《第4章:夜衝》『第2節:決意』

 キセキは列車に乗っていた。行く宛ても無く、ただ先へ先へと進む。終着駅に着く頃には、車内にキセキ以外の姿は無くなっていた。列車から降りると、辺りは真っ暗で、森の中のようだった。

「お〜い、キミ、本当にここで降りるのかい?」

 キセキが声のした方を振り返ると、それは車掌だった。

「……はい。まぁ……」

「別に止めはしないけど、注意しなよ。最近よく悪い噂を聞くし……」

「……? はい。ありがとうございます(何か曰く付きの場所なのか?)」

 車掌は車内へと戻り、列車は去っていった。列車の灯りが無くなり、辺りは一層暗くなる。

「リグフート」

 キセキがそう唱えると、杖の先が明るく光った。それで目先の道を照らしながら、キセキは森の奥へと歩を進める。

「(正直ここが何だろうがどうでもいい。俺は今から死ぬのだから)」

 キセキの手にはロープが握られていた。


【物語あるある】主人公の闇堕ち


「(俺が主人公として存在する限り、俺を中心に事件は起き続ける。それは俺だけでなく周りも巻き込んで発生する。次はその犠牲者がアキュアやユージーン達かもしれない。そうなったらもう……俺は耐えられない。俺が死ぬことでその負の連鎖を断ち切られるのなら、俺は喜んで死ぬ)」

 キセキは手頃な木にロープを括り付ける。

「(後悔がない……と言えば嘘になる。何の因果かただの30のおっさんが異世界転生して若返られたんだ。もっと出来ることはたくさんあっただろう。だけど……もうどうでもいい。それが人を傷つけることになるくらいなら、もう、終わらせたい)」

 キセキは木の枝の上に乗り、ロープで作った輪の中に首を通す。

「(すまないな、アーサー。せっかく異世界転生させてもらったが、人選ミスだ。でもこの二年と少しは悪くなかったよ。楽しかった。ありがとう。俺なんかと関わってくれた人達。そしてさようなら。どうか彼らに幸せが訪れんことを)」

 キセキは木の枝から飛び降りた。ロープによって彼の首が締め上げられる。

「……ッ! くっ……!」

 みるみるキセキの顔が赤くなっていく。呼吸が出来ず、意識が朦朧としてきたとき、彼の体重に耐えかねて木の枝が折れた。ドサッとキセキは地面に落ちる。

「ぷはっ! ……はぁ……はぁ……」

 キセキは大きく息を吸う。暫くした後、彼は砂利を掴んで思いっきり投げた。

「ははっ、ははははははっ! 何だよ。ちゃんと死ぬことも出来ねぇのかよお前は! 何なんだよお前は!」

 キセキは叫んだ。

「お前なんて周りに不幸を運ぶことしか出来ない疫病神なんだよ! 何の取柄も無くて! 何にも出来なくて! 人を傷つけ悲しませる生きてる価値の無い存在なんだよ! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね死ね死ね死ね死ね……」

 そのとき、キセキは恩師の言葉を思い出す。

『あの行動は誇っていい。天晴れだ。キミは決して間違っていなかった』

「……!」

『彼は人のために笑い、怒り、必死になれる人間だ。彼の言葉や行動に救われた人が何人もいる。たとえ力が弱くとも、“魔術”が使えなくとも、関係ない。誰かのためにと行動する人間に、弱い人間はいない』

「……」

『優しいキミのことだ。俺の死を心から悼んでくれるだろう。だがどうか気にしないで欲しい。俺の死を嘆くよりも、糧にして前に進んで欲しい。テンセイはきっと、大きな使命を背負ってこの世界に来たのだろう? 』

「……」

『キミはこんなところで立ち止まっていい人間ではない。自分の使命を全うするために未来へと突き進んでほしい。そしてディオーグ先生をも超える天晴れな魔術師になれ。俺からの願いだ』

「フレイド……さん……」

 そしてヴァイスハイトの皆の顔が浮かぶ。

『ふふ、大好きだよキセキ。それじゃあ二年後! ヴァイスハイトで!』

『めちゃくちゃかっこよかったですよ! キセキさん!』

『そうだわ! とっても素敵だった!』

『ニャー!』

『キセキ……これから、よろしく』

『ルミナスちゃんを救った英雄に預けてみようかと思ってね!』

『足手まとい扱いしたのは悪かった。お前のおかげで助かった。ありがとな、キセキ』

「みん……な……」

 キセキからポタポタと涙が落ちた。

「(そうだ……まだアキュアにアレは何だったのか聞いてない。フレイドさんの仇を取ってない。ディオーグ先生を超える魔術師になってない。ラスボスを倒してない。俺の使命を果たしてない……!)」

 キセキは涙を拭って立ち上がった。

「(帰らなきゃ。ヴァイスハイトへ。俺には待ってくれている人達がいる……!)」


【物語あるある】仲間の言葉で立ち直る


 キセキは元来た道を戻った。

「(あっ、でもこの時間もう列車は無いよな……どうやって帰ろう。時間はかかるけど箒があれば飛んで帰れるか? ……ん?)」

 キセキの眼前に光が浮かんでいた。

「(何だ……? あの光……)」

 その光に近づくにつれ、段々とカタチが明らかになっていく。

「(狐の……お面……?)」

 それはよくある狐の面だった。狐の顔を象る線が光って暗闇の中でも見えていたのだった。

「(な、何かヤバい感じがする! 逃げろ!)」

 キセキは狐の面が浮いていた方に背を向けて走った。すると狐の面は追いかけてきた!

「(ついてくる! 何なんだアレ!? 人か!? 魔物か!? とにかくこんな時間にこんなところにいるなんてヤバい奴に違いない! 走れ走れ走れ!)」

 キセキは全力で走ったが、狐の面の主はそれよりも早く駆けてくる!

「(ヤバい! 追いつかれる! こうなったら……!)」

 キセキは突然立ち止まり、振り返った。そして拳を構える。

「(ここで迎え撃つ!)峰啼脚!!!」

 キセキの足元で爆発が起こり、狐面の方へ真っ直ぐ飛んでいく!

「……!」

「くらえ! 縁啼拳!!!」

 ドカァァァン!!! キセキの拳の先が爆ぜた。しかしそこに狐面の姿は無かった。

「……あれ!?(消えた……!?)」

「面白い力を持ってるネ。それも魔法?」

 声がしたのは上からだった。狐面は瞬時に飛び上がってキセキの拳を躱したのだ。

「……!? 上!?」

 ゴッッッッッ!!! キセキは狐面に何かで頭を殴られ、気絶した。

「……ワオ、気絶しちゃっタ! ……う〜ん、とりあえず連れて帰るカ」

 そう言うと狐面はキセキをズルズルと引き摺ってどこかへ連れていった。


【物語あるある】誘拐される

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