《第4章:夜衝》『第4節:世界の真実』
翌朝、キセキはリサに里を案内してもらっていた。ピンインが里の皆に伝えたのだろうか、キセキが居ることを不思議がる人は何人も居たが、敵対視する者はもう居なかった。
「「ヴォルペ」では自給自足が基本! 足りない物は「
「(ヴォルペは里の名前。外界は里の外のことだな。鎖国的な感じかと思ったけど、以外と交流もあるのか)へぇ〜、何か皆生き生きしてていいね」
里には老若男女問わず様々な人が生活していた。皆狐面を付けているため表情は分からないが、絶えず笑い声が聞こえ楽しそうなのはキセキにも伝わった。
「そうでショ! 皆この里が大好きなノ! 誕生日は皆でお祝いするし、収穫が少なかったら皆でご飯を分け合うし、里が危なかったら皆で戦うし、何をするにも皆で一致団結するんダ! それが「掟」でもあるかラ!」
「いいね。家族みたいなものなんだ」
「そウ! キセキ、良いこと言うネ!」
「あはは、ありがとう。……そういや里の所々にある煙突? は何なの?」
ヴォルペには中華風の街並みにはそぐわない、地下から伸びているであろう煙突がいくつも点在していた。
「そうダ! ソレも教えていいって頭に言われてるから教えてあげル!」
そう言ってリサはキセキを里の奥にある扉の前に案内した。
「ココから地下に行けるんダ!」
「地下? 地下に何があるの?」
「フッフッフ。見たらきっと驚くヨ!」
「(アカシックレコード見る前のヘルデを思い出すなぁ……)」
キセキとリサは扉から地下へと続く螺旋階段を降りていった。降りた先にはまた扉があった。
「外界の人には内緒の場所だヨ!」
リサがドアノブを掴んで言う。
「刮目せヨ! コレがヴォルペの真髄ヨ!」
扉が開かれた先には、ヴァイスハイトの競技場を彷彿とさせるほどの広い空間があった。ネオンの装飾が至る所に施され、巨大な地下空間を明るく照らしている。見たこともない機械が立ち並び、それを忙しなく動かしている白衣を羽織った狐面が無数に居た。
「何……コレ……」
「フフフフフ! ビックリしたでショ! ヴォルペの地下は古代エネルギーの研究施設になっているノ!」
「古代エネルギー?」
「昔存在した「デンキ」っていうエネルギーだヨ!」
「電気!? もしかしてその技術の名前って……」
「確か「カガク」って言ってたかナ?」
「(科学……! 魔法しか存在しない世界だと思っていたけど、衰退しただけで過去に科学も存在したのか!)」
「キセキ、カガクに詳しいノ?」
「あ、いや、全然! 名前は聞いたことあるな〜って」
「ほう。それは前の世界でか?」
いつの間にかキセキの背後にピンインが立っていた。
「うわぁ!? ピンインさん!」
「前の世界ではカガクが発達していたとかか?」
「(相変わらず察しがいいな……)あ、はい。そうです。魔法っていう概念はあったんですけど、この世界みたいに実際に使えるわけではなくて、科学が発達し電気が生活に欠かせない存在でした」
「……生活に欠かせないとは?」
「毎日何かしらで使うんです。食べ物を温めたり、服を洗濯したり、車や電車っていう乗り物に乗って短い時間で移動したり……とにかく科学と電気無くしては生きていけない世界でした」
「ほう……それは面白いのぉ。デンキを生活の中に取り入れる……か」
「ここでは違うんですか?」
「わらわ達は主に武器や防具に用いている。古い文献にそのような記述はあったが、実用性には至っていないのじゃ」
「(ってことはこの世界も昔は前の世界のように科学が栄えた時代があったのかな……ヴァイスハイトでスマホがあったのもそういうことか……? でもどうして魔法が当たり前の世界になったんだろう?)」
「ここでのデンキの使い方……見ていくか?」
「いいんですか!」
「良い。おぬしの見解も聞きたい。リサ、案内はここまでで結構じゃ。後はわらわが引き継ぐ」
「承知!」
そう言うとリサは去っていった。ピンインが研究所の奥へキセキを案内する。そこには皆の付けている狐面のように蛍光色で輝く刀や槍、盾、銃、鎧などが置いてあった。
「凄い! めちゃくちゃカッコイイですね!(The サイバーパンクって感じだ)」
「クックックッ! カッコイイか。そのように考えたことは無かった」
「あはは……コレ、どうやって使うんですか?」
キセキが置いてある刀を指さして言う。
「柄の部分にあるスイッチを押すだけで良い。大抵の物を切り裂くことが出来る」
ピンインが実際に刀を手に取った。スイッチを押すとネオンの輝きが増し、静かに振動しているのが見て取れた。
「見てろ」
ピンインが試し斬り用であろう服を着せられたマネキンに向かって刀を構えた。キセキがそれに目をやった次の瞬間、マネキンは真っ二つになり上半身がドサッと地面に落ちた。
「(は、速い……! 全然見えなかった!)」
「……まぁ、このような具合じゃ」
「凄いですね! こんな武器、俺の世界では無かったです!」
「そうか。それほど平和だったのじゃろう」
「確かに俺の住んでた国は平和……な方だったと思います」
「……キセキ、おぬしに見てもらいたい物がある。わらわと共に外界へ行くぞ」
「あ、はい(急にどうしたんだ……?)」
「外界は危険じゃ。ここの装備で好きな物を持っていくと良い」
「良いんですか! やったぁ!」
「クックックッ。おぬしはマーリンとはまた違った反応をして面白いのぉ」
キセキは言葉に甘えて狐面と刀を借りた。
「ついでじゃ。服もわらわ達と同じものを用意してやろう」
「ありがとうございます!」
キセキは用意してもらった巫女のような装束に着替え、ピンインと里を出た。森の中に入り、獣道をかき分けながら進んでいく。
「どこに向かっているんですか?」
「着けばわかる。おぬしの反応を見たいのじゃ」
30分ほど歩いた先で、ピンインが足を止めた。
「ここじゃ。あれを見よ」
「……?」
キセキは彼女の指さした先を見た。
「…………え?」
彼は自身の目を信じることが出来なかった。この世界に来てから驚くことは幾度となくあったが、過去にも未来にもこれ以上の驚きは無いだろう。そう思うほど大きな衝撃をキセキは受けた。
「な、何でここに……「アレ」が……?」
そこには、東京タワーが横たわっていた。
【物語あるある・再掲】転生前の世界の物がある
「やはり……知っておる、か」
「……!」
「あれに関してはマーリンと同じ反応じゃな。じゃがマーリンはあれに関して何も語らなかった。キセキ、あれはなんじゃ?」
「あ、あれは……モニュメントです……私が前いた世界、国を代表するモニュメントです」
「……! そうか……やはりそうなのか」
「……? どういうことですか?」
「キセキ、おぬしやマーリンはきっと異世界から転生したわけではない」
「!!」
「カガクの栄えていた過去から、“魔術”の栄えた現代に、時を超えて来たのじゃ」
「!?」
キセキは信じることが出来なかった。だがそれが事実であることを目の前の東京タワーがありありと語っていた。
「そうすればおぬし達があれやカガクを知っているのにも説明がつく。魔力が常人と違うのも時を超えた影響とかであろう。じゃが不可解なのはどうしてカガクが滅びたかじゃ」
「天災……それこそ隕石の衝突とか、人類が一瞬で滅びるような大災害が起きたとか……」
「わらわもそれは考えた。しかしただの自然災害では無さそうなのじゃ」
「……?」
「あれの近くへ行こうか」
キセキとピンインは倒れた東京タワーの麓まで近づいた。
「この辺りじゃ。よく見よ」
彼女が指さした付近を見て、キセキはすぐに気づいた。
「……銃創?」
「そうじゃ。争った形跡がある」
「!!」
「不可解だと言ったのはそういうことじゃ。おぬしの居た国は平和だったのであろう?」
「確かに……でも第三次世界大戦……世界を挙げた戦争がいつ起きてもおかしくない世界情勢ではありました……いや、だからって科学が滅びるほど再起不能になるか……? そこから“魔術”が発展したのもよく分からないし……」
「わらわはそこに「魔王」が関係していると思っておる」
「!! 魔王……!」
「はるか昔から語り継がれるおとぎ話の存在。世界を滅ぼさんとする魔王を一人の勇者が討ち取ったと。しかしわらわは知っておる。「魔王の欠片」と呼ばれる遺物がこの国で保管されていることを。魔王は現実の存在じゃ」
「……! つい最近、それが盗まれて悪用されているんです」
「……!? 真か!?」
「ランタンと呼ばれる存在を筆頭に集まった組織で、彼らに魔王の欠片が移植され、雨夜七冠として動いているんです。その一人と昨日交戦しました」
「何と恐ろしいことじゃ……でも何故そのような輩とキセキが?」
「……! そ、それは……(ヴァイスハイト生だからって言えないしなぁ……何て言おう……)」
「……まぁ、おぬしにも話せぬことの一つや二つあろう。深くは聞かない」
「あ、ありがとうございます」
「さて、そろそろヴォルペに戻ろうか。世界の真相は分からぬが、互いに収穫はあったであろう」
「そうですね! 連れてきてくださってありがとうございます!」
キセキとピンインは元来た道を戻ろうとした、その瞬間。
「グギャアアアアアアア!!!!」
二人の上空から咆哮が轟いた。
「!? な、何だ!?」
「やはり来たか」
焦るキセキをよそにピンインは落ち着いている。
「な、何ですか!? アレ!」
「ワイバーンじゃ。ここは彼らの縄張りなんじゃ」
「ワイバーン……!」
一対の翼を動かして自由自在に空を舞うそれは、伝説で語られる竜そのままの姿だった。
「時にキセキよ。おぬし面白い力を持っているそうじゃな。今それを見せてみよ」
「えっ!? あいつ相手にですか!?」
「そうじゃ。ほら、来るぞ」
ワイバーンはキセキに狙いを定め、真っ直ぐ飛んでくる!
「(くっ……やるしかない!)峰啼脚!」
キセキの足元で爆発が起き、彼の身体はワイバーンと同じ高さまで飛び上がる。
「ほう」
「縁啼拳!!!!!」
キセキの拳から放たれた爆発は見事ワイバーンに命中した。しかしワイバーンは怯まずキセキに襲いかかる!
「(何ぃ!? 効いてない!? ヤバい! 一旦峰啼脚で距離を……)」
キセキが思案していると、ワイバーンとの間にいつの間にかピンインが跳んでいた。
「!? ピンインさん!?」
「おぬしの力は分かった。次はわらわじゃ」
ピンインは迫り来るワイバーンを見据え、刀を構える。そしてワイバーンがピンインに噛み付こうとしたその瞬間、刀を振り抜いた。
「狐ノ剃刀!!!!!」
ワイバーンは真っ二つに分かれ、地上へと落ちた。キセキとピンインも着地する。
「(凄い! また見えなかった! 速すぎる!)」
「怪我は無いか?」
「あ、はい! ありがとうございます!」
「おぬしの御業、魔力域の広さを変えることで威力を出しておるのじゃな。面白い」
「……! (そうか、ピンインには魔力が見えているから俺の力の仕組みについても分かるのか! やっぱりフレイドは間違ってなかった!)そうです! ワイバーンには効いて無かったみたいですけど……」
「そんなことはない。じゃがおぬし自身本来の力を出し切れていないのも事実じゃ」
「……どういうことですか?」
「おぬしは魔力域の広さを変えられるだけでなく、カタチも変えることが出来るはずじゃ」
「魔力域の……カタチ?」
「その前に、何故ワイバーンに攻撃があまり効かなかったか分かるか?」
「……分かりません!」
キセキは素直に答えた。
「クックックッ! 正直で良い。それはワイバーンの鱗が打撃に強く、斬撃に弱いからじゃ」
「!!」
「キセキの御業は十分強力じゃ。じゃが相手によっては効きづらい場合もある。そういった時に使い分けられる手段が必要じゃ。そこで魔力域のカタチを変える」
「……魔力域を薄く、鋭く、刃のように形作る……」
「……! 話が早い。試しに持ってきた刀に魔力を込めて振ってみろ。そこにちょうどいい岩がある」
ピンインが傍にあった身の丈ほどの大きさの岩を指さす。キセキはヴォルペから持ってきた刀を取り出した。
「(魔力を物に込める……ってのはやったことなかったな。箒を扱うのと似た感じかな? 刀の先に意識を集中させて……)はっ!」
キセキが刀を振ると、その先にある岩に斬撃の跡がついた。
「斬撃が……飛んだ……!」
「そうじゃ。それを刀無しでやってみよ」
「刀無しで……分かりました」
キセキは刀をしまった。手を平らにして岩に向かって構える。
「(さっきと同じ感じだ。手の平に意識を集中させて、刃を形作るイメージ……それを勢い良く飛ばすっ!!!)はっ!!!」
キセキが手を振ると、その先の地面ごと岩は真っ二つに割れた。
「で、できた……! 凄い威力だ……!」
「良い。魔力域が薄く、鋭くなった分密度が上がり威力も向上したのじゃろう。おぬし、なかなか筋が良い」
「ありがとうございます!」
「では今度こそヴェルペに帰ろう。皆が待っている」
「はい!」
キセキとピンインはその場を去った。二人は来た道と同じ森の中へ足を踏み入れる。
「待て」
森の中を進んでいると、突然ピンインが足を止めた。
「……? どうしたんですか?」
「あそこを見よ」
ピンインが指さした先には、ワイバーンと戦う三人の魔術師の姿があった。その三人はキセキのとてもよく知る人物だった。
「……! (ユージーンにヘルデ……そしてアキュア!? どうしてここに!?)」
「グギャアアアアアアア!!!!」
ワイバーンが三人に向かって咆哮する。アキュアがユージーンとヘルデを後ろに下げて杖を構える。
「大丈夫だよ。二人とも。私に任せて」
そう言うとアキュアは杖を高く掲げる。
「“水術陣 展開”」
水色の魔法陣がアキュアの足元に浮かび上がる。
「グギャア!!!」
ワイバーンがアキュアに飛びかかった!
「“第4章
一瞬明るくなったかと思えば、次の瞬間にはワイバーンが地面に叩き落とされていた。続け様にアキュアが“魔術”を唱える。
「“第5章
彼女の周りに現れた水で出来た魚達が、次々ワイバーンに突撃する!
「グギュウ……」
アキュアの猛撃を受け、ワイバーンは気絶した。
「ふぅ、危なかったぁ」
「アキュア様! ありがとうございます!」
「アキュア様! かっこよかったです!」
「えへへ、そう?」
額の汗を拭うアキュアにユージーンとヘルデが感謝を述べる。刹那。
「グギャアアアアアアア!!!!」
ワイバーンが突如起き上がり三人を襲った!
「(危ない!)」
キセキが出ようとするよりも速く、飛び出していた者がいた。
「狐ノ絵筆!!!!!」
それはピンインだった。彼女は手に持った刀でワイバーンを細切れにした。バラバラになったワイバーンがドサドサと地面に落ちた。アキュアとユージーン、ヘルデはそれを呆気に取られた顔で見る。
「油断は良くないな。パラディンズスカラー」
「……!」
ワイバーンの頭の上に乗り、ピンインはアキュアに話しかける。
「狐面に紅白の衣装……もしかして夜衝?」
「その通りじゃ。してパラディンズスカラー、このような場所に何用か」
ピンインはアキュアに問う。アキュアは怯まずに答える。
「人を探してるんです。キセキ・ダブルアールという名の白髪の少年に心当たりはありませんか?」
「……!」
キセキは自分の名前を呼ばれ、ドキッとする。
「(三人とも……俺を探すためにこんなところまで来てくれたのか! でもヤバいぞ。ピンインにヴァイスハイトの生徒だってバレる……!)」
「……知らないな。見ていない」
「!?」
「そうですか……ありがとうございます。他を当たります」
そう言うとアキュアはユージーンとヘルデを連れて足速に去っていった。
「……」
「あ、あの、ピンインさん……」
無言のまま立ち尽くすピンインにキセキが話しかけた。
「ど、どうして知らないフリを……?」
「……夜衝は“魔術”を扱う者達とは相対する存在じゃ。そんな存在と関わっていたことが知られれば、何か損害を被るかもしれない」
「……! (俺を護るため……?)」
「キセキ、薄々感じてはいたが、おぬし、ヴァイスハイト……ディオーグ・キルアディアの生徒じゃな?」
「!! ……はい。嘘をついてて、ごめんなさい」
「……わらわはおぬしのことをもう家族の一員だと思っておる」
「……!」
「じゃが「掟」がある。ディオーグ・キルアディアが存在する限り、その手の者と相容れることは出来ない。これは夜衝を、ヴォルペを護るためじゃ」
「……分かっています」
「次に会う時は敵同士じゃ。今度はおぬしの仲間に対しても容赦せん」
【物語あるある】次会う時は敵同士
「……はい。見逃してくれてありがとうございます」
「……一度里へ戻ろう。おぬしも着替えたいじゃろう」
キセキとピンインは再度ヴォルペへと歩を進める。里に着くまでの間、二人は一言も話さなかった。
「もう行っちゃうノ? もっとゆっくりしていけばいいのニ」
ヴォルペから去ろうとするキセキへ寂しそうにリサが言う。
「こう見えて俺も忙しいんだ。里のこと色々教えてくれてありがとうね」
「お易い御用だヨ! ……キセキ、また来てネ?」
「……! ああ。いつか、きっと」
キセキは里を後にし、ヴァイスハイトを目指す。
「……」
常夜城へと向かう汽車の中でキセキは懐から狐の面を取り出した。
「(コレだけは持って行って良いって言ってくれたけど……付けるわけにいかないしな。部屋に飾っとくか? ……あ〜、それよりも急に居なくなったこと皆に何て言おうか……)」
キセキはヴァイスハイトへ着くまでの間、城を去った言い訳を考えるのだった。
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