《第4章:夜衝》『第1節:残り火』

 早い段階でショウカ村の村人が白魔道士隊へ通報していたため、フレイドの死後すぐに彼らは訪れた。現場検証と事情聴取に付き合わされ、キセキがヴァイスハイトに帰る頃にはもう夜になっていた。もちろんヴァイスハイトは常に夜のため、時刻がという意味でだ。それなのにヴァイスハイトはとても騒がしかった。炎弟の訃報が既に知れ渡っていたからである。キセキの姿は理事長室にあった。

「……とても辛い想いをしたね。そんな時に呼び立ててしまってすまない。白魔道士隊へ散々話しただろうが、ボクにも何があったか聞かせてもらえるかい?」

「……」

 ディオーグがキセキに尋ねる。

「ゆっくりで構わない。話せることから話してほしい」

「……昨年ここを退学になったっていうブルートがショウカ村に突然現れました。ランタンから「冠」……「魔王の欠片」の一つ、「魔王の心臓」を移植されていて、それを使って襲ってきました。フレイドさんが攻防の末勝利しましたが、最後に不意をつかれて致命傷を負い、亡くなりました」

 キセキは既に何度も話した内容だったため、要点だけを淡々と話せた。

「そうか……ブルートとフレイドの戦闘を見て、何か思ったことはあるかい?」

 何故そんなことを聞くのだろう……キセキは疑問に思ったが、素直に答えた。

「フレイドさんは最後まで立派でした。ただブルートも確かに強かったです。私の攻撃は全く通じず、フレイドさんの“終章”を受けてもまだ攻撃出来る余力を残していました。“終章”に他の魔力を燃やす効果が無ければ、私も危なかったと思います。最後まで、フレイドさんに護ってもらいました」

 キセキの言葉を聞いて、ディオーグは少し驚いた顔をして呟いた。

「魔力を……燃やす……?」

「……? 何ですか?」

「いや、何も無い。最後にもう一ついいかい?」

「……はい」

「キセキはどうしてショウカ村に向かったんだい?」

「……! ……それは……私は“炎術陣”に適性があるかもしれないので、フレイドさんを見て学ぼうと思って……」

 キセキは咄嗟に嘘をついた。

「……なるほど。辛いのに話してくれてありがとう。今日はもう自室に戻って休みなさい」

「はい……そうします」

 キセキは理事長室を出た。するとそれを待っていた人物がいた。

「あんた……何してたの」

 イグナイトだった。

「あ……イグナイトさん……あの……」

「あんた、フレイドの傍に居て何してたの?」

「……イグナイトさん、フレイドさんから……」

「何してたのって聞いてるのよ!!!」

「……!」

 キセキは戸惑った。何と答えても、間違っている気がした。

「フレイドが魔道具を通して私と話しているときも、あんた傍に居たんでしょ? 魔道具持ってたのはあんただもんね」

「……はい」

 イグナイトはキセキの胸ぐらを掴んだ。

「どうしてそのとき言ってくれなかったのよ! もう話せるのは最後かもしれないって! せめて教えてくれてたら……ワタシ……もっと……」

 イグナイトは目に大粒の涙を浮かべる。

「……ごめんなさい」

「あんたからの謝罪なんか要らないのよ! 返してよ! フレイドを返してよ!」

「……ごめんなさい」

 謝ることしか出来ないキセキに、イグナイトは手を出そうとした。しかしその手を止めた人物がいた。

「イグナイトちゃん、キセキくんを責めるのは違うよ」

 それはピサだった。

「彼も君と同じく辛いんだよ。分かってあげなよ」

「分からないわ! こいつはフレイドを見殺しにした上ワタシにそれを伝えなかったのよ!」

「それはきっとフレイドくんが止めたんだよ。フレイドくんのことは君が一番分かっているだろう?」

「……ッ! それでもワタシはこいつを許せないわ! 絶対に許さない!」

「わかった。後は私が聞くからキセキくんを離してあげな」

「嫌だ! こいつのせいよ! こいつのせいでフレイドは死んだんだわ!」

 ピサはキセキからイグナイトを無理矢理引き剥がした。

「離して!」

「離さない。君を部屋まで送る」

「キセキ! あんたのこと絶対許さないから! 死ぬまで怨んでやる!」

 イグナイトは叫びながらピサに連れていかれた。

「(イグナイトさん……取り乱してたな……そりゃそうか……恋人が死んだんだもんな……あ……指輪渡せてない……今渡しても火に油を注ぐだけか……あれ?」

 キセキは懐を探る。

「(スマホが無い……帰るまでのどっかで落としたのか……? まぁいいか……ああ……疲れた……)」

 キセキは自室に戻り、ベッドに倒れ込んだ。

「(何もする気が起きない……まだ入学して二日目だぞ……ホントに毎日のようにこんなことが起こる世界なら……俺は生きていけないかもしれない……待てよ)」

 キセキはある考えが浮かんだ。

「(もしかして……フレイドが死んだのはホントに俺のせいなんじゃないか? フラグは立ってたけど、それが勝手に折られる可能性は今までの傾向からして少なからずあった。俺がショウカ村に向かったことで死亡フラグが確定したんだとしたら……フレイドを殺したのは……)」

 キセキはそう考えた後、自室を出てヴァイスハイトの外へ向かった。それから数日の間、ヴァイスハイトでキセキの姿を見た者は居なかった。

 同時刻、イグナイトは自室で泣いていた。

「……うう……フレイド……フレイドォ……」

 彼女の泣き声以外聞こえない静かな部屋に、スマホの着信音が鳴り響いた。

「こんな時に何……? ……もしかして……フレイド……?」

 彼女はスマホに出た。

「……フレイド……?」

 恐る恐るイグナイトが訊くと、スマホから声がした。

「ああっ! イグナイトかっ!?」

「フレイド!!!」

 それはフレイドの声だった。

「フレイド……どうして? 生きてたの?」

「ああっ! オレはあれぐらいで死なないっ!」

「何だ……やっぱり間違いだったんだ……今どこにいるの?」

「まだショウカ村だっ! 命に別状は無いが酷い怪我でな……迎えに来てもらえるかっ!?」

「行く行く! すぐ行く! 待っててね!」

「ああっ! 待ってるっ!」

 イグナイトは自室を飛び出してショウカ村へと向かった。その後彼女の姿も数日の間ヴァイスハイトから消えることになる。


【物語あるある】不穏な空気と流れ

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