
キセキは緊張し過ぎてワケのわからないことを言った。
「あははっどういう意味!? キセキたまにそういうこと言うよね」
「あっ、そうだ! アキュア、フレイドさんに俺がたまに意味のわからないことを言うって言ってたんでしょ! 聞いたよ!」
「だって本当のことだもん〜。フレイドさん何でも聞いてくれるからつい話しちゃった!」
「全く……ちょっと恥ずかしかったんだけど!」
「あははっ、でもちゃんとキセキのカッコイイとこも伝えたよ? フレイドさん、すっごく嬉しそうに聞いてくれた」
「……そうなんだ」
二人の間に暫くの沈黙が流れる。次に話し始めたのはアキュアだった。
「……フレイドさん、素敵な人だったね」
「……うん。強くて、かっこよくて、優しくて……イグナイトさんがあそこまで惚れ込むのも理解できるくらい、凄い人だった」
「……キセキ、フレイドさんが亡くなったのも、イグナイトさんが眠っちゃったのも、全部自分のせいだって思ってるでしょ」
「……! ど、どうしてわかったの……?」
「キセキを見てたら分かるよ。ずっと何か責任を感じてる顔してる。でもそんなに思い詰めないで。キセキは何も悪くない」
「!!」
「イグナイトさんも言ってたでしょ? 「キセキに救われた」って……自覚してないかもだけど、キセキは知らず知らず色んな人の人生を救っているんだよ。ユージーンくんにヘルデちゃん、ピサさんにルミナスちゃん、フレイドさんにイグナイトさん……そして私も」
「……アキュアも?」
「うん。小さい頃からいっぱい救われてる。キセキが居たから先生になりたいと思ったし、キセキが居たからヴァイスハイトで頑張ろうって思えたし、キセキが居たから十二衛弟にもなれた。キセキのおかげで私はこれまで生きてこられた」
アキュアはベッドの中で後ろからキセキを抱き締めた。
「!?」
「キセキ、産まれてきてくれてありがとう。私と出会ってくれてありがとう。助けてくれてありがとう。一緒に居てくれてありがとう。……うん、やっぱりこの気持ちに偽りは無い」
「……?」
「キセキ、大好きだよ。幼なじみとしてじゃなく、一人の男の子として、大好き」
「……!」
キセキは自身の心臓の鼓動がとてもうるさく感じた。
「……ドキドキしてる? ……部屋に来る前、女の子の部屋に一晩泊まらせてもらうのはって言ってたよね……それって、私のこと、一人の女の子として見てくれてるってこと……?」
「……」
キセキは言葉にしようか迷った。この気持ちを言葉にしてしまえば、楽になれるのは分かっていた。でも出来なかった。何故なら、自分はこの物語の主人公。常に危険と隣り合わせの存在だから。ここでアキュアをより大切な存在にしてしまったら、次に死ぬのはアキュアかもしれない。それが怖くて、言葉に出来なかった。
「……答えなくていいよ。私はキセキが生きてくれているだけで、幸せだから」
「……!」
「私のことをどう思ってくれててもいい。キセキがヴァイスハイトで楽しく六年間を過ごして、卒業して、シワシワのおじいちゃんになるまで生きてくれたら、それでいい。それで私は何よりも幸せだよ?」
「……ホントに、アキュアって……」
「……? なぁに?」
キセキは寝返りを打ってアキュアの目を真っ直ぐ見る。
「アキュア、俺、絶対アキュアが悲しむことはしない。アキュアがそう言ってくれるように、アキュアの笑顔が俺の幸せでもあるから。約束する」
「……! えへへ、ありがとうキセキ」
アキュアは正面からキセキを抱き締める。
「今日はこうして寝てもいい? キセキとくっついてると、とっても安心するの」
「も、もちろん! (俺は寝れるか分かんないけど……)」
キセキとアキュアは、数年ぶりに同じベッドで眠りに着くのだった。
【物語あるある】幼なじみの告白
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