《第3章:炎の意志》『第2節:魔術適性』
キセキとユージーンが「オリハルコン」に入ると、既に数十人の生徒達が集まっていた。皆身にまとったローブからサラマンダルの生徒だとわかる。
「ふぅ、ギリギリ間に合ったか」
「ですね。それにしても本当に良いんですか? 五万アルク頂いちゃって」
「いいんだって。二人の力で「秘密の部屋」を見つけたんだから、正当な取り分だ」
「あ、ありがとうございます!」
「お〜い! キセキくん! ユージーンくん!」
ヘルデが遠くの席から入口に立つキセキとユージーンを呼んだ。二人はそちらに向かい、ヘルデの隣の席に座る。
「遅かったわねぇ。何してたの?」
「ニャー」
「いやぁ、全部は話せないんだけど、簡単に言うと二人でクエストやってたんだよ。なっ! ユージーン」
「はい! 楽しかったです!」
「もうクエスト受けてたのね! いいなぁ、次は私も一緒にね?」
「もちろん!」
三人が話していると教室に一人の女性が入ってきた。
「あれ、あの人……」
「職員室で話した方ですね!」
女性は前方の教壇に立つと、生徒達に向かって話し始めた。
「皆さんはじめまして。私はエクスプロード・ボンバイエ。サラマンダルの学年主任と「魔術基礎」の担当を務めます。どうぞよろしくね」
生徒達は拍手した。
「エクスプロード先生、僕達の学年主任だったんですね」
「優しそうな人で良かったわね」
「それなぁ(展開的にはあるあるだなぁ)」
【物語あるある】自身の担当になる人と事前に関わりがある
「さて、まずは皆さんに履修要項をお配りします。大事なことしか書いてないからしっかり読んでおいてね」
そう言ってエクスプロードが杖を振ると、山積みになっていた冊子が宙を舞い生徒達一人一人に配られた。
「知ってる人も多いと思いますが、ヴァイスハイトでは生徒の自由を尊重し、自分が受けたい授業を自分で選択することが出来ます。今日から二週間は仮選択期間とし、気になる授業に自由に参加してもらって結構です。その間に自分なりの時間割を作成して、再来週までに確定させて下さい」
「(一般的な大学と同じような感じか。いや、それよりも緩いか)」
【物語あるある】校則が緩い
「具体的な申請方法等は履修要項をきちんと読むこと! 履修要項! きちんと読む! 大事なことなので二回言いました」
「(毎年適当にやる生徒のせいで苦労してきたんだろうなぁ……)」
【物語あるある】大事なことは二回言う
「では! 事務的な話はそれぐらいにして、最初の「魔術基礎」の授業では皆さんの「魔術適性」を見ていきたいと思います!」
「(「魔術適性」……?)」
エクスプロードが杖と魔術書を取り出した。
「“魔術”を扱うには基本的に杖と魔術書が必要になります。魔術書は星の数ほどあるとされており、自身に適した魔術書を見つける方法は簡単。呪文を唱え、魔術書を手に取って開くだけです」
「(ほう……?)」
「“我、汝に問う。汝、我を試したまえ”」
彼女はそう唱えて、手に持っていた魔術書を開いてみせた。
「……このように適性の無い魔術書を開いても何の反応もありませんが……」
彼女は教壇に置いてあったもう一冊の魔術書を手に取った。
「適性のある魔術書のときは……“我、汝に問う。汝、我を試したまえ”」
そう唱え魔術書を開いた瞬間、魔術書から風が吹き上がり、ひとりでにパラパラとめくれ続けた。生徒からおお〜と歓声が挙がる。
「……このように風が吹いて反応します。適性度合いが高いほど強い風が吹くわ」
「(なるほど……ひたすら呪文唱えて魔術書を開きまくったら自分に向いた“魔術”が分かるってことか。それが「魔術適性」)」
「皆さんにも実際に様々な魔術書に触れてもらい、自身の魔術適性を調査してもらいます。既に“魔術陣”を扱える生徒も、まだ見ぬ可能性が見つかる場合がありますよ」
「(そっか。自分が気づいていないだけで、例えばユージーンは“土術陣”以外に適性があるかもしれないということか。ここでそれを測ることが出来ると。言ったらハンタ〇×ハンターの水見式か)」
【物語あるある】自身の能力の系統を調べる儀式
「では場所を変えましょうか!」
「えっ、移動すんの?」
「おお! ついにあの場所に行けるのね!」
ヘルデが嬉しそうに言った。それに合わせてアンジュもニャアと鳴いた。
「あの場所?」
「ふっふっふっ。キセキくん、行ったらきっとビックリするよ。かく言う私も本でしか見たことないけど!」
「ヴァイスハイトと言えばあの場所ですね!」
ユージーンは何のことか分かっている様子だった。
「そんな凄いとこに行くのか?」
「世の中に魔法や“魔術”を学べる学舎は数あれど、これがあるのはヴァイスハイトだけです!」
「おお、それは楽しみ!」
エクスプロードが先導してサラマンダルの生徒達は扉の間からある場所へと移動した。
「おおおお! こ、これは……!」
「わああ! 凄い! 凄い! 私本当にあの場所にいる!」
「ニャー!」
「実際に見ると凄い迫力ですね!」
そこは上下左右に大量の本棚が並んだ場所だった。本棚は果てしなく続いており、その終わりは見えない。
「(転生する時の世界の狭間みてぇだ。真っ白な壁や床がそこにあるようにも、どこまでも遠くにあるようにも感じる。無限に本棚が並んでいるように見える)すげぇ……!」
「ここはアカシックレコード! 世界の情報全てがここに存在すると言われているわ。教師でもディオーグ理事長から許可を貰わないと立ち入ることさえできない貴重な場所よ」
「そんな場所がヴァイスハイトに……!(アカシックレコードは聞いたことあるな!)」
「さぁ、ここからは暫くは自由時間! 個人で好きに魔術書を手に取ってもらって構わないわ」
生徒達は大喜びで立ち並ぶ本棚へと向かった。
「でもこんなたくさんの本の中から目当ての本を見つけるのって相当苦労しないか?」
「良いところに気づいたわね、キセキくん」
エクスプロードがキセキに話しかけた。
「「秘密の部屋」は見つかった?」
「あ〜、やっぱり先生も知ってたんですね……無事見つけましたよ」
「それは良かった。キセキくんが一番乗りかしら」
「俺ら以外にも探してる人いたんですか?」
「いたわよ。ほら、あそこにいる子」
エクスプロードが指さした先を見ると、そこには魔術書と睨めっこしているカンムルと双子の兄弟がいた。
「カンムル!?(ローブの色から見るにシルフィドル……! 他の寮の生徒も今ここに来てるのか)」
「ナルカミ様の仰ってたこともあながち間違ってなかったんですね」
ユージーンがコソコソと話す。
「そこっ! 何見てんだよ」
カンムルがこちらに気づいて、近づいてくる。
「よぉ、キセキ。余裕そうだな。もう自分の魔術適性は分かったのか?」
「まだだよ。今本の探し方をエクスプロード先生に聞いてたとこ……」
キセキが話し終わる前にカンムルはハッハッハッと笑った。それに合わせて双子もニヤニヤしている。
「アカシックレコードで本の探し方も知らないとは、コレだから田舎者は。せいぜい「翼無し」と仲良く調べてるんだな」
「うん、ありがとう(こういうのは挑発に乗らないに限る。ってか俺が田舎者って何で知ってるんだ? もしかして調べた?)」
「はっ、そうやって余裕ぶってるといいさ。入学式で恥をかかされたこと、忘れてないからな。いつか目に物見せてやる。 ライト! レフト! 行くぞ!」
そう言ってカンムルは双子と共に去っていった。
「(弟にも目の敵にされてるとは……まぁ、逆の立場で考えたら当然か)それで先生、どうやって調べるんですか?」
「キセキくん堪えないわね……調べる方法ね、それは簡単よ」
エクスプロードは杖で宙に文字を書いた。するとそれに対応した本が何冊か目の前に飛んできた。
「こうやって宙に文字を書くだけでいいの。より具体的な言葉ほど本を絞れるわ」
「おおっ、なるほど。これは簡単だ。ありがとうございます先生」
「どういたしまして」
エクスプロードはニコッと微笑み戻っていった。
「さて、何からいくか……二人はやっぱり“土術陣”と“猫術陣”?」
「そうですね。“土術陣”が一番慣れ親しんでるので、それの魔術適性度合いを見てから他のも調べてみます」
「私も“猫術陣”を試してからかしら。他のと比べて低かったらショックだけど」
そう言って2人はそれぞれ“土術陣”と“猫術陣”の魔術書を手に取り、呪文を唱える。
「“我、汝に問う。汝、我を試したまえ”」
そう唱え魔術書を開くと、2人とも強い風が吹いた。
「今の結構強かったわよね!?」
「ああ、二人とも魔術適性高そう!」
「やったぁ! これで安心して他のも調べられるわ!」
「ニャーオ!」
「僕もひと安心です!」
ユージーンとヘルデは喜んだ。
「俺は何から調べようかな」
「良ければ“土術陣”の魔術書開いてみますか?」
「おっ、そうだな!」
キセキはユージーンから“土術陣”の魔術書を受け取った。
「“我、汝に問う。汝、我を試したまえ”」
そう唱えて魔術書を開いた。……しかし何も起きなかった。
「えーっと、これは“土術陣”の適性が全く無いってこと……?」
「年月が経過してからまた試すと変わったりするので一概には言えませんが……少なくとも今はそうかもしれないです……」
「き、キセキくん! “猫術陣”も試してみたらどうかしら!」
「そ、そうだな!」
キセキは“猫術陣”も試してみた……が、結果は同じだった。
「……」
「……大丈夫よ! キセキくん! エクスプロード先生が仰っていたでしょう? 魔術書は星の数ほどあるって! もっと色々試してみましょう!」
「ニャア!」
「そうですよ!まだたったの二冊です!」
「……ありがとう二人とも。頑張る」
キセキは二人に鼓舞されて次の魔術書を探した。そうして三人は様々な魔術書を手に取っては呪文を唱えて魔術適性を試した。暫くの時が流れ、エクスプロードが生徒達に声をかけた。
「そろそろ時間なので今調べてる魔術書で最後にしてくださ〜い!」
「……だそうです。キセキくん、どうですか?」
「全くダメだ。何一つ反応しない」
「……た、たまたま今日は見つからなかっただけよ! 全ての魔術書を試したわけではないわ!」
「そうですよ! これからの授業の中で見つかる可能性もあります!」
「……うう、2人とも、ありがとう」
ユージーンとヘルデの必死の励ましにキセキは泣きそうになっていた。
「(そういやまだ“炎術陣”は試してなかったな。最後に一応調べて終わるか)」
キセキは“炎術陣”の魔術書を手に取る。
「これで今日は最後……! 頼む……! “我、汝に問う。汝、我を試したまえ”」
そして魔術書を開くとなんと……! ……何も起きなかった。
「(ダメかぁ……物語あるあるとしてはここで主人公の能力が分かったりする展開だと思ったんだけどなぁ……ん?)」
魔術書を閉じようとした直前に、キセキは何かの紙の切れ端が挟まっていることに気づいた。
「(何だ……? この切れ端……)」
キセキがその切れ端に触れた瞬間、切れ端からとてつもない暴風が巻き起こり、付近の本棚を吹き飛ばした。
「うわっ、えっ、何だ!?」
「キセキくん!?」
「キセキさん!?」
暴風は留まることなく吹き続ける。それによりいくつもの本が宙に舞っていた。エクスプロードが慌てて駆けつける。
「キセキくん! その魔術書を離して!」
「えっ!? これ!?」
そのときキセキは暴風に煽られて思わず切れ端を離した。途端に風は止み、宙に浮いていた本達がドサドサと落ちてきた。
【物語あるある】主人公の力の片鱗が見える
「な、何だったんだ……?」
「……凄い反応だったわね、あんなの今まで見たことないわ。一体何の魔術書だったの?」
エクスプロードはキセキの手元の魔術書を確認する。
「“炎術陣”……! キセキくん、あなた“炎術陣”にとんでもなく適性があるんだわ!」
「“炎術陣”に……?(いや、“炎術陣”の魔術書というより、今のは何かの切れ端が反応してたような……?)」
「“炎術陣”ならサラマンダルにはフレイドくんがいる! 彼が卒業するまでに色々教えてもらうといいわ。もちろん私も協力するから何でも聞いて!」
「あ、はい……ありがとうございます(切れ端はどっかいっちまったし、とりあえず“炎術陣”を学んでみるか……)」
「それではサラマンダルの皆さん! 一度「オリハルコン」へ戻るので、集まってください!」
エクスプロードはサラマンダルの生徒に声をかけた。
「キセキさん! さっきのとんでもなかったですね! あんな反応の仕方、僕初めて見ました!」
「私も! あれだけ魔術適性があるならフレイド様を超えるのも夢じゃないかも!」
「ニャ!」
「あはは……ありがとう」
サラマンダルの生徒達は扉の間を経由して「オリハルコン」へと戻った。
「さて、皆さんそれぞれ魔術適性は調べられましたか? 時間が足りなかったという人は、図書室にも魔術書はたくさんあるので是非足を運んでみて下さいね。今日は最後に代表的な三つの“魔術陣”について解説して終わりたいと思います」
エクスプロードは黒板に文字を書きながら説明を始めた。
「最初は“属術陣”。これは自然に存在する炎・水・風・土・雷のエレメントの力を借りて発動する“魔術陣”です。発動する際“展開”と唱えます。最も多くの人に使われている“魔術”で、その理由は派生のしやすさにあります。例えば私の得意とする“爆術陣”は“炎術陣”からの派生で、他にも二種類以上のエレメントを掛け合わせて発動する“複属魔術”も存在します。ちなみに属性には相性があって、炎は土に強く、水に弱い。土は雷に強く、炎に弱い。雷は風に強く、土に弱い。風は水に強く、雷に弱い。水は炎に強く、風に弱い……分かりやすく並べると、炎→土→雷→風→水→炎の順に強く、また逆は弱いことになります」
【物語あるある】属性に相性がある
「(属性相性は今後キーになりそうだな。そしてやっぱりエクスプロード先生は爆発系の“魔術”だったか。更に“複属魔術”……まだまだ知らないことはあるもんだな)」
「次に“武術陣”。これは魔力の宿った武器の力を借りて発動する“魔術陣”です。発動する際“武装”と唱えます。基本的に武器を杖として扱うことがほとんどです。“魔術”の知識だけでなく、武器を扱う技術も必要になるので、“属術陣”より比較的高度な“魔術陣”と言えます。主な例で言うと“刃術陣”や“砲術陣”、“槍術陣”などがありますね」
「(“砲術陣”は多分砲弟のガストルが使うんだろうな。「シリウス」で会ったけどあんまり俺の印象良くなさそうだったな。仲良くなれるかな)」
「最後に“獣術陣”。これは使い魔の力を借りて発動する“魔術陣”です。発動する際“召喚”と唱え、現れた使い魔と自身を魔力で繋ぎます。こうして互いの魔力を共有することで、様々な恩恵を得ることが出来ます。例えば片方の魔力量の少なさを補ったり、使い魔の考えていることが分かったりなどです。ただ“獣術陣”は使い魔と心を通わせていることが必須になるので、その点においては三種類の中で最も高度な“魔術陣”と言えます」
「(肝試しの洞窟でアキュアの“魔術”くらっても送り犬がピンピンしてたのは、ファットのクズと魔力を共有していたからだったのか。ここで伏線回収された)」
【物語あるある】唐突な伏線回収
「ヘルデがアンジュの考えていることが分かったのって“猫術陣”を使ってたから?」
「いいえ、使わなくてもアンジュの考えていることはわかるわ」
「えっ、すごっ」
「ふっふっふっ。長年の愛が為せる技よね」
「ニャー」
アンジュもどこか自慢げである。エクスプロードが説明を続ける。
「そして今説明した“属術陣”“武術陣”“獣術陣”を掛け合わせた“複合魔術”も存在します。かなり難しいですが、その分発動した際の威力も強力なものになっています」
「(俺の物語が進むにつれて“複合魔術”を使えるキャラもポンポン出てくるんだろうなぁ)」
【物語あるある】能力のインフレが起きる
「一応あともう一種類“魔術陣”が存在するのですが、今ではほとんど使われていないので今回は説明を省きます。皆さんに適性のあった“魔術”はどれに該当しましたか? それによって今後受講する授業を考えるのも一つの手です。では今日の授業は以上です。ありがとうございました」
「ありがとうございました〜!」
生徒達はエクスプロードにお礼を言い、そのまま残って復習に励む生徒も居れば、すぐに教室を出ていく生徒も居た。
「ユージーンとヘルデはこの後どうする?」
「僕は気になってる授業があるのでそれを受けようかと」
「私ももう一つ授業を受けてお昼ご飯かな〜。ヴァイスハイトの食堂も楽しみにしてるのよね」
「食堂! 確かに楽しみだな! 二人とも授業受ける感じか〜。俺はどうしよっかな」
キセキは履修要項を開き、次の時間帯の授業を調べた。
「……ん!? この「箒術基礎」ってもしかして空飛ぶ箒に乗るってこと!?」
「そうね。箒の基本的な乗り方や操作方法を学ぶのだと思うわ」
「じゃあ俺これにしよう! やっとそれっぽいのが出てきたじゃねぇか!」
「それっぽいって……何ですか?」
ユージーンに質問されてキセキは我に返った。
「あっ、いや、何でもない!」
「……?」
キセキの発言に二人はキョトンとしていた。
「(あっぶね〜。いや、ほぼアウトか。こういう発言してるからたまに意味のわからないこと言うってアキュアにも言われるんだよな。気をつけないと)とにかく俺は「箒術基礎」受けるよ! 二人が受けたいのは違う授業?」
「私は「使い魔飼育術基礎」!」
「僕は「地歴学基礎」です」
「見事に分かれちゃったな。じゃあまた昼休憩に食堂で会おう!」
「そうね!」
「そうしましょう!」
三人はそう話してそれぞれ自身の受ける授業の指定された場所へと向かった。
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